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はんちゃんが優しい。
……そんなところが、心底好きやったんやけど。
高校の卒業と同時に、俺は十年の片想いを無理やり終わらせた。新や空と無邪気にはしゃぐ、キラキラしたこの人を見て、「ああ、俺じゃ無理やな」って悟ったから。
子供の頃の「ただ好き」って純粋な感情も、思春期になればどうしても欲が混ざる。俺の頭の中では、こんなに可愛いはんちゃんを独り占めしたいだなんて、大それた夢を見るようになってしまった。
――大好きなはんちゃんを守るためには、俺みたいな奴が側にいたらあかん。
本気でそう思って、距離を置いたはずやったのに。
「もとちゃん、これ好きやったやろ? 俺の分も食べてええで?」
休日のカフェ。空と付き合うことになった報告を受けたものの、当のはんちゃんは惚気話をするわけでもない。それどころか、「悩み事はない?」とか「困った時は助けるからな」なんて、まるで巣立った我が子を心配する親みたいな顔をしてる。
いや、何があったん? なんでそんなマリア様みたいな顔なん?
「いいよ、はんちゃんが食べ。美味しいんやろ? 幸せそうな顔して食べとったやん」
「ううん、俺は美味しいものをもとちゃんとシェアしたいねん。幸せは二人で分け合った方がええやろ?」
ほら、これや。
「あーん」こそしてくれへんけど、空気感は完全にカップルのそれやん。空との交際宣言を聞かされてなかったら、俺、勘違いして確実にはんちゃんの事又好きになってたで?ほんまに危機感ゼロなんやから。
「……俺は、安定してて今の生活は上手くいってるから大丈夫やで?逆に、はんちゃんは? はんちゃんは悩み事とかないん?」
正直、俺の方にはほんまに心配されるような悩みなんてない。仕事だって、嫌な客が来ても笑顔でのらりくらりとかわす技を、もう身につけてるしな。
「ん? 俺? 全部順風満帆かな! くうちゃんとも上手くいってるし、仕事場でもおもろい同僚がおるから、毎日楽しいし」
「あー、同僚はええな。そういう話聞いたら、俺もそこは羨ましいわ」
「俺の仕事場、おばちゃんとおじちゃんばっかりやからな」と自嘲気味に笑う。みんな優しくて好きなんやけど、やっぱり「おもろい同僚」は欲しかった。期待してた奴らは、みんな早々に辞めていったし。
「ほんっま、明るくておもろい奴でさ。変化球多すぎて、毎日笑い死にしそうになってるねん」
「マジで!? ゆうととか、空よりも?」
「ほんま、種類がちゃうで。あれはある種の天才やわ」
はんちゃんにそこまで言わせる奴、どんなキャラやねん。めちゃくちゃ会ってみたい。
これから先、他のメンバーはみんな恋人同士の時間が増えて、俺がぼっち になるのは火を見るより明らかやからな。
「自称ポエマーでさ、将来はそれで食っていきたいらしいねん。それに、俺に告白した時だって……」
「あ」と、はんちゃんがバツの悪そうな顔で口を押さえた。……はんちゃんに告白?
「……相変わらずはんちゃんはモテるなあ。やっぱそこも羨ましいわ」
「いや、ちゃうねん、もとちゃん! 重要なのはそこじゃないねん。ポエマーの部分やねん」
はんちゃんが、可愛く必死な顔で訴えてくる。……告白された事実を超える重要さって一体何なん?
「もとちゃんなら、メッセージカードで告白するならなんて書く?」
「……え、普通に『好きです』とかやろ?」
「名ポエマーはちゃうんよ。……漢字二文字に、三十文字のルビがつくねん」
「……は?」
なにそれ。ポエムの世界、深すぎて一般人の俺には一ミリも伝わらへん。
「例えば、夏目漱石の『月が綺麗ですね』って知ってる?」
「……知らん」
「もぉー!! もとちゃん、話終わってもうたやん! そこから勉強してきて!」
「ふふっ、ごめん。でも、はんちゃんの仕事仲間が面白そうな奴やってことは、十分伝わったわ」
「……ほんまにな、俺が落ち込んでる時に何度もその明るさと面白さで助けてくれた、めっちゃいいやつなんよ」
はんちゃんが、空以外の誰かのことをこんなに楽しそうに話すなんて。
……正直、ちょっとだけ羨ましい。
俺のことも、誰かにこんな風に話してくれてたりせえへんかななんて、ちょっとだけ嫉妬してしまった自分がおる。
「でさ、今度その子と遊びに行こうって言うてるんやけど、もとちゃんも来ん?」
「……え?」
何の組み合わせや、それ。俺、一ミリも関係なくないか?
「……空、連れていった方が安心するんちゃう?」
「ううん、それがその子とくうちゃん、ちょっとあって……因縁の仲っていうか」
はんちゃんが言い難そうに顔を歪める。あー、なるほどな。
空の告白とその子の告白、時期が被ったんやろ。もしもう少し早く、俺がはんちゃんに優しくされてたら、確実にその争奪戦に巻き込まれてたわけか。こわー、俺勝ち目なさすぎるやろ。
「流石に、俺のこと好きやった人と二人きりでは遊びに行けへんやん? 俺、くうちゃんに嘘つきたくないし。……もとちゃんなら誰にでも平等に優しくできるやん? だから、適役かなって」
なんか、はんちゃんの都合のいいように頭数に入れられた気がするけど、不思議と嫌な気はしなかった。まあ、わがまま言えるのが友達やしな。