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こちらへ戻ってこようとしていたリーナだったが、足がその場で止まる。
横手の方にふいっと顔を逸らしたかと思えば、上着の裾を強く握りしめた。
「やはり先生には隠し通せませんでしたか……」
やがて、ぼそりと呟く。
「久しぶりに再会したんです。先生の生徒として、魔術も魔法もうまく使えるところを、先生がいない間にも成長した姿をお見せしたいと思っていたのですが……」
「なるほど、それが理由でワイルドボアくらいの強くはない相手に、あんな大技に出たんだな」
「申し訳ありません。大技であれば、細かい操作に不安があっても見抜かれないだろうと考えました。やはり先生の目には敵いませんね」
声はだんだんと暗くなり、最後には消え入りそうなくらい小さくなる。
とぼとぼとした足取りで馬の方へと戻る彼女の背中は、急に頼りない。
魔法学校の理事を務めるまでになったとはいえ、まだまだ20と若い彼女だ。容姿や振る舞いは立派に大人になったとはいえ、まだ精神的に脆い部分もあるのだろう。
そんなかつての生徒の姿を見てしまって、力にならないわけにはいかない。
――ひとつ、思い当たる理由もあった。
「リーナ、ここで少し魔法を使ってみてはくれないかな。あの木の前にある岩に水球を当てるんだ。威力はなくてもいい」
検証のため、彼女にこう頼みこむ。
「うまくいきませんよ、今の状態では」
「それでもいいんだよ。とにかくやって見せてくれればいい」
「……分かりました」
リーナは腕輪を外し、手のひらを岩の方へと向ける。
そして、水球を作り出していくのだが……この時点で魔力の波に乱れがあった。
本来なら、それこそ川の流れのように脈々として感じるはずが、途中で遮断されているのだ。
そんな状態では、うまく扱えないのは火を見るより明らかだった。
リーナの放った水球ははじめからとんでもない場所に飛んで行ってしまう。
「やはり、ダメですね。お恥ずかしい限りです……先生に教わりながら、この程度もできないなんて。
この状態になってだいたい半年ほどです。これが、スランプというものなのでしょうか」
たしかに、スランプだと考えるのも無理はない。
これまでできていたことが、なにかのきっかけで、できなくなるという話はよくある。
でも、今回のリーナに関してはそうではない。
「魔毒だな」
魔力の流れを見て確信した俺は、再び風球を練り直そうとしていた彼女にそう告げる。
「魔毒……? それって、先生が昔教えてくれた――」
「あぁ、それだ。蛇系魔物・サーペントの肝を煎じて粉にして、作る毒だな」
「でも、そんなものを盛られた覚えはありませんよ」
「たぶん少量ずつ、何者かによって盛られたんだろうな。今のリーナの身体は、しらずのうちに毒でおかされているんだ」
「……魔毒。スランプじゃなかった……?」
「大方、リーナの失脚を目論む輩の仕業だろう。心当たりはあるか」
「……それは、正直いろいろ。理事の立場がありますから狙われやすいんです。
それより、どうすればよいのでしょうか。魔毒といえば、かなり厄介なものだったと記憶しているのですが」
そう、この魔毒に侵された場合、光属性魔法・ヒールで簡単に治りはしない。
進行が目立たない分、治りも悪いのだ。光属性の力を貯めたポーションで、時間をかけてその力を取り除いていくほかない。
――あくまで、属性魔法しか使えないのならばの話だが。