テラーノベル
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その日のソロ配信は、いつもより視聴者が多かった。
りつが雑談をする配信は、落ち着いて聞けると評判で、夜の時間帯には固定のリスナーが集まる。
「今日は、コメントでも多かった質問から話しますね」
淡々とした声。
マイクの位置も、照明も、いつも通り。違うのは、りつの呼吸だけだった。
言葉と言葉の間に、わずかな空白が増えていく。
息を吸う音が、かすかにマイクに乗る。
〈今の息、ちょっと苦しそう〉
〈大丈夫?〉
「……大丈夫です」
その返答は、これまでと同じだった。
りつは無理にでも話を続ける。
「例えば、胸が苦しいときでも、必ずしも心臓が原因とは限りません。呼吸や――」
そこで、声が途切れた。
画面の中で、りつが小さく息を吸おうとする。
だが、うまくいかない。喉が詰まったように、音が出ない。
〈え〉
〈りつ?〉
〈ちょっと待って〉
椅子が軋む音。
視界が揺れ、カメラの角度がわずかに傾く。
りつは何かを言おうとした。
だが、その声は最後まで形にならなかった。
配信は、そこで途切れた。
コメント欄は一気に騒然となった。
「事故?」「回線?」そんな言葉が流れる中で、異変に気づいたリスナーがいた。
〈これ、普通じゃない〉
〈呼吸おかしかった〉
そして数分後、くろのわの配信に“鳩”が飛ぶ。
〈鳩コメごめんなさい💦りつが配信で倒れたっぽい〉
〈急に息できなくなってた〉
葛葉は一瞬、言葉を失った。
隣の通話ウィンドウには、叶もいる。
「……は?」
冗談だと思いたかった。
だが、鳩コメは一つではなかった。
〈配信途中で画面揺れて切れた〉
〈マジで様子おかしかった〉
葛葉は舌打ちをして立ち上がる。
「叶、住所――」
「もう確認してる」
叶の声は低く、いつもより速かった。
二人は配信を即座に切り、通話を繋いだまま外へ出る。
りつの部屋は、静かすぎた。
チャイムを鳴らしても、返事はない。
「おい、りつ!」
葛葉がドアを叩く。
鍵はかかっていなかった。
部屋に入った瞬間、二人は状況を理解した。
床に崩れるりつ。浅く、苦しそうな呼吸。
「……っ」
叶がすぐに駆け寄る。
「りつ、聞こえる? 僕の声わかる?」
返事はない。
ただ、胸が不規則に上下している。
「救急車呼ぶぞ!」
葛葉が叫び、迷いなく電話をかける。
住所、状況、呼吸が不安定なこと。
叶はその間、りつのそばを離れなかった。
「……ほんと、無茶しすぎ」
声は震えていた。
サイレンの音が近づくまでの時間は、異様に長く感じられた。
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