テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「それはヴォルガム国の通行証ですね……少々お待ちください」
巨大な水路に囲まれた国アクリムへ到着したフィニス達。その唯一の入り口になるであろう門にいる兵士に、ヴェスパから渡された通行証を見せる。
通行証を確認した兵士が、城門の上へ合図を送ると……
ゴゴゴゴゴ……
大きな門がゆっくりと開き、城壁の中へ入るフィニス達。
「ここが……王都アクリム……」
城壁内部にも綺麗な水路が流れている。建物もそこまで密集している感じでもなく、通りも広々としている。建物がぎゅうぎゅうに詰まっているヴォルガムの城下町とはまさに真逆。
王都という響きから、ヴォルガムのようなイメージを勝手に持っていたフィニス達は、アクリムの空気感にある意味圧倒されていた。
「なんか綺麗な街ね」
「あぁ、ヴォルガムとは全く違うな」
そんな皆の反応を見て、門兵はくすりと笑った。
「本来であれば、城下内を回っている水路を利用し、船で移動……なんてこともできたのですが……先日の魔族襲来の為、橋の陥落や建物崩落の破片が水路に落ちてしまいましてね……今はやっていないんですよね」
「そうだったんですか……」
「民間人への被害は殆ど無かったのが、不幸中の幸いでしたけどね」
「……」
くるりと周囲を見渡すフィニス達。そこまで多くはないものの、いくつかの建物の外壁が崩れているのが視界に入った。
「あ、すみません!せっかくお越しいただいたのに!それでも綺麗な街には変わりありません。城へ行くまでの街並みをゆっくりご覧になってくださいね。あ、あと……」
「ん?」
「先日の戦争。貴方達が悪いわけではありませんし、むしろ貴方達はあの場に出没した魔女を撃退してくれた方。それを理解しているものであれば問題はありませんが……それでも人によってはヴォルガムの人間と言うだけで、憎む民もいるかと思います。その為、あまりヴォルガムから来たと言うことは口外しない方がよろしいかと……あ、差し出がましいことを言ってしまい申し訳ございません!」
急に敬礼をする門兵に、ルシオが優しく笑う。
「いや、助言助かるよ。ありがとう」
「いえいえ!それでは!」
持ち場へと戻る門兵の背を見ながら、フィニス達が一同視線を合わせる。
「まぁ、そりゃそうだわな」
「詳しいきっかけはわかりませんが、戦争を仕掛けたのが私たちの国だったわけですからね」
「……そうね」
「まぁ、とりあえず城に行こうぜ」
フィニスの言葉に全員がうなずき、奥に見える大きな建物の方へと歩いて行った。
⸻
城の前にたどり着いたフィニス達。城の入り口に立つ兵士達に通行証を渡す。
兵士たちが通行証を確認している間に、改めて城を見上げるフィニス達。ヴォルガムの城同様に所々崩れており、最上部付近には大きな穴も空いている。魔族襲来を否が応でも想像させられる光景だ。
「確認いたしました。どうぞこちらへ」
外の兵とは異なり、明らかに不機嫌な態度を取ってくる兵士。何もない状態であれば文句の一つでも言っていたであろうニティアも、今回ばかりは固唾を飲み、大人しく兵に従い歩いて行く。
大工達が城の修復作業でバタバタと動き回っている城内。こんな大変な時に、敵国の人間が来たとあれば、いい気分ではないことは皆が承知していた。
「被害はどれくらいだったんだ……?」
先を歩く兵に尋ねるフィニス。
「この先にいる方に直接聞いてください」
立ち止まり身体をフィニスに向けて淡々と答える兵士。そして、その胸元に揺れる一つの紋章。フィニスはその揺れる紋章に目を奪われていた。
(あの紋章……どこかで……)
「!」
はっと何かを思い出し、ポケットの中にある布を取り出すフィニス。
「悪い、お前これに見覚えは?」
布に包まれているものを兵士へ渡す。
「……!?こ……これは……?」
渡されたものをマジマジと見つめる兵士。
「ここに来る途中、魔女の調査のために平原に寄った時に拾ったんだ」
「……」
渡されたものをギュッと握りしめる兵士。
「もし……持ち主が分かるなら返してやってくれないかな」
「お預かりさせていただきます。どうぞこちらへ」
淡々とした言葉と共に振り返り、再び歩き出す兵士。
「なによ……せっかく……」
その兵士の態度に何かを言おうとしたニティアを手で止めるフィニス。
「いいんだよ。気にするな」
ふっと笑うフィニス。ため息をつくニティアの頭に一度手を置いた後、兵士の方へ向き直すフィニス。
前を歩き、握りしめた勲章を小刻みに震わせている兵士の手を見ながら、フィニスは兵士の後ろに続いて歩いて行った。
無言のまま城内を歩く兵士とフィニス達。しばらくすると、目の前には大きな扉……があったであろう、ボロボロになった壁面。そしてその奥には広がる広い空間が目に入った。
前を歩いていた兵士がその場で立ち止まり、フィニス達の方へ身体を向けた。
「この先が玉座の間です」
「ありがとう」
「……」
しばらくフィニスのことを見つめた後、握りしめていた拳を開き、勲章に視線を落とす兵士。
「これは……兵士長の護衛部隊として戦場へ向かった兄のものです。魔女の攻撃に巻き込まれ、部隊は全滅したと聞いています」
「……そうか」
「兄を……連れてきてくれてありがとうございました……」
深々と頭を下げる兵士。ポタポタと水滴が地面に落ちていた。
そんな兵士を見たフィニスが、兵士の肩に手を置く。
「ここまで案内してくれてありがとう」
そう言葉を残し、玉座の間へ足を進めるフィニス。その後を追うように続いていくルシオ達。そして、最後尾を歩くニティア。
「絶対に私たちが……魔女を倒して見せるから……」
視線も合わさずに、ただ兵士の前を通り過ぎる瞬間、小さくつぶやくニティア。
その言葉が耳に届いた兵士は、水滴を流している目を大きく開けた後、再び深々と頭を下げた。
「よろしくお願いします……」
ひでお
546
コメント
1件
読了しました〜!まず、門兵の「ヴォルガムから来たって言わない方がいい」って助言がすごくリアルで…。戦争の余韻がまだ残ってる空気感が伝わってきました。そしてフィニスが拾った勲章を兵士に返すシーン、グッときました…。兵士が兄の形見を震える手で握りしめてたのが脳裏に焼きついてます。最後にニティアが小さく「魔女を倒す」って言ったのも、彼女なりの誠意なんだろうなって。今回も心揺さぶられる回でした…!