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「社長がお見えになりました」


その言葉で秘書と入れ替わりに親父が入ってきた。


俺が拒絶反応を見せていることで、腫れ物に触るように接してくる父親。

そして、可愛い息子を甘やかし仕事以上の役職と給与をあたえようとする父親。ただ、その可愛い息子は俺ではない。勝手に認知をして連れてきた息子に関してそれ以降の無断での対応をじいさんに止められた親父。

だから、あいつのことに関して俺に相談をしてくる。

俺は入社と主任への就任には受け入れたが、それ以降はほかの社員と同じ能力を求めるようにした。


「社長、なにがありましたか?三島くんの昇格に関しては、前回お伝えしましたとおり実績がありません。他の者への示しもつきませんし、何よりも能力と適性の無い物が過分な役職に就けば本人が1番大変ではないですか?給与を上げたいと言うのでしたら、社長が特別にお出しになればいいと思いますよ」


「いや、そのことは凌太の・・専務の言う通りだ。もう忘れてくれ。ところで先日、家に帰ってきたそうだね」


「お邪魔でしたか?」


「そうじゃない。少し話がしたいと思って」


「仕事ですか?」


ゆっくりと首を横にふる親父を見てから、椅子から立ち上がりドアに向かう。


ドアを開いてから「書類の確認があるので」と言うと大きく息を吐いて出ていく時


「お前には悪いと思っているが現実をみなさい」

と言って出ていった。



現実、そんなものはずっと昔から見てるよ。

むしろ現実を見ていないのはあんただ。



思いっきり息を吐いて座席に吐くと秘書から沼田真子がアポイントを求めていると連絡があったから、木曜日に時間を取ることにした。

ビジネスとして話ができるならそれでよし。

もしまたくだらない見合いを押してくるならきっちりと終了させておきたい。

同じ間違いを何度もしたくない。


木曜日の昼過ぎ沼田真子が淡水色を基調とした友禅を上品に着こなして来た。

あれから沼田吉右衛門商店を調べ文政元年創業というおふくろが喜びそうな”老舗”のお茶問屋であるが、いわゆる昔からの付き合いのある企業が代替わりするごとに関係は切れていて、それでいて倉片と同じように老舗という”ブランド”に胡坐をかいて今や火の車だ。

沼田真子は短大を卒業と共に結婚をしているが一年で離婚。相手は大学生で学生結婚だ。

相手はとくにどこかの御曹司というわけでもなく、ただ店を継がせるための青田買いをしたんだろうが、うまくいかなかった。それ以降、再婚することなく今は店を引継ぎながら華道教室で生徒に教えている。

それもあっての和服なのか、単におふくろの実家が呉服店だからなのか、なんにせよインパクトをもたせようとしたんだろう。


秘書がお茶をテーブルにおいて出て行ったのを確認して「お話をどうぞ」と促した。


「お時間をありがとうございます。先日、お電話で話しました件ですが、わたくしどもの沼田吉右衛門商店では文政元年から創業しております。お茶問屋としては上位に入る老舗です。以前は高松デパートなどの百貨店へ卸しておりました。ですから、甲斐さまとわたくしが結婚することで甲斐商事に一つの箔が付くことは間違いなく、わたしくしも社交の場でお役に立つことができます。ですから、わたくしたちの結婚はお互いの会社のためになると確信してお母さまからの申し出を受けることにしました」


まっすぐに俺の目を見て話すこの女性は、自分が語った話を当然の誉としていることにおふくろと同じニオイを感じて不快になる。


「過去形ということは今は百貨店に卸していないということで間違いないですか?」


一瞬顔がこわばるが、それは想定内なんだろう。すぐに、表情をもどして「そうです」と凛と答える。

たしかに、これだけ厚顔無恥ならビジネスシーンにて使えるところがあるかもしれない。


「老舗ではあるが、今では顧客を減らして右肩下がりであることも間違いないですか?」


「そうですが、甲斐商事と手を組むことにより倉片呉服店のような再起を狙えるとおもってます。もちろん、老舗としてのブランドは甲斐商事で好きに使ってくださって結構です」


「倉片呉服店・・・なるほど、第二の倉片呉服店になりたいと?」

資金だけもらいただ食いするような店。


「わたしくは華道の師範として社交の場でもうまく立ち回ることができますから、老舗としての沼田吉右衛門商店だけではなく、わたくし自身にも価値があると思ってます」


「学生との1年ほどの結婚は若気の至りですか?」


一瞬にして顔がこわばる。

結婚歴を隠すつもりだったのか、釣書きを見ていなかった為判断ができないが、反応からするに隠しておくつもりだったのかもしれない。


「なんの努力もしない会社がこの先、生きていけると思っていますか?店のために結婚して甲斐から金を引き出しそれで延命させようという考えであれば甲斐にとっては、ただのパラサイトですよ。そんな関係は不要です」


私は立ち上ると内線電話で秘書に「お客様のお帰りです」と告げるとすぐに応接室のドアが開いた。


あれじゃあ、おふくろのレプリカだ。


席に戻ると椅子に深く沈み込んで、瞳に会いたいと思った。

留学時代に仲良くしていた家電量販店のJrが来日するということで土曜日に会うことになっているため、瞳と会えない。なんつう日に来るんだと思ったが商談もあるから仕方がない。





久しぶりにあった知人との会話と商談がスムーズに進み、猛烈に瞳会いたくて

[今日は仕事で食事に行けなかったから明日はどう?]

とメッセージを送ると部屋の内見に行くという。

ちょっと強引だったが、内見についていくことにしたら、待ち合わせの場所は俺のマンションから近かった。

瞳の勤め先の沿線上にあるから、探すエリアがこのあたりになるんだろう。

だったらあの頃のように一緒に住みたい、この殺風景な部屋をまた暖かい場所に変えたいと思った。

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