テラーノベル
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「先生。私、死にたいです。」
放課後、クラスメイトがいない教室で、恋莉はそんなことを呟いていた。茜色の光が、恋莉(こいり)を刺し殺すように降り注ぎ、鴉の劈くような鳴き声が、今はどこか遠くに聞こえていた。教室を出て行こうとしていた担任は、ゆらりと振り返る。恋莉には、担任の貼り付けたような機械じみた笑顔が、悲愁を隠すためのものなのか、それともただの恍惚なのか理解できなかった。
「白菓子(しろがし)さん。頑張ったね。君もきっと救われるよ。」
刹那、担任は笑顔を浮かべたまま、教卓から何かを取り出すと、恋莉に差し出した。「招待状」と書かれている真っ白な封筒。どこか清潔すぎる死体安置所を思わせる。恋莉はその封筒を両手で包み込むと「ありがとうございます」と微笑んだ。
この学校――私立セレニード学園に通う者ならば誰でも知っている「死にたがり」のための死亡遊戯。それについて聞くとき、恋莉の頭をよぎるのは恐怖ではなく、2人で手を繋いでぴくりとも動かなくなった懐かしい両親の姿だった。もっとも、変な宗教にのめり込んで、恋莉を置いて死んだ人達を「両親」と呼ぶに値するのかは今でも分からないままだ。
「(……ねぇお母さん、お父さん。私もね、愛の中で死にたいの。)」
死亡遊戯でのルールはただ一つ。
――ただ、死ぬだけ。
会場に提示されていたのは、いつもなら鍵が掛かって入れない旧校舎全体。担任に招待状を貰ってから、一般生徒立ち入り禁止の旧校舎へ向かう。新校舎と旧校舎の分かれ目には、重厚な作りの扉とカードキーをさすような黒い縦長の機械が置いてある。「招待状に入っているカードを挿入してください」との指示に従い、封筒の中に入っていた薄いカードを挿入口に挿入する。短い機械音が鳴った後、小型のタブレットと首輪が取り出し口から同時に出てきた。まずは首輪を取り出し、しっかりと付ける。ずっしりとした鉄の重さと首を締められているような感覚に襲われながら、タブレットも取り出す。突然、扉がガコンと大袈裟な音を立てて開いた。扉の向こう側へ一歩を踏み出すと、扉は自動的に閉まった。恋莉が扉を通り抜けて振り返ると、扉に掛かっている電子看板が『ロック中』と蛍光色の文字を浮かばせて激しく点灯する。
「(開かない。)」
前方に広がるのは、新校舎とはあまりにも違う荒廃した幽霊屋敷。廊下の左右側には、造花が供えられた墓石がズラッと並んでいる。
「(独りきりで死ぬなんて絶対嫌。同じ墓に入りたい。)」
刹那、耳障りなノイズが空気を更に澱ませる。
「(何?)」
ノイズの後に、歪んだ電子音声がどこからか鳴り響いた。
「――新しく参加者が一名投入されました。繰り返します、新しく参加者が一名投入されました。」
噂によると、出入り口は先ほど恋莉が通った扉の一つだけ。つまり、先ほどの一名の参加者とは間違いなく恋莉のことだ。
「(……あんまり気にしなくていいか。)」
恋莉は校舎の薄汚れた壁を背に、タブレットを起動させる。自分の好みを全て把握したように、桃色を基調にしたメルヘンチックな画面が広がっている。しかし、映し出された文字はどこまでも無機質だった。
【No.3659 白菓子】
以下の選択肢の行動ができます。
・ルール説明
・メモ
・売店
・他参加者概要
・運営への質問や要望
ルール説明をタップする。
【ルール説明】
ルール
・死ぬこと。現在参加者が持っているタブレット(以下:安楽天秤)に「死にたいですか? *YES*NO」という通知が数分ごとに届きます。その通知に「YES」を選んでいただくことで、首輪から麻酔を注射した後、毒薬が注射されますので、簡単に安楽死していただくことができます!(※NOを選び続ける限り、運営側が参加者を救済することはありません)
【可能事項】
・誰かを殺すこと。(死にたいからここにいるのに人を殺す人なんていないと思いますが、一応可能事項として記載しておきます)
・異能を使うこと。人口の八割を異能者が占めているため、異能は使えないのかと多数の参加者が疑問に思うかもしれません。しかし、ご安心ください!当遊戯では問題なく使用していただくことが可能です。(世間では異能の定義が曖昧ですが、当遊戯では、異能=個人特有の超常的な能力と定義しています。)
・心中すること。手順は以下のとおりです。
1.F2の多目的ホールにて、心中の届出を出す。
2.安楽天秤の通知に同時に「YES」と選ぶ。
【禁止事項】
・安楽天秤、首輪の破壊(首輪は異能による干渉を受け付けません)
※これに反したものは、手足を固定して寮に監禁し、安楽天秤の通知も全遮断します。つまり、死ぬこともできずにただ生き恥を晒すことになります。いい子にしましょうね^^
タブレットをシャットダウンし、ふっと息をつく。黒い画面に映っていたのは、虚ろな目で笑っている恋莉の姿だけだった。
コメント
5件
ああ、これは……重くて、それでいて綺麗な始まり方だね。『死にたい』という言葉から始まるのに、回想で出てくる両親とのエピソードがすごく効いてる。恋莉が求めているのは単なる死じゃなくて、『愛の中で死ぬこと』なんだなって、あのシーンで一気に腑に落ちた。それに「安楽天秤」っていうシステムの冷徹な設計——死ぬための手段が過剰に整備されているのに、逆にその優しさが怖い。これからどんな死が待ってるのか、むしろ気になって読みたくなるよ。
みんト