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工場を囲う壁に張り付いた私は壁の向こう側に向かって影で作ったナイフを投擲する。そしてその投げたナイフの中へと潜り込んだ。
誰にも気付かれることなく壁を乗り越えた私は内側の様子を窺う。
どうやら壁の内側でもゴーレムが徘徊しているらしい。見えるのは小型で、またもや初めて見るタイプだ。
『……犬みたい』
4足歩行で機動力に優れていそうなゴーレムだ。さすがに嗅覚はないだろうが、厄介そうなことに変わりはない。何よりも小型な分、数が多いようだ。
――侵入されることを予見していた?
それにしても妙だ。これらを内側ではなく、数を生かすために外側へと配備した方が警備面では良いに決まっている。
これではまるで――。
『……内側の方を警戒しているみたい』
きな臭くなってきた。いったい中で何が行われているのだろうか。
私は壁の外側と同様に影の中を潜りながら音もなく工場へと近付いていく。
まさか影の中まで探知することはできないとは思うが、念のため監視の間を縫うように移動する。眷属スキル《アナリシス》があれば、それも容易に行えた。
そして内側ということで門もなく、無事に工場の中に侵入することができたのであった。
『……広い』
外観から予想はできていたが、やはり中も相当広い。
そしてズラッと並べられている標準的な黒いゴーレムの姿が見受けられる。奥を見ればそこには別タイプのゴーレムも並べられている。
しかし、どれも未完成の物らしく《アナリシス》で確認しても魔力が込められている形跡はない。
これが自動化された工場なのかどうかは分からないとはいえ、ここでゴーレムが量産されているのは確定だ。
『……ますたー、奥から音が聞こえる』
最大限の警戒を保ちつつ、私たちは天井付近を伝うようにして音の発生源へと向かう。
そしてそこで目にした光景に思わず息を呑んだ。
――人が働かされている?
監視のためのゴーレム。ライン作業で組み立てられていくゴーレムたち。そして、それらを組み立てているのは人間だったのだ。内側に見える魔力も澱んだ物ではない、間違いなく人間の物だ。
彼らは無理矢理働かされているのだろう。外の警備も脱走防止の為なら説明がつく。
『……どうしよう、ますたー』
アンヤの懸念は妥当なものだ。これでは下手に襲撃することもできなくなってしまった。
工場を破壊するだけなら簡単だが、彼らを逃がさなくてはいけないとなると一気に難易度が跳ね上がる。
そうしてもう少し情報を集めたいと思ったところでゴーレムの監視の元、脇の通路へと入っていく男性の姿が見えた。
私もそれを追うように通路へと入り、距離を保ちながら跡をつける。
すると彼は扉を潜り部屋の中に入ってしまった。ゴーレムの方は外で彼が出てくるまで待機するようだ。
――チャンスだ。
私はゴーレムに気付かれないように影の中を移動して彼が入っていった部屋へと忍び込むことに成功した。
中はどうやら倉庫となっていたようで、先ほどの男性が作業をしているようだ。
部屋の隅へと移動した私は背を向ける彼の背後から掴みかかり、物陰へ引き込んだ。
少々手荒だが、彼の口を押えつつ物音を立てられないように地面へうつ伏せに引き倒して上から抑え込む。
当然、暴れようとする彼の耳元に口を近づける。
「落ち着いて。私は人間です。あなたたちを助けに来ました」
私の顔をしっかりと目にした彼が目を見開いた。
「大きな声は出さないでください。いいですね?」
彼がしっかりと頷いたのを確認してから、ゆっくりと彼の拘束を解いていく。
「だ、誰っすか……!?」
「ユウヒ・アリアケと言います。ミンネ聖教団から来ました」
この工場がいつから稼働しているかは分からないが、彼は救世主のことが知れ渡る前にここに連れてこられた可能性がある。
なら余計な情報を出して混乱させるのは得策ではない。
「ユウヒ・アリアケさん……スライム……マスターっすか……!?」
「えっ……はい、そうです」
まさかそんな懐かしい呼び名を聞くことになるとは思わなかった。
だがその名前を知っているというのなら話は早い。
「た、助けてくださいっす……!」
「勿論、そのつもりです。今、仲間と救出作戦の準備をしています。でも皆さんを安全に助ける為には少しでも多くの情報が必要です。分かりますね?」
焦らせてはいけない。
私は彼を落ち着かせることを意識しながら話を進めていく。
「あなたたちが逃げるルートを確保したいんです。ここで働かされている人全員がまとまって動けるタイミングと、どこか短時間でも立て籠れる場所があればいいんですけど……」
「それなら、食事の時間が……! 基本、交代勤務になっているっすがどのラインも食事だけはまとまった時間に取ることになっているっす!」
「なるほど……食事というと食堂かどこかですか。それで立て籠れそうな場所にどこか心当たりは?」
「それならその食堂がまさに。食事中はアイツらも監視を外しているっす。休憩時間が終わるまでに食堂から出てこなければ強制的に外へ出そうとするっすが、それまでにバリケードを築けば少しくらいは……」
ならその食堂からの脱出ルートを設定することを念頭に置いて作戦を立てるか。
「皆さんが落ち着いて対処できればいいんですが……」
「任せてくださいっす。アイツらに会話の内容まで理解する頭はないっすから作業中にそれとなく話を広めて、すぐに対処できるようにしておくっす」
「ありがとうございます。頼もしい限りです。ならそのプランでこちらも救出作戦を進めますので、食事の時間と食堂の場所だけ教えてください」
さらにその2つの情報を教えてもらい、彼と別れようとしたところで最後の質問をする。
「……あなたの名前を教えてもらってもいいですか?」
「自分はピエロっす」
「ピエロさん、必ずあなたたち全員を救い出します。それまでどうか諦めずに頑張ってくださいね」
私はそう言い残して影の中に潜った。
そして何食わぬ顔で倉庫から物資を持ち出して出ていくピエロさんを見送る。
『……いい人だった』
冷静に対処してくれそうな人で本当に良かったと思う。
『……これからどうする?』
工場全体の間取りを探りつつ、食堂も実際に確認する予定だ。そしてその情報をみんなの元に持ち帰って作戦を立てる。
そう決めた私はすぐさま次の行動へと移った。
◇
「正面に攻撃を集中させて敵陣を一気に突破しつつ、工場の壁をぶち破って人質を救出……ってまあ大胆な作戦を思いついたものね、シズ」
「こういうのは分かりやすさが肝心なんだよ、ひーちゃん」
早速持ち帰った情報で立てた作戦は大まかに言うとヒバナの言った通りとなる。
これはいわゆる電撃戦、人質となっている彼らを救出するまでの時間は3分以内を予定している。
外の襲撃に中のゴーレムたちが反応したとしてもそれくらいは何とか耐えられるだろうという判断だ。
そして彼らが工場内から脱出した後は全力で彼らを守りつつ工場を破壊する。
「わかりやすくて、わたし好みですね」
「うんうん! 要するにどんどん行けってことだもんねっ!」
彼らがバリケードを築く関係上、休憩時間終了ギリギリを狙って救出作戦を開始する必要がある。
ノドカが音を拾って、既に休憩が始まっていることは確認が取れているので作戦は直に始まる。
「ノドカ、中の動きはどう?」
「う~ん……気付かれないようにするのは~難しくて~……でも~騒がしくもないので~大丈夫~?」
相手から逆に探知されないように情報を集めるのは至難の業であるようだが、騒ぎが起きていないというのなら大丈夫だろう。
「アンヤちゃん、今の時間は?」
「……55分32秒」
「ありがとう。もうすぐだね」
時間感覚もほぼ正確なアンヤだが、さすがにあの子にずっと数えてもらうなどという酷なことはしない。
ちゃんと懐中時計を使って、休憩時間が始まってからの時間をずっと計ってもらっている。
休憩時間は60分だ。
私たちが襲撃を開始して中の警備ゴーレムがどう反応するかは分からないが、大事を取って57分きっかりに攻撃を始めることになっている。
「ユウヒ、そろそろハーモニクスを」
彼女の催促に従って私はヒバナ、シズクとのトリオ・ハーモニクスになる。
――作戦開始の合図は私たちの魔法が壁を破壊した時だ。
私は2本の杖を連結、火属性主体のフォルティデスとなった2メートル近い長杖を構える。
そして近くで浮かび上がる“烈火の魔導書”から使用する魔法を選択し、術式を構築していく。
「……今っ!」
「【ペネトレーション・ブレイズ・バスター】!」
アンヤの号令を聞き、私は灼熱の奔流を解放する。
狙い通りにまっすぐ突き進んだ熱線が壁と衝突するとそれをじわじわと溶かし、やがて大きな穴が空く。
「よし、突入しましょう!」
「主様、今度はボクとだよ! アイツらを蹴散らそう!」
射線上にいたゴーレムは破壊できたが、やはり魔力への耐性が高い素材で作られているようで少し外れた場所にいる敵はほとんど倒せていない。
だからそれらを効率的に処理するために物理的な破壊力の出番となる。
「モジュレーション――デュオ・ハーモニクス!」
私はダンゴとのハーモニクスに切り替え、コウカに付き従う形で駆け出した。
そして彼女と協力しながらゴーレムの陣を突破していく。非常に硬いゴーレムを倒す時に大切なこと、それは勢いなのだ。
私たちがゴーレムを相手にしていると壁の上にいる砲撃型のゴーレムが砲門をこちらに向けてくるが、気にする必要はない。
「【リフレクション・ウインド】~」
「……捕えて、【シャドウ・バインド】!」
奏でられた艶やかなハープの音とともに生まれた風の結界が私たちへの攻撃を阻む。
そしてアンヤの伸ばした影がゴーレムたちに絡みつき、それらを壁の上から引き摺り落とした。
次に邪魔をしてくるのは、破壊された壁の中から飛び出してくる大量の四足歩行型ゴーレムたちだ。
しかし、それらは私とコウカの横を通り過ぎていく炎弾によって破壊される。
「小物くらいなら私たちでもやれるのよ!」
「水の力は恐ろしいってことを教えてあげる……【アビス・ウェイブ】!」
シズクが生み出した海嘯は小型であるそれらを全て押し流してくれる。
そして彼女たちが作ってくれた道を私たちで押し広げながら、工場へと張り付くことに無事成功した。
さらに手筈通りに渾身の力で壁を打ち抜いて、その奥にある壁も次々と破壊していき――遂に食堂への道を切り開いた。
「本当に助けが来てくれたぞ!」
壁に開けた穴へと雪崩れ込んでくる人々を避け、私はバリケードの正面に立つ。
今にもゴーレムたちが突破しそうになっており、本当にギリギリであったことが伺えた。
「【ガイア・ウォール】」
食堂全てを囲うように壁を作って侵入を防ぎつつ、彼らが全員脱出し終わるまで念を入れた警戒を続ける。
「マスター! 交代です!」
人混みをなんとか抜けることができたようで、コウカがそう申し出てくれた。
私とダンゴは外で彼らを守らなくてはならないため、彼女の申し出は非常にありがたい。
「お願い!」
「任せてください!」
コウカに後を託し、私も人々と共に脱出を図る。
『外は大丈夫かな?』
だといいけど。
ゴーレムの持つ魔力耐性のせいで一体一体を相手にするためにも過剰な威力の魔法が必要となる。魔法攻撃主体のヒバナたちでは少し厳しい戦いとなってしまっているだろう。
私たちが行くまでどうにか耐えてほしい。
「――遅いわよ、ユウヒ!」
「ユウヒちゃん、あの人たちを!」
よし、どうにか耐えてくれていた。
外に出た人も全員が無事だ。
「誘導します! こっちに!」
近くにあった工場を囲う壁を破壊して逃げ道を作り、彼らを守る壁を新たに作りながら安全な場所まで彼らを逃がす。
「お姉さま~! 敵が増えました~!」
「増援……!」
工場の中からぞろぞろと現れるゴーレム。警備を担当していた個体か。
「マスター! これで全員です!」
「了解。ヒバナ、シズク、ケリをつけるよ! アンヤとノドカはあの人たちのサポートをお願い!」
丁度のタイミングでコウカが中から出てきた。これでもう遠慮をする必要はなくなった。
「潰れちゃえ――【ガイア・ノック】!」
「【ブレイズ・キャノン】!」
岩塊と炎弾を手当たり次第に飛ばし、施設そのものを破壊していく。
「コウカねぇ、下がって! 【タイダル・アビス】!」
前方で敵の足止めをしていたコウカが後方に下がったタイミングでシズクの広域魔法が炸裂し、発生した大海嘯が全てのゴーレムをまとめて押し流すことで工場の壁へと追いやる。
それからは工場ごと破壊し尽くすだけだ。
これが人々を苦しめてきたゴーレム軍団の幕引きとなった。
◇
「これほど大規模な施設を地下に作っていたとは……」
「1年で作るとかそういうレベルではないですよね……」
ゴーレムたちを殲滅し、安全が確保できた段階で外にいた連合軍の人たちを中に招き入れた。
彼らはこれからこの施設を詳しく調査するようだが、一目見たグラート中尉の反応がそれだった。
「しかし、これでゴーレムの脅威から救われました。この規模から鑑みるにここでほぼ全てのゴーレム生産を賄っていたと考えるのが妥当でしょう」
「だと、いいんですけど……」
気になることは少しだけあるが、これで地上の被害が減ることは間違いないので今は納得することにする。
「それでは後のことは我々にお任せください。人質であった彼らも我々が責任をもって街まで送り届けます」
「お願いします」
助け出した彼らは現在、軍の人から事情聴取を受けている。だがそれが終われば、彼らも帰れるはずだ。
「おーい、スライムマスターさん!」
「あなたは……ピエロさん?」
役目を終え、この場から去ろうとした私たちの元に手を振りながら走ってきたのは、工場の中で有益な情報をもたらしてくれたピエロさんだった。
「ハァ……ハァ……今日のこと、感謝するっす。ほんと」
「キミ、わざわざお礼を言いに来てくれたの?」
息を整えながら話す彼にダンゴが首を傾げている。
「実はそれだけじゃないっす。一応通告というか報告しといた方が良さそうなことがあるっす。ここに連れてこられてすぐの話になるっす」
そして彼が語りだしたのは今日一番の衝撃かと思える事柄だった。
「まず前提として、ここはルドック――いや、バルドリックが作った工場っす」
「ルドック……バルドリック?」
「ルドックはこのゲオルギアで武具を売っていた男っす。アンタたちも一度、店に来たことがあるっす」
「あ――」
どこかで聞いた響きだと思ったが、思い出した。
ルドックという鍛冶職人が優れた武具を作るということで、コウカの剣を作ってもらうという目的でかつて彼の武具店を訪ねた事があったはずだ。
たしかルドックという人は豪快に笑う大男だったと記憶している。
――そんな。どうして彼が。
軽く混乱してしまった私の代わりにシズクが疑問を呈する。
「バルドリックってあの“鋼剛帝”と同じ名前だよね? それが人間のための武器を作ってた?」
「鋼剛帝が何かは知らないっすが、何かを企んでいたようには見えなかったっす。でもアイツの正体はとんでもない化け物だったんすよ」
四邪帝の鋼剛帝。ルドックの正体は鋼剛帝バルドリックだったというのだろうか。
「でも本当にヤバいのはそれじゃないっす。ここに連れてこられてすぐの話になるっすが、俺はあのバルドリックの野郎がヤバい設計図を持っているのを見たっす。だがここではそんなゴーレムを触ってもいないっす」
そうだ、そうなのだ。
この施設にはあの凶悪な巨大ゴーレムの姿がなかった。それがずっと心に引っ掛かっていたのだ。
「もしかすると、ここみたいな施設がまだあるんじゃないかって言いたかったっす。アイツ自身、いつからかここには一切顔も出さなくなっちまったっすから」
「……ここで作っていたのはあのサイズのゴーレムだけですか? もっと大きな物は……」
「全部がってわけじゃないっすが、もっと大きな物なんてここじゃ作っても運び出せないっす」
なら確実に存在する。その第二の生産工場が。
「俺はこのことを軍にも伝えてくるっす」
「……はい。ありがとうございました、ピエロさん」
彼が去った後、残った私たちは今得た情報について議論を交わす。
「あの大きさのゴーレムを作ることができる施設がバレないのもおかしな話だよ。もしかするとこっちの世界じゃないのかも……」
「それって……神界にあるってこと?」
彼らもまた邪神と共に神界に隔離されているはずだ。
そこに工場があって、巨大ゴーレムはそこで作られているとシズクは考えているのだ。
「それならどうしようもないわね……」
「転移魔法でしかこちらに送り込めないとはいえ、打つ手がありませんね」
本当に恐ろしいのはあの巨大ゴーレムだ。
アレばかりは私たちが全力で当たらなければ倒しきれない。人々だけの力で対処しようとするとどれほどの被害が出るか分かったものではない。
「今~難しいことを考えても~仕方ありませんよ~」
「……ノドカの言う通り。出てきたらすぐに倒す……それしかない」
後手に回るのは確定したが、アンヤが言った通りだ。
あとは1カ月後までに巨大ゴーレムがこちらに送り込まれないことを祈るしかない。
「ボクは……やっぱり許せないな」
「ダンゴ?」
「鋼剛帝バルドリック。人に希望を与えておいて……絶望の淵に追いやる。どんな理由があっても、そんなの許せないよ」
「そうだね……それは本当に悪いことだよ」
ダンゴは巨大なゴーレムと何度も戦ってきた。そして凄惨な光景も一番目にしている。
でもそう思ってしまうのは当然なのだ。
彼は武器を作って多くの人に与えた。そして今度はそれすら打ち砕いてゴーレムの力で多くの者を殺めてきている。
目的がどうであったのかは分からないが、身勝手すぎる。
「どのみち、そいつとも戦うことになるわ」
「……借りは返す」
アンヤも殺戮の限りを尽くそうとするゴーレムは特に許せないはずだ。
私たちは皆、多かれ少なかれ思うところがある。
「そうだね。これまでの分、何千倍にもして返してやるんだ」
そう言ったダンゴは強気な表情を浮かべていた。
◇◇◇
神界にある鋼剛帝バルドリックの工房。
そこにゴシックドレスを身に纏った邪族、傀儡帝ヴィヴェカが訪れた。
「おじさんの工房、きったなーい」
彼女は文句を言いながらも乱雑に置かれている資材に腰掛け、脚をぶらつかせる。
そして背を向けて作業をする大男へ声を掛けた。
「あーあ、地上界にあるおじさんの工場。めちゃくちゃに壊されちゃったねぇ」
「構わん構わん。それよりも今はこの改良に改良を重ねた新型だ! これはおもろいことになるぞぉ!」
些事は気にも掛けないバルドリックをヴィヴェカは鼻で笑う。
「別にいいけどさぁ……それを送り込むのはヴィヴェカちゃんの仕事になるんだよ。プーちゃんに転移許可取るのはおじさんがやってよ?」
「何だヴィヴェカ。お主も例のアレを動かすのであろう。ついでにこれも送ってはくれんのか?」
「ヴィヴェカちゃんの最高傑作はもう投入段階なの。おじさんのはまだじゃん」
呆れた目を向けられたバルドリックは「そうか……」とやや意気消沈しながらも納得した様子を見せる。
「どうせならその新型、次の作戦に使った方がいいんじゃないの?」
「それも考えたがなぁ……張り合いのないものになりそうでどうにも興を削ぐ。作戦が成功すれば暫くデータは取れんくなるだろうし、それくらいであれば地上で試す方がよっぽど有用なデータが取れそうだとは思わんか?」
「おじさんは根っからの技術者だねぇ。そういうトコ、嫌いじゃないよ」
ヴィヴェカは「よっと」と資材の上から飛び降りると工房の出口へと向かう。
そんな彼女の背中に、変わらず背中を向けているバルドリックが振り返ることもなく呼び掛ける。
「ヴィヴェカも次の作戦には出るのであろう?」
「全員参加だからおじさんもだよ。楽しみだね」
「む? 吾輩もであったか……」
独り言ちるバルドリックを放置して、ヴィヴェカは薄ら笑いを浮かべながら今度こそ工房を立ち去った。
――そして工房を出た瞬間、ヴィヴェカの表情は光悦としたものへと変貌を遂げた。
体を震わせ、口から笑い声を漏らす。
(あぁ、お人形遊び。久しぶりに楽しめそうでホント……ゾクゾクするよねぇ)