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コンラッドさんの夕食会に招かれてから3日後。
その間、私たちは初心に戻って冒険者ギルドの依頼を受けていた。
ルークの鎧のお金も稼ぐ必要があるので、これを休むわけにはいかない。
私の反則的な錬金術で稼ぐのは、お金のありがたみが分からなくなるから――
……それ以外の収入手段を確保しておくのは、やはり大切なことなのだ。
「今日もお疲れ様でした!」
「「「お疲れ様でした!」」」
宿屋の食堂でテーブルを囲んで、いつもの労いの挨拶――
……って、何だか一人多いぞ。
「僕だよ!」
私が不思議そうな表情を浮かべた瞬間、不意にジェラードの声が聞こえた。
ああ、いつの間にかルークの後ろに……。
「ジェラードさん、こんばんわ」
「こんばんわ、アイナちゃん。
エミリアちゃんとルーク君もこんばんわ。
今日は、例の件の報告に来たよ~♪」
「例の件? もしかして、売れたんですか?」
そういえば……と、先日預けたダイアモンド原石のことを思い出す。
鑑定スキルの査定では、ひとつあたり金貨2000枚くらいだったんだよね。
……さてさて、いくらで売れたものやら。
「もうちょっといくと思ったんだけど、少し出し渋られてね……」
「いえいえ。相場でも大丈夫ですし、安めでも問題ありませんよ?」
「アイナちゃんは無欲だなぁ」
……無欲というか、材料費がほぼ無料だからね。
「というわけで、金貨3800枚と3700枚で売ってきたよ」
「え?」
「ふえっ」
「なんと……」
三者三様。エミリアさんの反応が一番可愛かったな――
……って、それは良いとして。
「そ、それでも相場の8割以上は高いですよね……!?」
「あはは、前回は驚異の2倍だったからね。
今回もそこを目指していたんだけど……さすがに元々が高いから、これが限界だったよ」
「それでも驚異なんですが」
「いやまったく」
「やりますね……」
「ちなみに、今回はどなたに売ったんですか?」
「うん? 言っても良いけど、秘密にしておいてね?
コンラッドさんの奥さんと、あとはここら辺を取り仕切ってる豪商の奥さん」
「……ははぁ」
「この二人も対抗意識を燃やしていてね。
上手いこと、釣り上げ合戦に持っていったのさ」
「え? それでふたつとも売ったんですか?」
「うん。それぞれが競り勝ったように見せてね。
これでみんな、しあわせだろう?」
「でもそれって、お互いが買ったのを知ったら……また、ひと悶着起きません?」
「そこは大丈夫。自慢するならちゃんとダイアモンド原石を加工してから、って言い含めておいたから。
ダイアモンドはしっかり加工してからが本番だからね」
「え……? でも、その後は?」
「アイナちゃんたちはミラエルツを出て行くし、僕もいなくなる予定だから大丈夫♪
僕の正体も明かしていないから、足も付かないはずだし」
「なるほど……」
「しかしそれにしても、アイナちゃんの周りには楽しい仕事が多いね。
やっていて飽きないよ」
「それじゃジェラードさんも、アイナさんをサポートしながら旅をしましょう!」
「ははは。エミリアちゃん、それは良い提案だ」
エミリアさんの一言に、ジェラードはまんざらでも無いように言った。
「でも、僕はいろいろと自由に行動したいから……今回みたいに、サポートをする形でいきたいな。
アイナちゃん、そんな感じでの同行を許してくれるかな?」
ふむ……。
ルークやエミリアさんとは違う形だけど、3番目の仲間……ということになるのかな?
「私としては何の問題もありません。是非、よろしくお願いします!」
「おっけー。ありがとう!」
ジェラードがそのまま手を差し出してきたので、私は自然と握手をする形に。
「よーし、これで僕もアイナちゃんたちの仲間だ!
たくさん頑張らせてもらうよ」
「やったー! ジェラードさん、よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします。ジェラード……さん」
「……さて。
そういうことなら、ジェラードさんのお金も面倒を見ないといけないのかな?」
ルークとエミリアさんの旅費やら食費は私持ちだからね。
ジェラードにもお世話になるというのなら、そこら辺もしっかりしておかないと。
「ああ、そういうことになっちゃうのかい?
……うーん。それは僕としては、不本意だな」
「不本意?」
「一定額をもらい続けるよりも、成功報酬としてお金はもらいたいな。
……まぁ、そういう仕事柄だって思ってくれれば良いんだけど」
「ふむ……」
「というわけで、今回だけ報酬をもらえる?
そしたら後は、そのお金で全部やりくりするから」
「えぇ……? それで良いんですか?」
「うん、それじゃ金貨の1000枚でももらおうかな♪」
せんまいっ!!
……と一瞬思ったけど、ダイアモンド原石の相場が金貨4000枚のところを7500枚で売ってきたんだから……いや、むしろまだ安いのでは。
「分かりました。
もし足りなくなったら教えてくださいね」
「あはは、ありがとう。
でも資産運用も得意だからさ、気にしないで大丈夫だよ♪」
えぇ……。
ジェラードって、無敵すぎじゃないですかね……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後、私たちはルークの部屋でお金の受け渡しをした。
ジェラードから金貨の入った皮袋をもらうだけなら先日のようにぱぱっと食堂でやるんだけど――
……今回はその中から、金貨1000枚を渡さなきゃいけないからね。
「……うん、それじゃ確かに金貨1000枚頂いたよ。まいどあり!」
「いえいえ、こちらこそ本当にありがとうございました」
「なんのなんの。
それじゃ何日かしたらまた来るから、よろしくね~」
そう言うと、ジェラードは部屋から出て行った。
もう少し話をしたかったところだけど、彼は彼なりに用事があるのだろう。
「それにしてもアイナさん、全部で金貨6500枚……ですか」
エミリアさんが感慨深そうに言った。
「いやぁ……凄いですね」
「アイナさんが言いますか」
「アイナ様が言うんですか」
「えぇ……?」
そりゃまぁ、作ったのは私だけど!
何ならあと10個や20個くらい、すぐに作れるけど!
「でもあれです。お金は稼ぐのが大変なのです。
こんなことばかりして稼いでいると、何か大切なものを無くしてしまいそうです」
「それならうちの信仰に入ってですね」
「それは結構です」
「むぅ……」
いつものように、宗教の勧誘はきっぱり却下だ。
「……ところで、二人にお話があるのですが」
「はい?」
「何でしょう……?」
「この度、よく分からないほどのお金を手に入れてしまったので、臨時でボーナスを出そうと思います」
「え!? 何でですか?」
「私たちは、何もやっていませんが……」
「いやいや。喜びも悲しみも分け合うのがパーティじゃないですか」
「おお……。何と寛大な……」
「というわけで、私も自分にボーナスをあげても良いでしょうか」
「え? それはもちろんですけど――」
「……ああ、アイナ様。アレを買うんですね」
「アレ? ルークさん、アレって……ああ、アレですか」
……話の流れで、早々にバレてしまった。
そう。私はアドルフさんのお店で、魔法剣っぽいものを作ってもらうのだ……!
というわけで、ボーナスは一人金貨30枚に設定することにしよう。
全員が無駄遣いをすれば、私も安心して無駄遣いが出来るからね……!