死ネタ・自傷行為
監禁
両親はただのモブです
弟松以外改悪
人を選ぶ作品だと思います…
メリバ?
昔からそうだった。
僕が耐えれば事が上手く進み、誰も悲しまなかった。
僕が皆の機嫌を取れば皆ニコニコしていた。
僕が皆の標的になれば皆が団結出来た。
僕が何も言わなければ皆は幸せだった。
ずっと、こんな生活が続けば良いとも思ったし、早くこんな人生を終わらせてしまいたかった。
暗い部屋にポタポタと液体の滴る音だけが響く。
窓から差し込む月光に照らされたのは、ただ只管に黙々と手首を切り刻む一松の姿だった。
一松は全くの無表情であり、どこか遠くを見ているような目をしながらただ只管に手首を見詰めていた。
一松を含めた松野家の六つ子は今年で17歳。高校2年生になったばかりの青年だった。
一松は自分の気持ちを話すような性格では無いが小さい頃からそうだったかと聞かれれば、皆が首を横へ振る程には普通の子供だった。
小さい頃の六つ子は俺が俺達で俺達が俺、のように1人も欠けてはならぬ存在だった。
毎日六つ子で固まって遊んで幸せだった。
そんな日々が続いたある日、松野家を震撼させるような出来事が起こった。
母の大事にしていた物や家の中の物がぐちゃぐちゃに壊され、陶器や硝子細工の物は粉々になっていた。
そんな現場に強盗では無いか?と父が黒電話へ手をかけながら呟いた時、六つ子の中の誰かが小さな声で言ったのだ。
「「一松がやった…」」
その声はおそ松とチョロ松だった。
一松は信じられなかった。
「えっ?!僕やってない!」
慌てて否定するも、母と声が被る。
「そうなの?おそ松、チョロ松。…一松、ちょっとこっちに来なさい。」
自分の大切な物を壊されれば誰だって怒りに支配され冷静では居られないだろう。
母もそうだった。
一松は有無を言わせぬ母の表情に口を噤んでおずおずと近寄る。
母の掛けていた眼鏡が反射でキラリと光ったのが見えた途端、一松は左頬に走る痛みに呆然とした。
母の表情は見えない。
ただ、ただ分かるのは自分が平手打ちを受けたという事。
濡れ衣で平手打ちを食らうとは思っていなかった一松は生理的な涙と共に心理的な涙を流し、わんわんと大声を上げた。
「自分がやった事でしょう?!泣くんじゃありません!一松はこれから物置で暮らしなさい!」
母は顔を真っ赤にして立ち上がり、未だ大声で泣き叫ぶ一松の腕をとり、一松と共に暗い廊下へ消えていった。
暗い廊下から木霊する一松の叫び声に5人は恐怖を覚え、おそ松とチョロ松に至ってはとても申し訳ない事をしてしまったと後悔していた。
が、後で謝ればきっと一松も母も許してくれるだろうと思っていたのだった。
父は沈着冷静に5人に部屋の片付けを言い放ち、水を1杯飲み干した。
一松は消えてしまいたかった。
おそ松とチョロ松を許せなかったが、それ以上に人望のない自分を許せなかった。
いつも皆より少し後ろでサポートして、ちゃんとしていたつもりだった。
無理やり手を引かれて連れてこられた物置はとても埃っぽく、それでいて真っ暗だった。
母は何度か一松をぶった後、物置の中へ放り投げてピシャリと扉をしめて鍵を閉めた。
一松は自分の手すら見えない暗闇に1人で閉じ込められ、気が狂いそうだった。
必死に扉を拳で叩く。
拳も、ぶたれた頬も、心もとても痛い。
何度も何度も叩いたが、もう出しては貰えないと諦めがつくと、一松はその場にへたりこんだ。
一松の精神状態は極限であり、自身を卑下する幻聴が一松の耳に纏わりついた。
「うるさい、うるさいうるさいうるさい…」
それから一松が今まで通り生活する事は無く、風呂とトイレは母が監視し食事は乱雑に部屋の中へ置かれるパン1つ。
まるで囚人のような扱いを受け続けて12年。
今まで十四松とトド松は仲良くしてくれていたが、兄達は一松と一度も話す事はなく、それどころか一松への罵詈雑言が飛び交う始末。
一松の心は崖っぷちに立つ細い枝だった。
木枯らし1つ吹けばあっという間に落ちてしまう。
一松の身体には日々増える痣の他に、数多の切り傷が存在していた。
物置の中へ転がっていたやけに新しいカッターを使い続けている。
今日もそうして物置の中で只管に手首を切り刻み続けていた。
途端、2つの声が一松の耳へ入り込む。
「「一松兄さん!」」
一松は手を止め、のそりと立ち上がって扉へ掌を付けて口を開いた。
「十四松、トド松おかえり、学校お疲れ様」
自然と口角が上がり、嬉しそうな声色になる。
それを2人も分かっているのか、凄く嬉しそうな声色でただいまを告げた。
他愛も無い話を交わして、皆が帰ってくる前に2人を帰す。
いつもの日常だった。
しかし一松の口角は弧を描いていた。
2人が惜しみながらも別れを告げて居間へ帰るのをいつも通り見送り、2人の足音が聞こえなくなっても一松は扉に掌を当てており、慈しむように扉を撫でていた。
「この世に要るのは良い子だけ」
どれくらい時が経っただろうか、一松は突然物置の奥の方から何かを取り出した。
それは暫く使われていないにも関わらず綺麗に研がれたままの包丁。
今の時刻は午後16時。
後3時間もすれば母が食事を持って来るだろう
一松はズキッと心が痛むのを無視して首元へ振り下ろした。
ぷつりと肌を破って入ってくる異物の感覚と耐え切れない程の痛みに一松は顔を歪める。
生理的な涙が頬を伝い、口からは血が伝う。
首元の重要な血管をブチブチと切り離す感覚が両の掌へ伝う。
痛みと恐怖心に手がブルブルと震え、頭が死にたくないと抗議する。
一松は小さな小さな声で呟いた。
「これで終われる…」
暫くして、物置内にカランと乾いた音が響いた。
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物置から聞こえた母の絶叫に皆が顔を見合せ、只事では無いと慌てて走る。
母は廊下へへたりこんでおり、我先にと十四松が物置の中へ入った。
そこには大量の血液を床に広げ、首に大きな裂け目が出来た最愛の人が倒れていた。
どうやら少し時間が経ちすぎた様で、一松に近付く度に床の血液がネチャネチャと靴下へ染み込んでゆくが、大半の血液は乾いて閉まっていた。
一松の肌は青い色をしていて、もうこの世には居ないと物語っている。
十四松は後ろで慄いているままの家族をキッと睨み、一松の頬へ口付けを落として頭を撫でた。
「よく頑張ったね、ごめんね、もっと早く助けられてたら良かったのにね…」
気付けばトド松も隣にしゃがんでおり、一松のスラリとした指へ口付けを落としていた。
「「すぐそっち行くからね」」
その後はトントン拍子で事が進み、母は主に虐待の罪で逮捕。
父も助けなかったという理由で署まで連れて行かれた。
兄達はどうすれば良いか分からぬまま2階で話しているようだ。
十四松は涙を流しながらトド松と目配せをし、一松が使用した包丁を握った。
「トド松、どうする?僕お兄ちゃんだから先行こうか?」
十四松がトド松の顔をのぞき込む。
トド松はニッコリと笑った。
「ううん、僕が先に行くよ!早く来てね。」
十四松は安心した顔をして、トド松へ包丁を手渡した。
トド松は強く包丁を握り、一松と全く同じように首元へ包丁を振り下ろした。
ぷしゃあっと血液が飛び散る。
十四松は血飛沫を浴びながら段々冷たくなるトド松の頭を撫でた。
「今行くよ!待っててね!」
事故物件だと噂が広がり、やむを得ず兄達は孤児院へ送られてしまい今はそこで生活しながら学校へ通っているそうだ。
物置には今も血痕が残っているとか。
コメント
5件
ナイフは持った?持ったね?…よし逝くぞ……。(お前も??)
こんなに感動したのは初めてです!!この作品はとても推したいです!! これからも頑張ってください!!