お弁当を食べた後は、いつも忙しい貴仁さんとゆっくり休憩ができればと思っていたのだけれど、急に想定外の雨が降り出してきてしまった。
強くなる雨足に、レジャーシートの上を急いで片付けて、車の中へ二人で駆け込む。
「せっかくのデートなのに、残念だな……」
彼がフロントガラスを叩く雨粒を見つめ、ポツリと呟く。
「ええ、止みそうにもないですよね……」
ついさっきまではいいお天気だったのに、ふいに黒い雲が広がったかと思ったら、あっという間に雨模様になっていた。
「……貴仁さん、髪が濡れていて」
ふと気づいて、バスケットに入れていたタオルを取り出すと、雨で濡れそぼった柔らかな髪を撫でるように拭いた。
「すまない、ありがとう」
くしゃりと崩れた髪が片手でふっと掻き上げられると、たったそれだけのことなのにドキリとして、さっきのキスからちっとも高ぶりが収まらないまま、彼のささやかな仕草にさえ、どうしようもなく惹かれている自分に改めて気づかされた。
「君も濡れているから、拭こうか」
手からするりとタオルが抜き取られ、頭を拭かれる。
さり気なく抱かれた肩が、熱い。時折、地肌に触れる指の感触に、胸がいっそう高鳴る。
心臓の音、聞かれちゃうんじゃないかな……。
思わず左胸のあたりを押さえた片手に、
「どうした?」
と、彼の手が上から重ねられた。
否応もなく響く鼓動に、さすがに伝わっているよねと、顔をうつむける。
「なぜ、こんなにドキドキとしていて?」
あなたのせいで……とは言えなくて、ますます下を向くことしかできないでいると、彼がそっと私の顎の下に手の甲を当てがい顔を上向かせた。
「……私のことでなら、うれしい」
唇が今にも触れそうなくらいすぐそばで、低く密やかな声で告げられて、何も言えずただ顔を赤らめることしかできなかった。
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