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それから3日後

プルルル…

プルルル…

萬田金融事務所の電話が鳴った。

竜一にはまだ仕事を休ませていて

一人事務所で仕事をしていた銀次郎が電話を取った。


カチャッ


「はい、萬田金融。」


「あ…もしもし、この前事務所にお邪魔した米原ですけど…。」


「あぁ…あんたか。それで約束通り銭は用意出来てまっか?」


「残りのお金の支払いの準備はもちろん出来てるんやけど、ちょっとここの所忙しくて…出来たらそっちから取りに来てもらわれへんやろか?」

………

少し間をおいて銀次郎は口を開く

「……どこに取りにいったらええんでっか?」

「あ…えっと、今日の20時くらいにコンラッドホテルのロビーで待ち合わせできる?」

「……20時にコンラッドホテルやな。」


「あの、それと…!。」


「まだなんかあるんでっか?」


「出来たら…萬田くん一人で来てほしいんやけど…。」


「………頼まれんでも今は竜一休ませとるから、どうせわし一人で行くことになる。」


「え?そうなんや…。 そ、そしたらまた後で!」


「おう…。」

カチャ…。

桜子のおかしな注文に疑問を抱きながら銀次郎は受話器を置いた。

「ふっ…。なんぞ魂胆ありそうやな。」

そうつぶやいた銀次郎だったが、正直お金を返してもらえさえすれば、桜子が何を企み考えていようがどうでもよかった。

それに桜子の企むことくらいなら、軽くあしらえるだろうという自信もあった。

一方、桜子は電話をかけ終わると自分の部屋のベットに倒れ込むように寝そべった。


「はぁ…なんで萬田くんに電話するだけでこんな緊張するんよ…。」

ため息をつきながら小言をつぶやく。


20年前”また明日会おう”と言ったあの約束。

私は不本意な形だが、裏切ってしまった。

でも何の因果かまた不本意な形ではあるものの再会できた。

その上、萬田くんは私の事を覚えてた。

あの日からずっとずっと… 運命なんて言葉信じてないけど、 私にとって萬田くんはやっぱり特別な存在やと改めてしっかりと感じた。

だから今夜こそは…。


桜子は静かに決意を固めた。




20時 コンラッドホテル


ホテルのボーイが入り口扉横に立ち和やかな笑顔をしながら扉を開ける。

扉を抜けるとシャンデリアがぶら下がる煌びやかなエントランスロビーが広がる。


桜子はホテルのロビーに置かれたソファーに腰掛けて銀次郎が現れるのを今か今かとそわそわしながら待っていた。

コツコツコツ…

そこへ近づいてくる足音。

銀次郎は約束通り20時ちょうどにホテルのロビーに到着した。


「あ…萬田くん。」

桜子は近づいてくる銀次郎に気付き思わずソファーから腰を上げた。

「約束通りやな。ガキの頃みたいにまた姿現さへんと思ったで。 」


桜子に顔を合わせるや否や、昔の約束の事を茶化すように言った銀次郎。

「あの時の事はごめんてば…。 ほんまに根に持つタイプなんやね萬田くんって。」

「だからこの仕事が勤まるんや。 今回はちゃんと銭用意出来てんな?」

「もちろん用意してる、でも…」

「でも何や?。」

「こんな人目につくロビーでお金渡すのは嫌やと思って部屋取ってあるからそこで渡しても…いい?」

そう提案した桜子。

「…言っとくけど、変な事企んでわしをはめようとしたかて無駄やからな。」

「別になんも企んでないよ?怪しいなら部屋の中隅々まで調べてもらってもいいし。」

「はぁ…。まあええやろ。部屋まで案内してくれるか。」

「わかった。ついてきて。」


コツコツコツ

ピンポーン…


2人はエレベーターに乗り込み桜子が取ってある部屋の階へと向かった。

少し距離を取り…

何を話すわけでもなく…。

ピーンポーン…

ガラ…

エレベーターの扉が開き2人は廊下を進んでいく。

「ここが私の部屋。 これ…カードキー。」

「…はよ鍵開けてくれるか。」

「部屋の中、確認とか…せんでええの?」

「そんなもん必要ない。」

「そ、そう。じゃあ…。」


ピピーー カチ

ガチャっ


桜子は部屋の鍵を開け銀次郎を中へ案内する

「どうぞ入って。 」

「おう。」


サッサ…


カチッ

シュボッ…


部屋に入り短い廊下を進むや否や、さっそく煙草に火を点ける銀次郎。

特に私の事疑ってるわけじゃなさそう、と その様子を見て桜子は少し緊張がほぐれた。

「ふぅーー…。 ほな残りの260万さっそく渡してもらおか。」 部屋にあるソファーに腰掛け煙草をふかしながら催促する銀次郎。

「あ!はい…これが残りのお金。」

慌てて用意していたお金を差し出す桜子。

ガサッ

シャッシャッシャ…

封筒に入ったお金を取り出し慣れた手つきで数えていく銀次郎。

“お願い…1秒でも長く

この2人きりの時間が続いてほしい…”

そう願う桜子にはお札を数える銀次郎の慣れた手つきがとても意地悪に見えた。


………


「…確かに260万。 これであんたの借金は全額返済や。 まぁ正しくはあんたの後輩の借金やけどな。」


「ほんまアホやわ。ムキになって他人の借金肩代わりするとか…。」


「銭さえ返してもろたら他のことはワシには関係あらへん。他人の借金肩代わりするって決めたんもあんたの勝手や。」

「分かってる。でも、あの子が萬田くんとこから借金してたからこうやって再会できたって思ったら…肩代わりした事正直全然損したなんて思ってないねん。」


「……………。」

桜子からの思わぬ言葉に、黙り込んだ銀次郎。この言葉をどう受け止めてどう答えていいのか全く分からなかった。

「……あ!わざわざ来てもらったしルームサービスでも頼む!お酒がいい?」

「いや……。銭はきっちり返してもろたからそれでええ。あんたも夜のお勤め忙しいんやろ。これで帰らしてもらう。ほな。」


サッ…

気まずい空気になったこの部屋を早く出ようと銀次郎はソファーから腰を上げた。


「あ…。」

桜子の心にはいいようのない寂しさがこみ上げてきた。

“こうやってやっと会えたのに…?

このお金払っただけで…そんなん……”


「嫌や… 待って!」

桜子は何かに駆り立てられるように銀次郎を呼び止めた。


「…!なんや急に。」

桜子の声に驚き振り返った銀次郎。


「嫌…行かんといて…。

ほんまは忙しいなんて嘘やねん。」


「嘘……。」


「ほんまは萬田くんと二人になりたくてこの部屋取った…。」

………!?

その言葉を聞き固まる銀次郎。


「何言っとるんや…。気でも狂ったんか。」


「狂ってなんかない。私な…20年前にした約束がどうしても忘れられへんくて、萬田くんにまた会えるかもしれんと思って大阪に帰ってきてん。それでこうやってやっと会えたのにこれだけで終わりなんて…そんなん嫌。 」


「わしはただの金貸しや。これ以上一緒におっても何の得にもならんやろ。」


「得とか損とかそんなんと違う。萬田くんの言葉は信じられるから… いつも本当の事言ってくれるから…。 」

「本当も嘘もあらへん。 わしはただ思った事言うてるだけや。」


「だから信じられるねん。」


「は……?」


「だって綺麗でその場しのぎの甘い言葉並べて良い人ぶる人間なんて今まで腐る程見てきた。 そういう人間ほどいざ自分の立場が危うくなると言い訳して逃げ出すようなずるい奴ばっかり…。」


「ふっ…。わしはそういう奴らと違う言うんか?そうやとしたら、わしの事買いかぶり過ぎや。」

「そんなこと…。」

「ワシかて銭のためやったらどんなことでもする。銭のためやったら平気で女ソープに叩き売る、人の体の事なんかどうも思っとらん。誰かさんが言うてた通りちっさい男や。」


「…お金のためじゃないやろ…。」


「何を言うてんねん。わしは銭のために生きとる人間や。」


「違う…。お金で自分の私利私欲を肥やすためだけやったら端から他人に自分のお金貸す必要ないやん。 楽して甘い汁吸おうとする人間は一回地獄見ないと自分の強欲さに気付かれへん。貸りたもんは返す。 人間として当たり前の道理を通させて

それを教えてるんやろ?亡くなった家族を弔うためにも…。」


……!?


何故桜子が自分の家族の不幸を知っているのか、桜子のその言葉に思わずたじろいだ銀次郎。


「あ、アホか… ワシはそんな善良な人間やない…。わしも他に仕事があるさかい、そろそろ帰らせてもらう。」


そう言って再度部屋を出ていこうとする銀次郎。


銀次郎に行ってほしくない桜子。

嫌…

絶対に離れたくない…

「いや!お願い待って!」

ギュッ!

「な…………!?」

桜子は部屋を出ていこうとする銀次郎の腕を思わず掴んでいた…。


“どうしても離れたくなくて

これで終わりなんかにしたくなくて…

自分でもなんでこんなに萬田くんに惹かれてるのか分からんけど…

もう二度と会われへんと思うと怖くてたまらんかった…。”


「お願い行かんといて…。」

「離せ。」

「嫌や………。」

「ちっ…。お前はほんまガキの頃から頑固やの…。」

「萬田くんの方こそ頑固やんか…。」

「………。何が望みや。」

「萬田くんの側にいたい…それだけ。」

「それは無理な話や。」

「なんで…?」

「ワシは銭にしか興味無いんや。それに金貸しの側に女が居たらお互い身を滅ぼす。それがワシら金貸しの世界での習わしなんや。これで分かったやろ?離さんかい。」


「………そしたら私に1000万貸して。」


「…米原、ええ加減にせえよ。」


「だって!お金だけが萬田くんとの繋がりなんやろ?ほな私に今すぐ1000万貸してよ!」

どうしても銀次郎と繋がっていたくてやけくそになる桜子。

そこまでしてもどうしても銀次郎の側にいたかった。


「ドアホ!担保も無しにそんなもん貸せる訳ないやろ!」


「担保はある!」


「どこにあるんや!」


「私の体や。」


「はぁ?お前何言うとるんや…。」


「さっき萬田くん、人の体の事なんかどうも思ってないって言ってたやん…。だから、担保は私の体。借金払われへんくなったら生命保険かけるなり、私の体どっか売るなり、バラバラにして好きなようにしてくれたらいい…。」


「なんでそこまでワシにこだわるんや…。」


「好きやから!!!萬田くんの事が好きやから…。ただそれだけ。」

歪だかそれは紛れもなく銀次郎への素直な気持ちだった。


「………さっきも言うたやろ。金貸しは女と一緒にはならへん。」

桜子のその気持ちを突っぱね続ける銀次郎。


「それやったら……今夜だけでいいから私の事、抱いて?」


「…………!?」



ミナミの鬼の煉慕

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