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時計はすでに夜の11時を回っていた。レポートをやるはずだったテーブルの上には、散らかったノートと空の缶コーヒー。
結局、二人ともほとんど進まないまま、まなみはソファに沈み込んでいた。
「ん~……もう無理ぃ……」
「おい、寝るなや。終わらんやろが」
「そらとが横でずっと睨んでくるけん、集中できんの」
「……誰が睨んどるか」
「ふふ、だって、圭介くんのときより怖い顔しとる」
無自覚に放ったその言葉で、そらとの眉がぴくりと動いた。
「……お前、わざと言いよる?」
「え、なにを?」
「おれ、我慢の限界近いんわかっとらんの?」
「が、我慢ってなにが……っ」
まなみが言い終わるより早く、そらとの手がまなみの腰をつかんで引き寄せた。
一瞬で距離がゼロになる。
胸の奥が跳ねて、言葉が出てこない。
「な、なにして……」
「……おれ“だけ”見とけって言うたやろ?」
「っ、言ったけど……」
「じゃあ、おれにだけ笑え」
低い声と真剣な瞳に、まなみは息を呑んだ。
そらとはソファに押し倒すわけでもなく、ただ至近距離でじっと見つめるだけ。
けど、視線が熱すぎて逃げられない。
「……そんな顔すんなって。煽っとるん、わかっとる?」
「煽ってなんかないよ……」
「お前、ほんま自覚ないんか」
「……な、ないよ」
そらとは一瞬、目を伏せて深く息を吐いた。
そして、小さく笑った。
「……まなみ、もう知らんけん」
次の瞬間、背中を支えられて、そのままソファに押し倒された。
体温が一気に近づく。
まなみの視界いっぱいに、そらとの顔がある。
「っ……そ、そらと、待って……」
「待てん」
吐息が頬にかかるたび、心臓が痛いくらい跳ねた。
しばらく見下ろしたまま、そらとはまなみの頬にそっと指を這わせる。
爪先で触れるだけなのに、全身がびくりと震えた。
「……おれ、ほんとは今日、お前抱きしめたくてしゃーなかった」
「そ、そんなん言わんでよ……」
「言わな我慢できんっちゃ」
声がかすかに震えていて、逆に余裕がないのが伝わる。
まなみは困ったように笑って、小さく呟いた。
「……そらとに抱きしめてもらうの、イヤやないよ」
一瞬、空気が変わった。
そらとの瞳が大きく見開かれたかと思えば、次の瞬間、強く抱きしめられる。
「……ほんま、お前反則やわ」
低い声が耳元で響いて、体中が熱くなる。
しばらく抱きしめられたまま、そらとは小さくつぶやいた。
「……今日は、ここまで」
「……“今日は”?」
「次は……覚悟しとけ」
熱を帯びた声で囁かれ、まなみはただ顔を真っ赤にして頷くしかなかった。