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「荷物少ないね」
「必要最低限の物しか持ってこなかったからな」
あの日、親父が連れてきたのは2つ年下の異母弟だった。俺が2歳の時にはすでに親父には他にも家族が居た事になる。その事実だけでもショックだったが、それ以上にあの家にいられないと思ったのは、異母弟にあたえられた部屋は俺の部屋の隣でドアを開けっぱなしにして、あいつが荷解きをしていた時だった。
部屋の前を通る度に目の端にアイツが映ることにイラついていたが、あいつは無神経にも声をかけてきた。
「すごい豪邸だよね。今まで2DKのマンションだったから夢みたいだ。ずっと一人だったから兄さんができてうれしいんだ。これからよろしく」
計算なのか、本当に素で話しているのかわからないが俺は弟なんて欲しくなかった。
そして、アイツは何の脈絡もなしにスマホの画像を俺に見せてきた。
「お父さんってイケメンだからさ、子供の頃に運動会とかで走るとみんなに羨ましがられたんだよね。兄さんもそうだろ?」
二歳しか違わない兄弟。
子供の頃、両親は俺の行事に来たことはなかった。土日も忙しくしていた親父。
忙しい理由はもう一つの家庭への家族サービスだった。
きっとあいつは俺の行事には親父が来ていないことを知っている。
愛人の子供だが、愛されているのは自分だと言っているように聞こえて心の底からドス黒い何かが心臓を包んでいくような気がした。
実際、親父が愛しているのは俺ではなかったんだろう。
親父はおふくろを好きではなく、むしろ嫌っている。
ならば、愛している愛人の子であるあいつの方が愛おしいと思うのは当然のことだ。
その事実を突きつけられて、部屋に戻って必要最低限のものをキャリーバッグとボストンバッグに詰め込んで家を出た。
17歳になる愛人との子供の存在が、使用人の孫と見下してきた夫の長い年月をかけた裏切りを示すことにおふくろは半狂乱になっていた。
家を出た俺は、まっすぐにじいさんの元へ向かった。
親父はまだじいさんにその事実を話していなかったようで、愛人が闘病の末に亡くなり一人残された息子を家に呼んで一緒に暮らしたい、亮二を一人にするわけにはいかないと、あの席で話していたことをすべて伝えた。
ただ、親父があいつの学校行事に行っていたことだけは言えなかった。
それを言葉に出してしまえば、俺という人間が親父にとっていらないモノだったということを認めてしまうような気がしたから。
三島亮二
凌太と亮二、音だけなら兄弟らしい名前だ。
そのことも俺には受け入れがたかった。
じいさんには今後、保証人が必要な場面での保証人をお願いした。
もう、あの家の家族という枠に入るのは無理だった。
じいさんと曾祖父からすればおふくろの実家は恩人の家で、いくら甲斐が援助するための政略結婚だったとは言え結婚の2年目には愛人に子供を生ませて認知もしていた。
それはどうしても許しがたいことで、相続問題が出たときには婚外子とはいえあつは俺と同等の相続割合となる。俺とあいつが同じならば、親父からの愛情が深い分あいつの方が心情的には上となる。
会社を継ぐのは俺だ。
絶対にあいつには渡さない。
その考えはじいさんも一緒で、じいさんは俺との養子縁組を申し出てくれた。
それは、ずっと俺をだまし続けていた親父を、子供のころから尊敬していた親父へ対抗するカードになりうるものだ。
じいさんの知り合いを通じて即入居可能の物件をさがしてもらい引っ越しをした。
引っ越しを手伝ってくれたのは瞳だけだ。
レンタカーを借りてホームセンターへ行き生活に必要なものを買いそろえていく。
ベッドは後日にしてとりあえず布団を一式とシャンプーやタオルなどを大きなカートに入れていると瞳は鍋やフライパンなどのキッチンで使うものをカートに入れていた。料理をするという考えがなかったから気づきもしなかった。
一人で暮すということは、食べることを含めて一人でやっていくことだ。そんな当たり前のこともわかっていなかった。2DKの部屋に住んでいたというあいつは、母親とこんなふうに生活をしていたんだろう。
そんなことを考えていると、ふと親父がアイツの手を引いてグランドを走っていたりお遊戯を踊っている画像が思い起こされ、頭を振ってそれらを振り落した。
一旦清算をしてワゴンタイプのレンタカーに積み込んでから、家電を見に行く。
洗濯機や冷蔵庫、電子レンジとテレビは日曜日も配送があるということで明日配達してもらうように手続きをして電気ケトルや瞳が絶対に必要だと主張した炊飯器とコーヒーメーカーは持ち帰りにして二人で車に乗り込むとマンションに向かった。
俺があの家から持ち出したものは少なく、まだ何も置かれていない部屋はただの四角い箱だ。
「そういえばラックとかテーブルとか買ってなかったね」
「確かに、おいおい揃えていくしかないよな。ホームセンターに行けばおのずと買うものが閃くと思ったが、そんなことはなかった」
家具らしい家具はないから片づけは簡単に終わってしまった。
今夜からこの部屋で暮らしていく。
もともと実家にいたときも一人だといえば一人だった、おふくろからは使用人の血が入っていると言われ、親父からは愛されてもいなかったから、だから今までのように暮らしていけばいいと思っても今夜は一人でいるのはキツイかもしれない。