テラーノベル
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ルールに記載されていた「異能」という文字を見て、恋莉は密かに溜息をついた。人口の八割を占める「異能者」は、もはやこの世界の常識であり、規則でもある。しかし恋莉は二割の少数派、無異能者だった。「(………略して無能って呼ばれるくらいには、この世界で生きていくには不便なんだよねぇ)」
異能者が当たり前と化していたこの世界では、無能は村八分の対象にしかならなかった。恋莉が知っている中で、一部例外はいるけど、その人には独特の人を寄せ付ける才能があった。昔も今も、きっとそんな例外は彼だけだろう。
「(…………今頃あの人は名門高校か。頭良かったもんなぁ……あぁ、あの人と心中したい………)」
空を仰いで逃避してみようとするが、そこにあるのは灰色に曇った天井だけ。視線を戻せば、そこにあるのは墓、墓、墓……
「(悩んでても始まらない。とりあえず相手を探さないと。)」
壁から背中を離し、歩き出す。上履きが床を踏みつける音だけが、反芻される。
「…静かすぎない?」
そんな声すらも静寂に掻き消されていく。右手側に広がる教室の中を覗いても、電気すら付いていない暗闇しか広がっていなかった。恋莉以外にも人がいるはずだ。独りなわけがない。
「(…独り、じゃ…)」
暗闇。圧倒的に大きな、形が無い暗闇が、恋莉に巻きついた。独りじゃないと思うたびに、独りであるという証拠が、形が、恋莉の脳を刺していく。
――だから、気付かなかった。後ろから、誰かが来ているのなんて。
恋莉の首に、何か黒いものが巻き付き、ぎゅっと強く引っ張られる。空気を吸い込もうと口を開くが、肺に送り込まれるはずの酸素は完全に遮断されている。
「(なんでなんでなんで!?首輪があるのに、首が締められてるの!?首輪が守ってくれるんじゃないの!?)」
・安楽天秤、首輪の破壊(首輪は異能による干渉を受け付けません)
首輪は万能ではない。紐で締めているのなら、この行為は「違反」となる。
「(…でも、この黒いものは、異能………首輪は、異能を…すり抜ける?)」
つまり、異能は物理的な身体、今回であれば首には影響があるが、首輪という物体はすり抜けることができる。この生徒は何も違反行為をしていない。しかし、疑問点がもう一つ。この死亡遊戯は「死にたがりのための遊戯」のはず。何故、この生徒は恋莉の首を絞めて「生きよう」としているのか。ふっと指の力が弱まる。抵抗するはずの腕が、虚空を彷徨い、やがてだらしなく垂れ下がった。
「(………あぁ、心中できずに、死んじゃうんだぁ…)」
愛の中で殺されるという願いは、愛の前に殺される。
激しいはずの耳鳴りを微かに感じながら、チカチカ点滅していた視界はやがて黒く染まっていく。
「――君、なにしてるんだ!?やめろ!!」
聞き慣れた男子生徒の声が響き渡った、ような気がしたが、その前に恋莉は深い眠りに落ちていった。
――誰かに抱き抱えられているような、温かさを感じて目を覚ました。そこは恋莉が首を絞められていた場所とはまた違う荒廃した教室。きっと、あそこは危険だから運んだのだろう。そして、先ほど首締めを止めてくれた(と思われる)男子生徒が、恋莉をゆりかごの中で眠る赤子のように、優しく抱き抱えていた。黒く艶のある髪が、どこか幼さの残る顔に映えている美男子。それは、恋莉の「例外」だった。
「………東(あずま)?」
男子生徒の名前を呼ぶ。東こと、白夜行 東(びゃくやこう あずま)はぱっと顔を輝かせ、更に恋莉をぎゅっと抱き締めた。東は恋莉が小学生のときからの幼なじみで、恋莉の過去を知る唯一の人物でもある。
「恋莉!!よかった、よかったぁ………俺、本当に恋莉が死んじゃったんじゃないかって……心配で…」
「大袈裟。……助けてありがとう。」
「ありゃ、恋莉が素直!」
「助けてくれたのに、ありがとうって言わないような人じゃないよ、私。…あと離れて。」
「ん………」
カナ
103
rm氏#いんくnrkr中
34
ゆぅナ
58
海廻 @ひまがく
421
東は拗ねたように、頬を膨らませながらも、恋莉を解放する。拗ねていても、無駄に顔が良い。
「…えっと…東?なんでこの学校にいるの?ここ、偏差値55の高校だけど…東はもっと頭良いでしょ。」
「あぁ、ちょっと……いろいろね。……というか俺、1年生のときからこの高校にいるんだけど?」
東は苦笑いしながら、少しだけ顔を逸らした。深堀りはしない方がいいだろうと察する。
「そうなの?知らなかった。」
「うん。あと、一応生徒会長。」
「生徒会長!?!?」
そういえば、生徒会長とは誰なんだろうと思うことは多々あった。元々生徒会選挙を真面目に聞く方ではなかった恋莉は、最初の人の話の前に眠り、最後の人の話の前で目覚める………というスリル満点の居眠りゲームをしていた。そしてその翌日には必ず「生徒会長かっこいいよね~!」「無能であのカリスマはヤバイ!」「推せる~!!!」で女子生徒の話が持ちきりだった謎が、今でも恋莉の頭に残っていた。恋莉は、あまり面倒事に巻き込まれたくなかったため、教室では一匹狼を気取っている。そのため、生徒会長が誰なのか説明してくれる人がいなかった…というわけだった。
「(そういえば、結局、居眠りゲーム一回もバレたことなかったなぁ。じゃなくて、東が生徒会長?????ここで?なんで????)」
東は確かに成績優秀、容姿端麗、眉目秀麗…全てを盛り込んだような男子生徒だが、一つだけ致命的な点がある。それは、東も「無能」であること。
「(いや、まぁ顔が良ければ関係ないのか。)」
持論が一瞬で溶けた。そんな世の中の不平等さに打ちひしがれていると、突然東は真剣な顔をして、恋莉の両手を包み込む。異様なほどに温かい。
「とにかく、無事でよかったよ。………まずは本題に入ろう。俺はさ、死にたくないんだよ。」
「じゃあ、なんで死亡遊戯(ここ)に?」
「それは、死にたかったからだよ。でも、やっぱり考えが変わった。生きたいんだよ。……俺含めて6人しかいないけど、俺と同じ「生きたい」って人を集めているんだ。…恋莉、無理強いはしない。正直に答えて。」
「君は、生きたい?」
生きたいか、死にたいかで言えば正直死にたい。けれど、恋莉が求めているのはただの死ではない。愛の中で死ぬ「心中」だ。もし、ここで東と離れたらどうなる?きっと、あのときと同じように首を絞められて即退場だろう。それならば、ここは東について行く方が得策だ。そして………
「(………東となら、心中できるかもしれない。)」
恋莉と東は幼なじみだ。そして、東は正義感が高い容姿端麗の生徒会長。上手く丸み込めれば、2人で死ねる。それくらい、恋莉は東のことを知っている自信がある。
「うん。…私も、生きたい。」
恋莉は、東に笑顔をつくった。最初の、小さな嘘の始まりを告げる音がした。
コメント
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うわ……第2話、一気に不穏な空気になったね。孤独な暗闇の中で突然首を絞められるシーンは本当にヒヤッとしたし、そこで「心中したい」って考える恋莉の感覚がもう切実で……。 そこに現れた東がまさかの幼なじみで、しかも生徒会長で無能者同士ってのが良い伏線だな。ラストの「生きたい」っていう微笑みの裏にある嘘——"東と心中できるかも"っていう計算が、タイトルの『優しい嘘で壊してあげる』にどう繋がるのか、続きが気になりすぎる! 設定の設計が細かいし、孤独と希望のグラデーションが絶妙だね。