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その日のコラボ配信は、いつもより少し遅い時間だった。
相手は葛葉と叶。三人でのコラボは、回数を重ねるごとに空気が柔らいでいた。
「最近の新人、ほんと落ち着いてるよな」
葛葉がいつもの調子で言う。
「りつは特にだね。雑談でも変に張り切らないし」
叶がそう続けると、
「うるさくないって褒め言葉ですか?」
りつは冗談めかして返した。
コメント欄が笑いで流れる。
にじさんじらしい、ゆるいテンポ。
話題はリスナーの生活習慣へと移り、体調管理の話になる。
叶が真面目に言う。
「最近、無理してる人多いからね。ちゃんと休まないと」
その言葉に、りつは小さく息を吸った。
ほんの一瞬、言葉が遅れる。
「……そうですね。疲労は、積み重なると自覚しづらいので」
声は落ち着いている。
だが、マイク越しでも分かるほど、呼吸が浅かった。
葛葉が笑いながらも、視線を画面に向ける。
「おい、りつ。大丈夫か?」
コメント欄もざわついた。
〈大丈夫?〉
〈大丈夫?〉
「大丈夫です」
即答だった。
だが、その後も会話の途中で何度か、りつは言葉を切る。
叶はさりげなく話題を引き取り、流れを止めない。
配信が終盤に差し掛かる頃、葛葉の声色が少し変わった。
「なあ、無理して配信してないよな」
冗談ではなかった。
りつは一拍置いて、静かに答える。
「していません。……ちゃんと、自分で判断しています」
その言葉に、葛葉も叶もそれ以上は言わなかった。
踏み込みすぎない。それもまた、先輩としての距離感だった。
配信終了後。
通話が切れる直前、叶がぽつりと残す。
「……何かあったら、言っていいからね」
「ありがとうございます」
りつはそう返して、通話を切った。
部屋に静寂が戻る。
胸の奥で、鼓動が少し乱れているのを感じながら、りつは目を閉じた。
“まだ、話す時じゃない。”
そう言い聞かせるように、深く息を整える。
だが、その判断が、限界に近づいていることを――
りつ自身が一番、理解していた。