テラーノベル
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人が傷ついているのを見て安心する。
そんなこと最低だと脳内ではわかっている。でも、今回に限っては許してほしい。弐十ちゃんのことを怖いと思うことはなかったけど。それでも、異常事態の中で普段と変わらない人は、一番異常な存在だと思う。
熱にうなされている弐十ちゃんを見ながら、誰に言うでもない言い訳をする。
「せんせー、なんか買ってくるものある?」
「ん、キャメか、おはよ」
「うん、おはよう」
スーパーが開くのは大半10時からだからまだ数時間ある。だから、
「コンビニで、なんか冷やせるものとウィダーインゼリーとか買うてきて」
「了解」
「あと、俺らが食うもん」
「はいはい」
キルちゃんはさっきまでずっと弐十ちゃんの手を握りしめていたけど、ついさっきシャワーに向かった。
弐十ちゃんの熱がいつまで続くか分からなかったし、俺たちが体調を崩すわけにはいかない。いまだ気持ちよさそうに眠りこけるニキを無理に起こさないのも同じ理由だ。
それに、今日のうちにあの男をどう処理するかまで決めなくてはならない。
スーパーが開く時間になったらもう一度キャメに買い物に出てもらって体温計とアイスノンを買ってきてもらって、それと、もう1つ。ここのホテルだ。昨日は急だったから1週間分の予約しかできていない。どうせなら1カ月くらいとってしまおう。金は十二分にある。両親が貯めとってくれた貯金残高が火を噴くぞ!なんてことを考える。
あとは、弐十ちゃんの着替えとかは、一旦あそこに戻らないといけない。キルは論外としてキャメも、無いな。結果的に消去法として、
「ニキか、」
「俺が何」
「うお!びっくりした!いつから起きとったん」
「ん、今さっき。それで、俺がどうしたの」
「着替えとか取りに行かんとなって、」
「あーぁ、まぁ、あの2人には任せらんないもんね」
「そ」
「ボビーも付いてくるでしょ?」
「え、俺も?」
「昨日なんか持ってたの、俺ちゃんと見てたからね」
「あぁ、それか、うん」
もって来たのは男の保険証とスマートフォン。あと、たぶんだけど名刺。肩書はまぁまぁ上の方。
「見して」
「そこ、」
部屋の角を指さす。
「お、開いた」
「マジ?」
「0401、弐十ちゃんの誕生日だね、」
「ほんと、キモイな」
「ははは、スマホの中、弐十ちゃんのことばっかだ。消された配信のアーカイブまで全部保存されてる。しかもさ、」
ニキがスマホの画面をスクロールするたびに、部屋の空気がどんどん重くなっていく。まるで濡れた服でも来てるみたいに。
保存されているのは配信だけじゃなくて、
コラボ配信や動画は勿論、タバコの銘柄や食べたもののメモ、配信内で弐十ちゃんが行った場所や発言をした場所の写真。
咳をした瞬間なんかはそれぞれ日日付ごとに切り抜かれてフォルダわけまでされている。
そして、そこには行為中と見られるものもいくつかあって、
「……うわぁ」
思わず声が漏れてしまう。
「、編集して動画でも作ろうとしとったんかな、」
「さぁ?後で本人に聞いてみる?」
二キが笑うのを失敗したみたいな顔をする。
コンコン
ニキと2人、肩が跳ねる。
「キャメだよね」
「そうや思う、けど、」
もう1度、控えめなノック音。
ニキと顔を見合わせて互いに押し付けあう。
弐十ちゃんが軽く俺の手を握っているのを見つけたニキがため息をついてからゆっくりと立ち上がる。
「ただいま」
鍵を開けるとコンビニ袋を片手にぶら下げたキャメが立っていた。
「おん、お、お帰り」
「アイスいろいろ探したけど、あんまりいいのなかったよ」
「はは、なんか、キャメお父さんみたいやんな」
「えー、まだそんな年じゃないよ?」
キャメとそんな会話をしながらニキとほっと胸を撫でおろす。
「あ、ねぇ、俺たち一緒に住まない?」
ニキの一見唐突にな言葉にはそう驚かなかった。
「昨日からずっと、考えてたんだけどさ。俺、今家小さいじゃん?」
「せやな」
「一番稼いでるのにね」
「あと部屋汚い」
「それは今いいから。でさ、新しく5人で住める家買ってさ、一緒に、いよ?」
昨日から全員一致しているであろうこと。
弐十ちゃんを一人にしたくない。弐十ちゃんにもう傷ついてほしくない。弐十ちゃんを——
それには一緒に住んでしまうのが手っ取り早いのは言うまでもなく。
「ん、あれ、せんせー、」
「お、弐十ちゃん起きた?起きて早々悪いけど、体温計、熱は勝手や」
体温計を受け取ると37.2、解熱剤が効いているとはいえ低いからきっとまたこれから上がるのだろう。
今のうちに水分補給をしてもらい再びベッドに横になってもらう。
ニキがゆっくりと近づき、ベッドに腰かける。
汗で顔に張り付いた弐十ちゃんの前髪をかき上げて寝物語でも話すみたいに優しく話す。
「ねぇ弐十ちゃん、一緒に住まない?」
「ニキくんと、俺で?」
「んー、今いるみんなで?かな」
「なんで?」
「なんでって、そりゃ、」
その言葉にシャワーから戻ってきたばっかのキルが声を荒げる。それは間違いなく心配からであるのは明らかで、
「まさかあの家に戻るとか言わないよね?」
「え、戻るけど?」
「お前さぁ!いい加減分かれよ!」
「トルテさんあんま大きい声出さないでよ」
「お前が自分のこと全然大事にしねえからだろ!」
その言葉で。
弐十ちゃんの表情が、初めて止まった。
それは、笑顔でもなくて、困り顔でもなくて、取り繕った顔でもなくて、
あいにくのことながら、泣きそうな顔でもない。
ただただ疑問ですと言わんばかりに真っすぐな目。
「……自分のこと?」
熱に浮かされたみたいな声だった。実際に熱に浮かされてはいるのだけれども、
「俺、ちゃんと自分のこと、大事にしてるよ?」
たぶんだけど。その場にいた全員が、同じことを思った。あ、こいつ本気で言ってるって。
その言葉を最後に弐十ちゃんは再び眠ってしまった。
「いい、提案だと、思ったんだけどなぁ」
「いっそのこと動画の企画っていえば何とかなるかもね、」
「それだ!/あぁ!」
キャメの言葉に俺とキルちゃんの声が重なる。
企画って言ってしまえば、疑問を持ちつつも弐十ちゃんはきっと受け入れてくれる。
それに——
これを機に、思いっきり弐十ちゃんをコーディネートすることができる。
弐十ちゃんは壊滅的なまでにファッションセンスがない。それはもう今どき中学生でも許されないようなかっこで外を出歩く。
せっかくかっこよくて、おまけにスタイルもいいのに。
「ボビー、このホテルって、最長どれくらい泊まれる?」
「まぁ、ぶちゃけいくらでも大丈夫やけど、清掃とか考えると2カ月くらい何とちゃう?」
「じゃぁそれまでに家買っちゃおうか!」
でも、その前にやっぱり、
「ニキ、そろそろいこか?」
「ん?あぁ、そうだね」
弐十ちゃんの鍵をこっそりと拝借して、弐十ちゃんの家、もといあの男のところへ。
キルとキャメはなんも言わなかった。
多分気づいてる。
「昨日ぶりだね」
「せやね」
コメント
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この話今見つけましたけどめっちゃ好きです!!