・迫荼
〈燈矢sib〉
下半身の鈍い痛みで目が醒めた。俺を攫ったヴィランの男は悠々自適に俺の隣で寝ていた。今まで好き勝手されたが俺もプロヒーローだ。それに抜け出すなら今しかない。足に着けられていた鎖も今は外されている。ズキズキと痛む体に鞭を打つようにして静かにベットから降りる。床に散らばっていた自分の服を着ながら扉に近づく。鍵が掛かっていると思った扉はいとも簡単に開いた。気を緩めそうになるのをぐっと堪えて部屋の外に出た。取り敢えず自分の携帯を探す。玄関に近い場所に置いてあった。それを取りそっと玄関の扉を開ける。走るように外に出てSKに連絡する。電話のコールが何時もより長く思えてしまう。
SK『トーチさんッッッ!!!!今何処にッッッ!!無事なんですかッッッ!!!!』
「嗚呼。さっきまでヴィラン連合のMr.コンプレスに捕まってた。取り敢えず俺は無事だ。場所は〇〇区域にいる。」
SK『わかりました。今すぐにそちらに向かいますッ!!トーチさんはできる限りその場所から離れてください!』
「嗚呼、了解だ」
サイドキックとは連絡を取れた。今は此処から離れる事を優先しよう。相手がどう出るか分からない。
……何分走ったか分からない。後ろから走る音が聴こえる。まずいとしか言いようがない。
SK『トーチさん。〇〇区域に到着しました!』
「嗚呼、助かる!まだ確認出来ていないが後ろからもしかしたらMr.コンプレスが追ってきている可能性がある。」
SK『了解しました!もうすぐトーチさんと合流出来そうです!』
まだ気を緩めるな、ヒーロートーチ!靴音がしなくなった…?彼処の角で曲がって確認するしかないか…。
「居ない…?じゃあさっきまでの靴音は何だったんだ…?まぁ今はそんな事気にしなくて良いか…」
安心してしまった。その油断が駄目だった。俺は逃げる事に夢中になって忘れていた。相手があのヴィラン連合の一員だと言う事を。
「…ぇ」
Mr.「お遊びは済んだかな?燈矢くん?」
「な、なんで」
Mr.「そりゃあまぁ君を迎えに来ただけだよ。それに少しは外にも出たかったろ?」
分かっていて出したんだ。この男は…!!!今このままで居たら駄目だ。なのにッなんでッ足が動かないんだよッ!!!!!動けッ動けッ!動いてくれッ!!!!!!
「…ぁ」
パシュンと音がして俺の意識は暗闇の中に消えた。