「可愛ええやろ、僕とカフカの子は」
─────入れ
扉の向こうから凛とした声が聞こえ、保科はその声を合図に扉を開けた。
「失礼します」
そうして前を見るとそこには椅子に腰掛けたままこちらをじっと見ている亜白ミナがいた。先程まで資料を見ていたのだろう、机の上には何枚か紙が広げられている。亜白はパチリと瞬きをする。
「保科、私に話とはなん……だ…」
ガタッ
亜白の視線は自然と下がっていき、日比野の足にくっついていた小さい保科と目が合うと机に両手をつき勢いよく立ち上がった。隊長室には保科が放った圧とはまた別の、重苦しい空気が漂っていた。
「…日比野、その子は誰だ」
「えっ……と、保科副隊長…デス…」
「…そうか」
亜白は机についた両手を拳の形に変える、握り込む際手の下からくしゃりと音がし、紙がダメになったことが分かった。亜白は俯けていた顔をばっと上げ鋭い目つきで睨む、その視線の先には保科副隊長が立っていた。
「保科…貴様…」
地を這うような声に保科はビクリと肩を揺らした。
「な、なんでしょう?亜白隊長…?」
「カフカ君に……何をした…?」
びりびりと殺気を感じた。日比野は「ひぇ」と小さく悲鳴をあげ、保科はぶるりと震えた。
「いやいやいや、なんか誤解してません?!”まだ”なんもしとりませんって!」
「いやまだってなんすか?!!」
「まだ…だと?」
「あ…墓穴掘ってもうた…」
はぁ〜と、やってしまったと言わんばかりに顔を片手で覆う保科。当然それを見た亜白の放つ殺気は倍増し日比野は小さい保科を抱き込んで怯えていた。
誤解を解くのに数十分かかった。
◇◆◇◆
「ふむ…なるほどな」
事情を説明したあと、亜白は何かを思い出すように考える。
「…保科、三日前余獣が出たのを覚えているか?」
「?ええ、覚えとりますが…」
「あの時…確かお前が討伐に出たはずだが…何がなかったか?」
「………ぁ」
保科は数分間考え込み、何かを思い出したように顔を上げた。
「…話してもらおうか」
◇◆◇◆
聞いた話をまとめると、保科はその日余獣を討伐していた際に切った余獣の体液がかかってしまったが、特に異常は見られなかったため、何も言わなかったという。
「体液がかかるなんて討伐してたらしょっちゅうあることなんで、報告書には書きませんでした」
「…そうか」
「宗四郎さんが出てきた原因はそれっぽいっすね」
「そうだな、いつ戻るのか分からない現状はどうすることもできない。そのため、引き続きその子の世話を頼むぞ、日比野隊員」
「了!」
日比野はピシッと敬礼した。
◇◆◇★
失礼しましたと言いながら退出した2人は特に目的もなく廊下を歩いていた。
「いやー解決策は無くても原因は分かって良かったっすね!」
「せやな。にしても、まさかあの時のが原因やったとはなぁ」
「!!」
「おわっ、ああすみません宗四郎さん」
じたばたと日比野の腕の中で暴れた宗四郎を日比野は地面に下ろす。宗四郎は短い足で日比野の周りをちょろちょろと回り見上げる。目が合った日比野は大きな背中を丸めしゃがみ、宗四郎の頭を大きな手で撫でた。
「可愛いですねぇ」
「……そうやなぁ、”僕たちの子”はかわええわ」
「え”っ」
胸辺りがざわりとした保科は違和感を紛らわすために悪く笑みを浮かべそう言うと、日比野はビクリと大きな体を揺らし保科に顔を向けた。
「ぉ…れたちの子…って…」
「…そんな顔したアカンでカフカぁ…そんな美味そうな顔しとったら…悪い狼にすーぐ食べられてまうで?」
顔を赤くし縮こまった日比野を保科が見下ろす。普段は少し見上げる方だったから見下ろす形は保科にとって新鮮な気持ちだった。暫く見つめあったあと、保科は嬉しげに口を開く。
「さ、もうすぐで訓練の時間が始まるわ。早う準備しぃ」
「え、あ、了っ!」
慌てて日比野は宗四郎を抱えて立ち上がり、ぺこりと礼をしてから部屋に戻って行った。
◆◇★★
部屋に戻るとそこにはもう市川たちの姿はなかった。日比野は急いで身支度をしてさて出ようか、というところで立ち止まる。
「…宗四郎さん…どうしよう」
うーんと悩んだ末、連れて行くことにした。日比野は宗四郎の前に再びしゃがむ。
「訓練…宗四郎さんも一緒に行きますよ」
「!」
それを聞くと宗四郎はぴょんぴょんと尻尾を揺らしながら数回飛び跳ね、日比野に抱きつく。抱っこして連れて行って欲しいのだろう、日比野は甘いので宗四郎の脇に手を差し込んでひょいと持ち上げた。
◆★★★
「え、せ、先輩?!!その子は誰ですか?!」
訓練場に宗四郎を抱えて走って行くと、第一に見つけた市川が声を上げる。
「えーっとー…そうし…いや、保科副隊長」
「ええ?!でも今保科副隊長はあっちに!」
「うん…まぁ、色々あったんだよ…」
「色々過ぎますよ!」
「お?なんやカフカ。ソイツ連れて来たんか」
市川と話しているといつの間にか日比野の後ろに保科が立っていた。
「あ、保科副隊長。はい、部屋に置いて行くのも寂しいかなって思ったので連れて来ました」
「ほーん」
「あ、副隊長。宗四郎さんを見ててくれませんか?俺も訓練したいんで!」
「ああ、ええで、やけど…普通にカフカが言ったらお利口さんにしとくんちゃう?」
「念の為ですよ!お願いしますっ!」
両手をすり合わせてお願いする日比野に保科はうーんと考える素振りを見せる。
「んー…まぁええわ。しっかり訓練に励んで来ぃや」
「了!」
日比野は元気に返事をし訓練をしに行った。
★★★★
その会話の一部始終を市川は口をあんぐりと開けながら見ていた。日比野を見送った保科はそんな市川に声をかける。
コメント
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!?!?!?!?!? 最っっっ高 です !!!!!👍🏻 👍🏻 え 、やばい 、 え?すき ( ? ) 隊長 の 反応 が 隊長 すぎて (?)やばい ぃぃ ~ !!!🫶🏻 🫶🏻 まじ で ストーリー 神って ます ぅ 🥺 🥺
今回も最高でした😭😭😭😭💕亜白隊長、嫉妬してるんかな??もう最高!!!!続き待ってます!!!