テラーノベル
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職員室での断罪。リンクはしばらく動かなかった。
剣を収め、
深く息を吐く。
問い詰める声は、
確かに自分のものだった。
だが、
そこに込めた感情は――
怒りだけではない。
エンゲルとバブルは、
少し距離を取って待機している。
その沈黙の中で、
リンクは気づく。
「……ブルーミーがいない」
返答はない。
気配も、
すべてを吐き出し疲れたリンクは感じ取れなかった。
職員室の隣の小部屋に、
彼女が身を潜めていた。
ブルーミーは、
壁際に腰を下ろし、
両膝を抱えていた。
隣室から、
リンクの声が聞こえる。
低く、
抑えられていて、
それでいて鋭い声。
教師たちを問い詰める言葉。
「おかしいと思わなかったのか」
「回避しようとはしなかったのか」
その一言一言が、
胸の奥を正確に刺した。
(……やめて)
だがしかし、自身の良心がそう思ったのか。
(……でも聞かなきゃいけない)
ブルーミー自身にも、
もう区別はつかなかった。
脳裏に浮かぶのは、
一人の少女。
クレア。
落第者だった。
だが、
問題のある子ではなかった。
むしろ、
よく気がつき、
人に遠慮がちな――
優しい子だった。
新人教師だったブルーミーに、
「先生、大丈夫ですか?」
と声をかけてくれた子。
――だからこそ。
落第が決まったとき、
ブルーミーは、
心の底から理解できなかった。
(……どうして、この子が)
規則は、
絶対だった。
「落第=処理」
学校創設が終わって最初の学期。
校長を含め、代替わりが続いていた時代。
誰も、その真相を知らなかった。
ただ、
「そういうものだ」と
引き継がれていただけ。
ブルーミーは、
規則を守りたいと思った。
教師として、
この場所に立つために。
だが同時に、
思ってしまった。
(……殺せない。 私には、無理だ)
その日。
クレアは、
ロッカーに隠れていた。
小さく、
震えながら。
ブルーミーは、
それを見つけた。
足が、
止まった。
声をかければ、
規則違反の処理でクレアは死ぬ。
見逃せば、 共犯。
――それで。
ブルーミーは、
何も言わず、
その前を通り過ぎた。
後に、
サークルとタヴェルが合流する。
三人で、
クレアを囲む形になった。
ブルーミーは、
わざと一歩、距離を空けた。
逃げ道になるように。
(お願い……)
声にならない祈り。
だが。
「ブルーミー!」
サークルの声が響く。
振り返った瞬間、
すべてが止まった。
手には、 カッター。
クレアの足を反射的に切り裂いた。
刃の血は浅かった 。
動けなかった。
視界の端で、
クレアが走り出す。
その直後。
警備の甘かった
アリスの部屋。
逃げ込んだ先で、アリスに遭った。
クレアは逃げ切れずに命を落とした。
確かにブルーミーは、直接 誰も殺していない。
だが―― 救えなかった。
それが、 何より重かった。
それから。
何度も、 悪夢を見た。
ロッカー。
少女の背中。
自分の立ち尽くす姿。
学校に、
行けなくなった。
心身の不調。
そう処理された。
ブルーミー自身も、
そうだと思い込もうとした。
――だが。
リンクが来てから。
すべてが、
変わった。
落第者は出ても、
殺されない。
教師による処理は、
一度も起きていない。
リンクが、
すべてを止めていた。
(……ああ)
ブルーミーは、
理解する。
(私が休んでいた時間は…… 逃げじゃなかった)
感情の渋滞で疲れた脳で。
(この人が来るまで、 壊れきらないための……)
その時。
部屋の隅に、
誰かが立っていた。
青い服。
金色の髪。
緑の瞳。
年下の女性。
「……だれ……?」
問いかけても、
返事はない。
ただ、
やさしく微笑む。
次の瞬間。
聖なる光が、 その姿を包み込む。
光が消えたあと、
床に残っていたのは――
刃のない剣。
材料も、
由来も、
分からない。
だが、 手に取った瞬間、
確信する。
これは、
誰かを殺すためのものじゃない。
向き合うための剣だ。
ブルーミーは、
立ち上がる。
残念ながら校舎構造上、 今すぐリンクとは合流できない。
それでも、
行く。
廊下の先。
「かつて生徒だったもの」たちが、
群れをなしている。
右手に、
刃なき剣。
左手に、
何も使わなかったカッター。
ブルーミーの目に、
もう迷いはなかった。
それは、
殺意ではない。
過去を否定するためでもない。
選ばなかった優しさを、
今度こそ選ぶための覚悟だった。
女神ハイリアの救済は、
リンクの手によって――
たくさんの殺された者たちだけではなく。
殺せずに、しかし救えずに。
そうして永らく悩んだこの1人にも、 確かに届いていた。
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