テラーノベル
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「……くうちゃん、お腹空いたやろ? 一緒になんか作る?」
「ん……俺、はんちゃんが作ったご飯が食べたい」
「……それ、ただ面倒くさがってるだけじゃない?」
「……ん?」
とぼけた顔で首を傾げる彼に、思わず吹き出す。
まあ、えっか。さっきまであんなに塞ぎ込んでたのに、今はもうこんなに元気なんやもん。それだけで、今は十分にめでたいことなんやから。
「さっと作ってくるから、寝て待っといて。一気にいっぱい喋ったから疲れたやろ?」
ちゆっ、と音を立てて、彼の柔らかな唇に自分のを重ねた。くうちゃんが、慈しむように優しく目を細める。
「……俺のお豆さん、可愛いなぁ」
「……お豆さん?」
聞き捨てならない単語に、動きが止まる。それ、俺が子供の頃に嫌っていたあだ名やん。
「……そう。俺がつけてん、そのあだ名」
「えっ? 名付け親、くうちゃんやったん!?」
衝撃の事実に目を見開いた。まさか、あんなに嫌がっていた呼び名の元凶が目の前の大好きな人やったなんて。
「うん。当時のはんちゃんが可愛すぎて、影でこっそり呼んでてん。そしたら他の奴らにバレて、そいつらも呼び出して……」
「……俺、あのあだ名、ほんまに嫌やったわぁ」
「そうやんなぁ。で、それに気づいたもとちゃんが『そのあだ名で呼ぶのやめろ、はんちゃんが嫌がってるやろ!』ってブチ切れたんよ。俺、もとちゃんがあんなに怒るの初めて見たわ」
あの温厚なもとちゃんが、俺のために……。
もしかしてその頃から俺の事好きでいてくれたんかな?
「あかん……迂闊にも、もとちゃんにキュンとした……」
「うぇ!? あかん!はんちゃんは俺のもんなんやからな! あのムッツリ変態スケベ男にはやらん!」
「俺のあだ名より、そっち酷すぎるやろ」
「ムッツリ変態スケベ」に比べれば、「お豆さん」の方がよっぽどマシに思えてくる。一体もとちゃんは、裏でどんな話をしてたら、そんな風に言われるようになったんやろう。
「……よかった。くうちゃん、元気出てきたな?」
ピンク色に染まった頬。それは、俺の知っている「可愛いくうちゃん」そのものや。
「うん、はんちゃんのおかげ。……ご飯のあとで、もっと元気ちょうだいな?」
その言葉の裏にある意味は、言わずもがなわかってる。けど、その前にしないといけないことがあるやろ?
「その前に、お散歩。外に出る練習しよ。ついでにコンビニ行って、色々買お?」
「……はんちゃん、色々って」
「あほ。食後のデザート、や。さっきまで伏せてたやつが何期待してんの?」
「……え?俺はポテチ買おうとおもてただけやけど。期待してんのはんちゃんやろ?」
本気か冗談か分からないやり取りを交わしながら、笑い合ってもう一度深く、熱いキスを交わす。
くうちゃんの、嘘だらけの恋がなければ、この幸せに辿り着くことはなかった。
今はただ、彼がついてくれた全ての嘘に感謝して。重なる体温のすべてを、幸せとして噛み締めよう。
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