テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
リンクは、一度だけ背後を振り返った。
「……エンゲル、バブル」
低く、はっきりした声。
「ここから先は、
聞かなくていい」
二人は無言で頷き、
教員たちから距離を取る。
職員室の中央。
照明は不安定で、
影が壁に歪んで伸びている。
残ったのは――
リンクと教員たち。
サークル。
タヴェル。
数名の教員。
そして、グレース校長。
リンクが口を開く。
「……聞く」
静かだが、
逃げ道のない声。
「殺人の横行。いつからだ」
沈黙。
「答えろ」
サークルが、
重く息を吐く。
「……学校創設が終わって、
最初の学期だ」
「……そうか」
リンクの視線が、
ゆっくりと校長へ移る。
「校長」
グレースは、
わずかに喉を鳴らした。
「……私は、 その当時の校長ではない。
この学校も…… 代替わりが続いていた」
タヴェルが補足する。
「校長だけじゃない。
教員も何度も入れ替わった。
……落第が
死に直結している真相は、
誰も知らされていなかった」
リンクは、
一拍置く。
「……知らなかった?
つまり、 人が消えても、 誰も深く調べなかった」
教員の一人が、
言い訳のように口を開く。
「規則書には…… “処理”としか……」
「退学だと、 思っていた……」
リンクの声が、
はっきりと強まる。
「疑問に思わなかったのか」
「生徒が、 二度と戻らないことを?」
「席が空き、 名前が消え、 それを“そういう学校”で 済ませたのか」
グレースが、
かすれた声で言う。
「……学校を、 維持する必要があった。 規則を破れば、 混乱が起きる……」
その瞬間。
リンクは、
その小柄な身体で一気に距離を詰めた。
校長の肩を掴み、 壁へと押し付ける。
エンゲルどバブルがビクリと震えた。
「ウッ……!」
鈍い音が、 職員室に響く。
誰も、動けない。
リンクは、
至近距離で校長を見上げ――
マスターソードを抜いた。
淡い光。
刃先が、 グレース校長の喉元で止まる。
押し当てない。
だが、逃げ場はない。
リンクの表情は、
怒りですらなかった。
感情を削ぎ落とした、
静かな断罪。
「……校長。 お前は、
“知らなかった”で 終わらせる立場じゃない」
肩を掴む手に、
力がこもる。
「その子の人生は考えたか。 名前を呼び、 評価を付け、 未来を語った相手だ」
「おかしいと思わなかったか 生徒が消え、 誰も戻らない学校を」
リンクは、グレースを抑えたまま、他の教師たちにも、鋭い目つきで一人ずつ睨む。
「殺人を回避する努力をしたのか」
「規則を疑ったか」
「止めようとしたか」
「一緒に 逃げようとしたか」
グレースもサークルもタヴェルも、どの教師たちも口を開かない。
言葉を失ったまま、
視線を逸らすことすらできない。
リンクは、
最後の言葉を置く。
「何より────!」
語調がかなり前強まり、叫び同然の声を出す。
だがリンクは、一瞬だけ。何かを思い出して。 ゆっくりと剣を下ろす。
刃先が、床を向く。
校長の肩から、
手を離す。
「──その子たちの帰りを待つ人たちの気持ちを、 一度でも考えたことはあるのか?
今日も帰ると信じて、 連絡を待ち、 玄関を見ていた人間がいる。
ああ。何年も待ちわびているだろうな!」
「……それを…
絶望の中、叶わない希望を持って待ち続ける気持ち。 想像したことはあるのか?」
リンクは、
それ以上、何も言わなかった。
ゼルダも、 チャットは送れなかった。ウツシエからリンクの声を拾う。
もしかしたら、泣いているかもしれない。
職員室には、
言い逃れのできない静寂だけが残る。
エンゲルとバブルは、
リンクの背中を見る。
そこにあるのは、
怒りではない。
何度も、
多くの人を失ってきた者だけが背負う、
深い悲しみだった。
エンゲルは、
はっきりと悟る。
(この人は…… たくさんの人を、 救えなかった。 だから、 ここまで問い詰めるんだ)
リンクは、
剣を下げたまま、
黙って立っていた。
沈黙が、
すべてを告発していた。