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俺が半分あきれてそう考えていると、美紅が番長の住吉の耳元に何かをささやいている。住吉はなにか感心したような、驚いたような表情で何度も小さくうなずいている。
「分かりました。アネさん! おい! そこの三年」
今度は不良連中の中の三年生が四人、俺と絹子のそばへやって来た。そしてその中の一人が同じように地面に片膝ついて俺に両手を差し出す。
「お兄さんもカバンをどうぞ、こちらへ。教室まで運ばせてもらいます!」
「い、いや、俺は……いや、そのお気持ちだけで……」
そこで住吉が口をはさんだ。
「いえ、アネさんのお兄さんとなれば、それぐらいさせてもらわないと俺の男が立ちません。それに今後は二度と昨日のような事はないようにいたします!」
まあ、それはいいんだが……参ったな、こりゃ。と、さらに不良の一人が今度は絹子のそばに片膝ついて両手を差し出して……
「そちらのアネさんもおカバンをどうぞ」
当然絹子は顔を引きつらせて言った。
「ちょ、ちょっと、雄二はともかく、なんであたしもなのよ?」
また住吉が口をはさむ。
「美紅さんの、お兄さんのカノジョさんとあれば当然です。それに早くも将来を誓い合った仲でいらっしゃるとか」
俺と絹子は同時にその場でずっこけた。お、俺と絹子が彼氏彼女? それに何だ、その『将来を誓い合った』ってのは? 周りの不良連中があわてて俺たちの体を支える。
「大丈夫ですか?お兄さんにカノジョさん」
それには取りあわず、俺は美紅に向かって怒鳴った。
「おい、美紅!おまえ、さっき番長に一体何を吹き込んだ?」
美紅は相変わらずあのボーっとした表情で、事の重大さを全く理解していないに違いない能天気な口調で答えた。
「だって、昨日の帰り道で、絹子さん、あたしにこう言ったでしょ。『おねえさまと呼んで』って……」
だあああ! こいつ、そういう意味に取ったのか? 大体、毎朝俺とあいつの会話聞いてて、何をどう勘違いすりゃそうなるんだ!
俺たちの困惑には全く気付かない様子で美紅は絹子の両手を取り、そしてこう言った。
「絹子さん。ニーニをよろしくです。幾久しく」
俺も絹子も、この事態のあまりのアホらしさにもう言葉が出なくなった。そのまま俺たちのカバンを抱えた不良4人にエスコートされながら教室へ向かう。絹子が顔を俺の方に寄せて小声で言った。
「あ、あのさ、雄二。美紅ちゃんの普段のあの雰囲気って、あたしクール・ビューティなんだとばかり今までは思ってたんだけど……」
俺はこめかみを押さえながら小声でそっと返事した。
「ああ。あれはクールなんじゃねえ。ただの天然ボケだ!」