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弐十くんは熱があるとは思えないほど穏やかな表情で眠っていた。
本当は俺もあの2人についていきたかったけど、残された理由は分かっているから、おとなしくキルちゃんと2人で、弐十くんの看病をこなす。
「キャメさん、おれ、あんなことが言いたかったんじゃない、んだよね」
「うん」
「ほんとは、もっと」
「大丈夫。ちゃんと、分かってるよ」
ニキ君とせんせーはキルちゃんよりも年下だから、言えなかったのだろう。
2人がいなくなった瞬間、そう弱音を吐くキルちゃんを見てそう思った。
「どうしたら、うまく伝えられんのかなぁ、」
「それは、これから一緒に頑張ろうよ。一緒に住むんでしょ?これから」
「そう、だね」
異常なのがどちらかと言われたら、異常事態であるのにも関わらず正常な状態を、いつも通りの状態を維持している弐十くんであることは間違いない。
でも、——
どっちが悪いってことはたぶんないんだと思う。
弐十くんは自分の価値観の中で真っすぐに進んでいて、それは決して悪いことではない。他の人から見たら茨道でも遠回りでも、彼にとってはそれが真っすぐな、最短距離で正しい道なんだと思う。
キルちゃんは少し不器用で、口が悪いけど、それは彼自身のせいではなくて、本当は裏表のない、熱いやつだっていうのも長いこと付き合っていればちゃんとわかる。
いつもはそこが上手くかみ合っていた。けれど今回は、今回だけは、いつも通りの弐十くんといつも通りではないキルちゃんだったから、かみ合わなくなっちゃっただけ。
看病をしていて思ったが、たぶん、キルちゃんは看病をするのもされるのもあまり慣れていない。
生きていれば、誰もが慣れるであろうその行為に不慣れなキルちゃん。
それでも、恐る恐る弐十くんの頭をなでるキルちゃんが弐十くんのことを大切に思っているのは誰の目から見ても明らかだった。きっと、分かっていないのは当の本人であるこの2人だけ。
キルちゃんは自分で思っている以上に弐十くんのことを大切に思っているし、大切にしている。できている。
弐十くんは、自分の想定よりもキルちゃんに好かれていることが分かっているのだろうか?俺も、他のみんなもみんな、彼を大切だと、かけがえのない存在だと思っているのは、果たしてどこまで伝わっているのだろうか。
3分の1も伝わっている気がしない。3分の1の純情な感情。果たして本当にそうか?と疑問に思うことは多々あれど、とりあえずはそういうことにしておく。
「ねぇ、キャメさん、」
「ん、どうした」
「おれ、どうすればよかったと思う、」
「どうしたの急に、」
「どっから間違えちゃったの、おれ、お前がいないと生きてけないって、弐十くんに伝えたつもりだった。でも、」
「それも、みんなで考えないとだね」
でも、たぶん、きっと、
「キルちゃんはよくやったと思うよ。頑張ったね」
それは勿論、ニキ君もせんせーも、たぶんだけど俺も。
そして何より、
「弐十くんも」
キルちゃんのサラサラとした金髪を優しくなでる。
泣いてもいいし、別に泣けなくてもいい。だって、それが俺たちだから。
弐十くんに俺たちの気持ちを伝えるのなんていつになってもいい。伝わるまで、そばに居続けるから。これから先、いくらでも時間はある。だって、彼は今ちゃんと生きているから。怪我はしているけど五体満足でどこもかけることなく、ちゃんと、息をしている。生きている。
それに、酷く安心する。
ぷつんと、音を立てて、張り詰めていた糸が、やっと切れた気がした。
「ん゛」
弐十くんが目を覚ました。熱が上がったのか目はどこか虚ろで、一瞬だけ、あの家でのことを思い出す。
「辛いかもだけど、体温測ろっか」
ぼうっとしている弐十くんに水を飲ませて、体温計を渡す。解熱剤はまだ飲ませられないから、せめてもと、コップの中には氷を入れていた。
表示を確認すると確かにだいぶ上がっていた。
「なんど、だった?」
「んー、さっきとあんまり変わってないよ」
弐十くん本人にはあえてそう言って、キルちゃんに体温計を渡す。
別に見本というわけじゃないけど、看病ってこういう風にするんだよって、分かりやすいように。
「弐十くん、なんか、欲しい物とか、俺にしてほしいこととか、あるなら聞くけど、」
「あはは、トルテさんが?珍しいね、じゃぁ、ここにいて」
「そんだけでいいの、」
「あと、手握っててよ、昨日寝る時そうしてたでしょ」
「おきてたの」
「うん」
「そっか、さっき、怒鳴ってごめん」
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「いいよ、別に」
やっぱり若いっていいね、2人とはそこまで年が離れていないけれども、そう思う。
着信音がしてスマホを確認するとニキ君からメッセージが届いていた。どうやら男の”処理”は無事に済んだらしい。
どうせなら俺が直接殺したかったんだけどな、と思いながらも、あの2人ならギリギリ犯罪にはならないだろうことを悟る。いったいなにしたのかな、脅しただけ、とかならあまりの易しさに笑ってしまうけど。
キルちゃんや俺が行っていたら男の命なんてもうなかっただろう。きっと、それはまだ詳しく事情を知らないシードくんも同様だ。りいちょ君はどうだろうか、残念ながら彼の考えは分からないな。衝動に任せてやってしまいそうな気はするけども、
「ニキ君から連絡。2人ともなんか欲しい物ある?」
「んー、バイ〇、次の、配信でやるって、言ったから、」
「了解!キルちゃんは?」
「あー、なんか甘い物?」
「はいよ」
そのまま、しばらく話していると弐十くんはまたうつらうつらし始め、
「俺たちはここにいるから、安心して眠っていいよ」
「ほんと、」
「うん」
弐十くんが完全に眠ってからもぽつぽつと、キルちゃんと他愛のないことを話す。
「カーテン、何色にする?」
「メンカラでいいんじゃない?」
「俺たち別にメンカラ決まってなくない?」
「結構かぶってんの多いしね」
コンコンコン
「お、帰ってきたみたいだね」
「ね」
キルちゃんは弐十くんと手をつないでいたから俺がドアを開ける。
「わぁお、随分と大荷物だね」