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# 一生 そばにいて .
302
朝の光がカーテンの隙間から差し込むシクフォニ・ハウスの寝室で、すちはいつも通り静かに目を覚ました。
時計の針はすでに午前七時半を指している。
いつもなら自分と同じか、
あるいは少し遅れて起きてきてキッチンを手伝ってくれるはずの同室のみことが、
まだベッドから起きてくる気配がまったくない。
「……みこちゃん?」
すちは部屋へ戻り、ベッドへゆっくりと近づいた。
みことは頭まですっぽりと毛布を被り、小さく丸まっている。
「みこちゃん、朝だよ。起きられる?」
呼びかけても、
毛布の奥から「ん……ぅ……」と小さく苦しそうな声が漏れるだけだった。
違和感を覚えたすちがそっと毛布の端を持ち上げ、顔を覗き込む。
「みこちゃん、どうし――」
めくられた毛布の下で、みことは肩で小さく息をしながら、顔を林檎のように真っ赤に染めていた。
いつもは透き通るような白い肌が熱を帯び、金髪の前髪が汗で額に張り付いている。
潤んだ瞳でぼんやりとすちを見上げる姿は、見るからに高熱でぐったりとしていた。
「……すちくん……ごめんね……今日、起きれなくて……」
掠れた声で、それでも申し訳なさそうに謝ろうとするみことに、
すちはすぐに冷静さを取り戻しつつも、胸の奥がきゅっと締め付けられるのを感じた。
「謝らなくていいから。ちょっと触るよ」
すちは優しく声をかけながら、自分の手のひらをみことの熱い額にそっと当てる。
手のひらから伝わってくる熱気に、すちは小さく眉をひそめた。
「すごい熱だね……。昨日まで元気だったのに、急に上がっちゃったのかな」
「うん……なんだか、身体がふわふわして……重たいの……」
みことは熱のせいでぽろぽろと零れそうになる涙を必死に堪えながら、すちのシャツの袖を弱々しい力でぎゅっと掴んだ。
普段は天然で王子様然としている彼女が、熱のせいで完全に甘えモードになっている。
「大丈夫だよ、みこちゃん。
俺がずっと側にいるからね」
すちは空いているほうの手で、みことの熱い手を優しく包み込んだ。
みことはその心地よい手の冷たさに、安心したように目を細めて吐息を漏らす。
「まずはリビングに行って、冷えピタとスポーツドリンク取ってくるね。
あと、みんなにも今日のみこちゃんの調子のこと伝えて静かにしてもらうから」
「……行っちゃうの……?」
掴んでいた袖を離すのをためらうように、みことが潤んだ瞳で見つめてくる。
そのあまりに心細そうな表情に、すちの胸はもう一度強く揺さぶられた。
「すぐ戻るよ。三分……いや、一分で戻ってくるから、いい子で待ってて?」
すちがベッドの端に腰掛けたまま、
みことの汗ばんだ前髪を優しく払って額に軽く自分の額をコツンと当てて熱を測る仕草をすると、みことは「……うん」と小さく頷いた。
「すぐ戻るからね」
すちは布団をみことの肩までしっかり掛け直し、足早に寝室のドアを開けてリビングへと向かった。
リビングではちょうど起きてきたLANやいるま、こさめや暇72が朝食の準備を始めようとしていたが、
すちのただならぬ様子にすぐに気づくことになる。
いつもはマイペースなすちが、この日は誰よりも過保護に、
一日中みことの看病にかかりきりになる特別な一日が始まろうとしていた。
「おはよー、すっちー! みこちゃんはまだ寝て――」
「みんな、ちょっと静かにして」
すちの切迫した、けれど低く抑えた声に、リビングの空気が一瞬で引き締まる。
「みこと、すごい熱出してる。
38度以上あるかもしれない。
今日はずっと寝かせてあげたいから、なるべく音立てないでほしい」
「えっ、みこちゃんが!?」
LANが驚愕して声を張り上げそうになり、隣にいたいるまがすかさずLANの口を掌で塞いだ。
「 声がデカい、LAN! ……すち、冷えピタと解熱剤、あとスポドリだな? 救急箱のやつ持ってくか?」
「うん、お願い。あと、みことが食べられそうなゼリーとか、冷たいものが切れてるから……」
「よし、俺とLANで近所のドラッグストア行って買い出ししてくる。LAN、鍵持ってこい、すぐ出るぞ」
「わ、分かった! こさめ、なつ、お留守番頼んだよ!」
いるまは瞬時に必要なものをメモにまとめると、パニックになりかけるLANの首根っこを掴んで玄関へと向かった。
いるまの素早い判断で、二人はあっという間に買い出しへと飛び出していく。
-–
リビングに残されたこさめと暇72は、心配そうに顔を見合わせた。
「みこちゃん、大丈夫かな……昨日あんなに元気だったのにぃ」
「……ちょっと様子見に行ってみるか。起こさないように」
二人は抜き足差し足で二階の寝室へと上がり、ほんの少しだけ開いていたドアの隙間からそっと中を覗き込んだ。
部屋の中では、すちがみことの枕元に椅子を引き寄せ、冷たいタオルでみことの首筋や額の汗を丁寧に拭き取っているところだった。
ベッドの上のみことは、荒い呼吸を繰り返しながら苦しそうに身じろぎしている。
「みこちゃ……」
心配のあまり、こさめが思わず身を乗り出して足音をパタッと鳴らしてしまった。
さらに暇72が「こさめ、あんまり近づくと――」と小声で止めようとした、その瞬間。
すちがサッと振り返り、人差し指を自分の唇に当てた。
「……二人とも、静かにっ」
いつもはおっとりマイペースなすちが、鋭く、けれど部屋に響かないギリギリの小さな声で二人を制した。
その瞳には、弱っている恋人を絶対に刺激させたくないという強い過保護さが滲み出ている。
「みこちゃん、今やっとうとうとしかけてるんだから。
心配なのはわかるけど、入るなら音立てないで」
「……っ、ごめん、すち……」
こさめはしゅんと肩を落とし、暇72も「…悪かった……」と申し訳なさそうに眉を下げた。
その声に反応したのか、ベッドの中からみことが弱々しくまぶたを持ち上げた。
「……ん……こさめちゃん……なっちゃん……?」
「あ、みこちゃん、起こしちゃってごめんね……!」
こさめが小走りでベッドサイドに駆け寄り、暇72もそっとその隣に立つ。
「みこと、無理して喋んないで。いるまとらんが冷たいゼリーとか買いに行ってっから」
「うん……二人とも、ありがとう……。、大丈夫だから……心配しないで……」
ふにゃりと消え入りそうな笑顔を見せるみことに、暇72はそっと布団を掛け直してやり、こさめはみことの手を両手で優しく包み込んだ。
「早くよくなってね、みこちゃん。リビングでいい子にして待ってるからね
「うん、また後で顔出すから」
二人はすちに「ごめんね、お大事にね」と目配せを残し、
今度こそ静かに足音を忍ばせて部屋を出ていった。
-–
再び静まり返った部屋で、すちは椅子に座り直し、みことの熱い手を自分の両手でそっと握りしめた。
「……すちくん、怒らないであげて……二人とも、心配してくれただけだから……」
熱でボーッとする頭のまま、みことがすちの服の裾を弱々しく引っ張る。
すちは困ったように、けれどたまらなく愛おしそうに眉を下げた。
「怒ってないよ。ちょっと気が立っちゃっただけ。みこちゃんがこんなに苦しそうなのに、ゆっくり眠れなかったら可哀想だから」
すちは空いているほうの手で、みことの汗ばんだ前髪を優しくかき分け、その額にそっと触れた。
「すちの手……ひんやりしてて、気持ちいい……」
「ずっとこうしててあげる。だから何も心配しないで、目を閉じて」
「……すちくん、どこにも行かない?」
「行かないよ。みことが元気になるまで、一歩もここから離れない」
すちがベッドサイドに身を乗り出し、みことの耳元で優しく囁く。
その低くて穏やかな声と、しっかりと握られた手のぬくもりに包まれて、
みことはようやく強張っていた身体の力を抜いた。
「すちくん……だいすき……」
「うん、俺も大好きだよ。おやすみ、みこちゃん」
すちがみことの熱い頬にそっと口づけを落とすと、
みことは安心しきった寝息を立て始め、深い眠りへと落ちていった。
下に降りれば、きっと買い出しから戻ったLANといるまがゼリーを冷やしているはずだ。
みんなの温かい気配を階下に感じながら、
すちは愛しい彼女の手を握りしめ、
静かに、そして誰よりも過保護に寄り添い続けるのだった。
コメント
4件
もう全部がすきです😭😭 まずすちみこで書いてくれたことに感謝ですしすちさんのみこちゃんをめちゃ²心配する動作に「すちみこてぇ²ーーーー!!!!!!」ってなりました笑弱々しくなってるみこちゃんに可愛すぎてキュンキュンしてました🥹💖みこちゃん早く元気になってね🍵
みぅです🤍 第7話「お熱」、拝読しました…。 すちくんの過保護っぷりがすごくて、胸がきゅんきゅんしました🥺 みこちゃんが熱で弱ってるのに「行っちゃうの…?」って袖を掴むシーン、普段の王子様キャラとのギャップが可愛すぎてやばかったです。いるまくんの瞬時の判断力とLANくんの慌てっぷりも好き。みんなでみこちゃんを大事に思ってるのが伝わってきて、温かい気持ちになりました。すちくんの「一歩も離れない」って台詞、重すぎず甘すぎず、最高でした…🌙