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バイト終わりの夜。カフェの制服のまま、まなみはお客さんを笑顔で見送っていた。
「また来てくださいね~」
「うん、じゃあLINEしとくね!」
――その会話を、入り口の外からそらとは見ていた。
バイト帰りを迎えに来たのに、目の前の光景で胸の奥がじりじり熱くなる。
「……は?」
ドアを押し開けて入ってきたそらとは、無言でまなみの腕を掴んだ。
「ちょ、そらと!? なんで急にっ」
「帰るぞ」
「ま、待って制服まだ着とるけん、着替え──」
「着替えは後でよか」
低い声でそう言われた瞬間、まなみは背筋をぴくりと震わせた。
普段は冗談まじりで優しいそらとが、こんな声を出すのは珍しい。
着替えを済ませたまなみは、そらとの待つ駐車場へ向かった。
車の助手席に乗り込むと、そらとは無言のままエンジンをかける。
「そ、そらと……?」
「さっきの奴、誰や」
「え、さっきって……お客さんやけど」
「お客さんにLINE教えよったん?」
「いやいや、違うよ、向こうが勝手に──」
「勝手にでも断れ」
短く吐き捨てるような声。
まなみは思わず口を噤んだ。
だけど、心の奥がちょっとだけ甘く疼いてしまう。
「……そらと、もしかして嫉妬しとるん?」
「は?……するわけなかやろ」
「うそや。めっちゃ顔怖いよ?」
「怖いんやなくて……腹立っとるだけや」
「ふふっ、そらとかわいい~」
笑った瞬間、そらとの目がぎろりとまなみを射抜いた。
車内の空気が一気に熱くなる。
「……なぁ、まなみ」
「ん?」
「おれが今どんくらいお前にイラついとるか、わかっとる?」
「え……」
「そんなん無自覚で笑っとったら、帰るまで理性もたんぞ」
一瞬で息が止まった。
そらとの視線が熱くて、まなみは顔を真っ赤にする。
「っ、そらと……」
「なに」
「……怒っとる?」
「怒っとるっちゃ」
「じゃあ、どーしたら許してくれるん?」
「……おれにだけ、そうやって笑え」
まなみは一瞬きょとんとした後、恥ずかしそうに微笑んだ。
「……じゃあ、そらとだけに笑う」
「……っ」
その瞬間、そらとは耐えきれなくなったようにハンドルを握る手を離し、まなみの顎をそっと掴む。
「……ほんま、おれのこと煽っとんやろ」
「ちがう、無自覚やもん……」
「無自覚が一番たち悪いっちゃ」
吐息が触れる距離で低く囁かれて、まなみの胸が大きく跳ねた。
次の瞬間、そらとはまなみを強く抱き寄せた。
「……もう帰ろ。部屋でちゃんと話すけん」
「……“話す”だけ?」
「知らん。お前次第」
その声は、耳元で熱く残った。