この作品はいかがでしたか?
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鉄板の上で肉汁がジュウジュウと音を立てている。
満面の笑みでハンバーグを頬張る姿を見て思わず本音が溢れる。
「瞳の食べる姿はやっぱり好きだな」
もちろん否定的な返事が来るのは、俺の不徳の致すところで何を言われても仕方がない。
それでも瞳と再会して、こんな風に二人で食事ができることが嬉しいと思っていた時、テーブルの上に置いてあるスマホに着信が入る。
表示を見るとおふくろだった。
素早くタップをして通話を切るとスマホを置いた。
どうせ、見合いだとかくだらないことだろう。
例の金を返したことで、瞳と俺がまた繋がっているとか考えているのかもしれない。
今度は邪魔されない。
ただ、俺のこの行動が瞳に誤解を与えたようで小田原での話が出たが、今回は断じて違う。
食事の後、あの時の自然公園に向かった。
車内で懐かしい思い出話をしているうちに公園に到着した。
公園内を歩いていると
「春に来ると桜が綺麗だよ」という言葉に、満開の桜の下を二人で歩きたいと思った。
あの日、途中から気まずい雰囲気になってしまった小田原城に行こうと誘うと「恋人と行った方がいい」と言って車を降りようとした瞳の手首を思わず掴んだ。
「瞳ともう一度行きたいんだ」
それは、本心だ。
あの頃に戻ることは出来ないが、あの頃からやり直したいと思った。
車から降りて歩いていく姿をルームミラーで見ていると曲がり角で手を挙げているように見えて俺も手を挙げた。
瞳と再会して最近の俺は浮かれている。
三島貴江についてまとめた報告書を用意し、社内で力をつけ親父を蹴落とす。
その為に、必死に仕事をしてきた。
大切なものは会社以外に何もないから。
会社だけが俺の場所だった。
でも今は、瞳と会えることが楽しい。
登録のない番号からの着信が入る。
休日に掛かってくる着信に碌なことはなさそうだが、電話に出ると沼田真子という女性からだった。
「甲斐の奥様から紹介を受けております沼田真子と言います。釣書をお渡ししておりますが目を通していただいてますでしょうか?」
今までおふくろが由緒正しいご令嬢の見合い写真を送りつけて来たが全て送り返していた。
中も見ないし、ましてや釣書なんて目を通すことなんかない。
「母が手当たり次第に写真と釣書を勝手に送ってきますので、わたしも中を見ることなく返却しております。わたし自身はお見合いをするつもりは無いですので、それでは」
切ろうと思った時「ちょっと待ってください」との声に一旦踏みとどまった。
「奥様からはお見合いではなく、確定した話として聞いてます」
「わたしは何も聞かされていないのに確定ですか、一体何のためです?」
「お互いの会社のためです」
「沼田さんでしたっけ?会社とは?」
「沼田吉右衛門商店です」
「沼田さんと個人的にどうのというつもりはまったくありませんが、商談ということでしたらアポイントをとって会社にきてください。それでは」
沼田さんが何か言う前に通話を終わらせた後、秘書に沼田吉右衛門商店について調べておくように伝えた。
倉片呉服店の為に好きでもない相手と結婚した挙句、不倫をされていたおふくろは、自分と同じ女を作ろうとしているのか。
それとも、親父への復讐を俺にしようとしているのか。
どちらにしても
バカバカしい
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