「……というわけで、明日はお休みにします」
「「はい!」」
臨時ボーナスのことを伝えた後、すんなりと明日の休みが決まった。
「私はアドルフさんのお店に行きますが、お二人はどうしますか?」
「もちろん同行します」
ルークは即答。
「そうですね……。
わたしは少し、別行動にしてもらって良いですか?」
そう言うのはエミリアさん。
「はい、大丈夫ですよ。どこか行くんですか?」
「え? あ、いえいえ。
ちょっと調べものでもしようかなと」
「ははぁ、勉強熱心ですね。
分かりました、明日は朝食と夕食以外は別行動にしましょう」
「はい、それでお願いします!」
「それでは臨時ボーナスの金貨を渡しておきますね」
「あ、すいません! それはしばらくアイナさんが持っていてくれませんか?」
「え?」
「そんな大金をずっと持ち歩くのは怖くて……」
……それもそうか。
私はアイテムボックスを持ってるから落とす心配は無いけど、他の人は違うからね。
「それじゃ、使いたいときは教えてくださいね」
「よろしくおねがいします!
……あ、今回は金貨1枚だけ頂いても良いですか?」
「はい、どうぞ」
金貨を1枚、エミリアさんに渡す。
しかしこうなってくると、ちゃんとお金の出入りを記録しないといけなさそうだ。
実は元の世界で簿記の資格を取ってるから知識はそれなりにあるんだけど、付けるの自体が面倒なんだよね。
お小遣い帳の延長……みたいな感じだし。
「ルークはどうする?」
「そうですね、私は金貨5枚ほど頂けますでしょうか」
「おっけー。
それと、借りてた分も一緒に返しちゃうね。
……はい、残りは金貨8枚かな?」
「ありがとうございます。
お貸ししている分も、そうですね」
……とすると、依頼をあと3回も受ければ返しきれるのかな?
うーん、リアルな数字だ……。
「さて、それじゃボーナスの話は終わりにして――
……ルーク、手伝って欲しいことがあるんだけど」
金貨の入った皮袋をアイテムボックスに戻しながら、話を仕切り直す。
「はい、何でしょう」
「明日、アドルフさんのお店に行くんだけど……。
剣のデザインを持っていかないといけないんだよね」
「そういえば言ってましたね。大体のイメージがあれば助かる……と」
「うん。それでね、大雑把なデザインは決めていきたいなと思って!」
そう言いながら、私は紙と鉛筆をアイテムボックスから出してテーブルに置いた。
「わぁ、アイナさん、これ何ですか?」
「え? 紙と鉛筆」
「そ、それくらいは分かりますよ!
ずいぶんと質が良さそうだから、どうしたのかなって」
「ふふふ。
これは以前私が使っていたものをイメージして、錬金術で作ってみたんです」
「……やっぱりですか? まったくアイナさんの生まれた国ときたら……。
それにしても紙はずいぶん白いですし、鉛筆の形もスマートですし、いいなー……って」
「欲しければ譲りますよ。
人目の付くところでは使いづらいと思いますが」
「良いんですか?
それじゃ鉛筆3本と、紙を何枚かください!」
バチッ
「はい、どうぞ」
「まさかの作りたてを頂きましたー!」
楽しそうに何かを書き始めたエミリアさんは置いておいて、私はルークと話を進めることにする。
「……それでね、神剣デルトフィングみたいなやつを作りたいの」
「おお……。
そういえばあれも、魔法剣のような見た目でしたからね」
「でしょう? あれに似せるのもつまらないから、あんな感じの別のパターン……みたいな」
「なるほど、把握しました」
「それで、あれって……確かこんな感じだったっけ?」
私は記憶を辿りながら、頼り無さそうな剣を描きあげた。
「そうですね、大体はこんな感じでしたが――
……あ、鉛筆をお借りしても良いですか?」
「うん、はい」
「ありがとうございます。えっと、ここはもう少し装飾がこうなっていて……刃の形はこうでしたね。
それと核石のようなものが確かここに入っていて……それと、装飾の線がこういう感じで――」
……私の絵を元にしながら、細かいパーツがどんどん追加されていく。
ああ、そういえば確かにこんな感じだったなぁ……。
「それにしても、よくここまで覚えてるねぇ」
「多少の絵心がありますので、特徴的なところは見てしまうんです」
「へー? ルークって絵が描けるんだ?」
「はい。いわゆる似顔絵術、というやつから入ったのですが」
「ああ、街門で守衛をやってたから?」
「そうです。怪しい者がいれば、それを絵にして共有していました」
「すごーい、それじゃ似顔絵が描けるんだね。
……ねぇねぇ、ちょっと私のこと描いてみない?」
「えっ」
「アイナさん、わたしも参加します!」
私の提案に、エミリアさんも参加してくる。
「よし、分かりました。それじゃ描いてください!」
「あの、アイナ様。剣の方は……」
「あとで!」
「は、はい……」
言葉を詰まらせながらも、ルークは似顔絵を描き始めた。
エミリアさんはるんるん気分で描いていた。
――10分後。
「アイナ様、完成しました」
「わたしも出来ました~♪」
「それじゃ、見せてください!」
二人の似顔絵を全員で見る。
「うわぁ、ルークは本当に上手いねぇ……」
「まったくですね! こっちの仕事でもいけるんじゃないですか?」
「いやいや、これくらいは別に……」
ルークはそう言いながらも、少しだけは照れている。
ふふふ、愛いやつじゃのう。
「エミリアさんも可愛い感じで描けてるじゃないですか。ありがとうございます!」
……紙の端には謎の動物が描かれているけど、これは時間が余ったせいかな?
「さて、それじゃ話を戻して――」
「あ、ルークさん! わたしの似顔絵も描いてください!」
私の言葉を、エミリアさんの言葉がかき消した。
「……え? えーっと……?」
これにはルークも困惑だ。
「あー……。
じゃぁ、エミリアさんを描いたら剣の話に戻ろうか……」
「そうですね、分かりました」
「もちろんアイナさんも、わたしを描いてくださいね!」
……なん……だと……?
――10分後。
「エミリアさん、完成しました」
「はぁ、私もできましたよ……」
「わーい、見せてくださーい!」
二人の似顔絵を全員で見る。
「おお、ルークさんやっぱり上手い! これ、大切にしますね!」
「さて、それじゃ剣の話に――」
「ちょっとアイナさん! 隠さないでくださいよ!」
……くっ、バレたか。
「えーっと、どれどれ……。
アイナさん、これは似顔絵というか……何ですか?」
「で、でふぉるめ……」
絵心が微妙な私はそれを誤魔化すため、いっそもう二等身キャラとして描いていた。
ああもう、美術の時間の嫌な思い出が蘇える……。
「うーん、これも可愛いですね!
似顔絵とは違いますけど、これも大切にします!」
「え? 大切にしちゃうんですか!?」
「もちろんです!」
私はしぶしぶその紙をエミリアさんに手渡した。
私は私で、ルークの描いた私の似顔絵をありがたくもらっておく。
「……あ、それじゃエミリアさんの描いた私の似顔絵もくださいよ」
「え? 要るんですか?」
「その気持ちはとても分かりますが、記念に是非♪」
エミリアさんも、私の似顔絵の紙を渡してくれた。
……この2枚の似顔絵は、ずっと大切にしていこう。
「さて、それじゃ次はルークさんを描きましょう!」
「「えっ」」
……芸術の夜は、まだまだ続く。
似顔絵が全部終わった後、剣の話も何とか終わらせたけどね……。
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