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パシっ…! 部屋に私の頬叩く音が響いた…。
「っ……!」
「ええ加減に目覚まさんかい!お前そない簡単に男に抱かれて夜の女として恥ずかしないんか! 」
「何よ!萬田くんは人の体どうなろうが何とも思わへんねやろ!?金貸しとしてとか、夜の女としてとかさっきから萬田くん肩書きの話ばっかり!私の事一人の女として見てよ!」
「悪いけどワシは腐っても金貸しや。それ以上それ以下でもあらへん!借金返済した今のお前の体に手出す権利なんぞあらへんのや。」
「私は一人の女として見てもらわれへんの?女としてそんなに魅力ないん…?1ミリも興味持ってもらわれへんの?私が他の男にも同じ事してきたとでも思ってるん!?」
「…………。」
「夜の商売してきて、枕で客取った事なんて今までたった一回もない。私かてそのくらいの女としてのプライド残ってるわ…。」
「はぁ…。」
ぐい………
銀次郎はため息をつきながら桜子の両肩を持って力強く引き寄せた
「え…。」
「ほんまにお前はガキの頃から頑固やな。 ほな正直に言うたる、わしはお前みたいな頑固で聞き分けの悪い女がいちばん好かんのや 。」
銀次郎は桜子に顔を近付け目をまっすぐ見つめてそう言った。
「そんな……。」
「そやから何言われてもお前のことは抱かれへん。」
「………グスッ。」
「そうやってすぐ泣くとこも好かん。」
「もう泣かへんから…!」
「そやけどお前は…ええ女や。 お前やったらええ男とすぐに出会える。わしみたいな金貸しに抱かれるような女になるな。わかったな?」 そう言うと、銀次郎は少し微笑んで桜子の頬を流れ落ちる涙をそっと拭った。
「こんなん…こんなんずるい…!余計に離れたくなくなるやんか…。」
「またそのうちどっかで会える。ミナミの街は狭いんや。 」
「嫌や! ミナミの街に居てるの分かってて会われへん方が辛い…。」
「ミナミに残るも去るもお前次第や。わしは金貸しとしてずっとこのミナミにおる。ほな…わしは帰るで。」
サッ……
「萬田くん…!」
部屋を出ようとドアノブに手をかけた銀次郎を必死に呼び止めた桜子。
「あんた…ほんまに鬼やね!こうやって女惚れさせて…何人も泣かせてきたんやろ?」
「ふっ…。さあどうやろな。ほんまはワシかて心揺らいでたんやで。ほな…達者でな。」
カチャッ
バタン………。
意地悪な笑顔を浮かべながら銀次郎はそう言い残し扉を開け去っていった。 銀次郎が去ってから桜子はしばらくなにも考えることが出来ず部屋の中でただ立ち尽くしていた。
あんな言葉を最後に残して去っていくなんて最後まで意地悪な人…。
でもこれで終わった…
20年間想い続けてきたその想いが終わった。 願った形にはならんかった。
けど、どこかこの結果に納得している自分がいた。
萬田くんは金貸しになってミナミの鬼とまで呼ばれる人になっていたけど、 本質のところは子供の頃と何も変わっていない気がした…。 それが妙に嬉しかった。
もしあのまま萬田くんに抱かれてたらその気持ちも揺らいでいたかもしれん。 そんなふうにも思う…。
ただの振られた言い訳かもしれんけど…笑”
少し冷静になった桜子。
今更ながら何故”抱いて”なんて…。
何故あんなとんでもないお願いをしてしまったのか…。
後悔と恥ずかしさが襲ってきた。
「なによ”抱いて”って…。ほんま私 アホ過ぎる…。」
桜子はそう言いながら部屋のソファーにうなだれるように座り込んだ。
でも萬田くんはずっとあのままの萬田くんやった。神様はなんの悪戯か、 萬田くんと再び引き合わせてくれたことで自分の生きる道は自分で決める
誰のせいでも誰のためでもなく 自分の責任で自分のために、 そう思わせてくれた。 萬田くんを好きな気持ちはそう簡単には変わらへんけど…。ミナミの鬼に恋をした私は前より強くなれた気がする。
いや…もっとずる強くて賢い女になって驚かせたる。また萬田くんに会えた日のために。