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「な〜にしてんのっ!」
「うわっ」
俺がキッチンの横の休憩スペースで項垂れていたら、後ろからシェリーが俺の肩を強く叩いた。
「最近元気ないよね、大丈夫? ああ、ごめん!強く叩きすぎちゃった!」
シェリーの突きは弱そうに見えて強いし痛い。それを本人が一番わかっていないのが問題だ。
シェリーはてへっと舌を出して見せた。
「大丈夫…それより、朝食を作りに行かなきゃ。またね、シェリー 」
「あ、うん!またね!」
俺がこの場からすぐに逃げたのは、最近俺の調子が悪いことを追求されたくないからだ。
調子が悪いわけではないが、なんともいつもの振る舞いができなくなってしまった。
理由は明確。
俺がコスモに恋を自覚してしまったから。
恋を知ってしまったから。
好き、だけでは言い切れないような、なんというか…。
告白して結ばれたい。けど、相手が好きじゃなかったら…?
だからって、この気持ちを隠して友達ごっこはしたくない。
じゃあ、いっそ関わらない?リスクは0だけど、それだけはいやだ。
恋がこんなに深いものだって、知らなかった。
そんなことを考えながら朝食を作っていたら、皿を落としてしまいそうになった。
このことを深く考えることはやめよう。いまは料理に集中しないと。
「ベリ〜ボ〜イ〜サンドウィッチをおねが〜い」
「ああ、わかったよ、でもその前にその呼び方をやめろ、コニー」
「そんなに怒らないでよ、スプラウト!冗談だって〜えへへ 」
まったく反省していないような声色で笑うコニーを見て少しイライラする。
ベリーボーイとかいうあだ名はヴィーがつけた。気に入らないし嫌い。
「ところで、スプラウト最近変だよね〜もしかして、恋でもしてるの〜?」
サンドウィッチを作り終えて、コニーに届けようとしていたところで、コニーが爆弾発言をする。
手が止まって、額に汗が流れる。
「あれ〜、もしかして〜図星?あはは!そうなんだ〜ベリーボーイ!」
「うるさい帰れ!!」
コニーの前にサンドウィッチを叩きつけて、厨房へ早足に戻る。
「大丈夫よベリーボーイ!誰にも言わないから〜!」
きゃっきゃと笑うコニーを後ろ目で見て、思わず周りを確認する。
大丈夫、周りは誰も聞いてないはず…。
厨房に戻って、頭を抱える。なんせ、他の人に察せられるほどわかりやすい変化をしているかもしれないからだ。
誰に気づかれてもおかしくない。もちろん、コスモにも…
「えーと、大丈夫?スプラウト…」
頭をかかえてうずくまっているところにコスモが話しかけてきた。
大きく身体が動いて、すぐに平然と見せる。
「…あ、ああ!大丈夫だよ!心配しないで…あはは…」
きっと、いま俺の顔は苺より真っ赤だと思う。
なにより、目が合わせられない。
コスモが俺の額に手を当てる。
「んわっ、こ、コスモ、なななにしてるの!?!?」
慌てて距離をとる。だって、異常に汗がかいていて、気持ち悪いだろうから…。
「熱、あるのかな…スプラウト、無理しないで。今日はもう、休んだ方がいいかも。」
俺に熱があるとしたら、それはコスモのせいだ。
でも絶対熱はない。それはただ、好きな人が近くにいるせいだ。
ただ、ここで作業し続けるのは都合が悪い。なにかをやらかすだろう。
「…あは、そうかも。ごめんねコスモ。今日は先に…」
「看病するよ。」
「…えっ?」
コスモはまっすぐこちらを見つめてそう言い放つ。
好きな人からの看病。まるでアニメみたいな展開だ。
でもそもそも俺は熱なんてないし、あったとして、コスモが隣にいれば治ることはない。
顔が赤いのも、コスモがいる限り、治らないだろう。
「いやいや!大丈夫だよ!俺、自分で部屋まで行けるし、まじで!」
「今の時間帯人少ないし、ほら、前にスプラウトに看病してもらったから…」
それは自覚のない好意だったんだと今更思う。
「あっ、スプラウト…今、いいかな…?」
厨房の横からひょっこりとアストロが顔をだす。そして申し訳なさそうに俺に話しかけた。
「ああ!アストロ!大丈夫だよ!」
「でも、待って。スプラウトはいま体調が悪くて…」
コスモが俺の顔を覗き込む。
「ああ、そうなの?僕でよかったら、看病できるよ。コスモは忙しいだろうし… 」
「確かに、アストロの方が適任だね。お大事に、スプラウト。」
アストロが俺の看病?をしてくれると言ってくれて、俺はコスモと別れて自室へ向かった。
かなり俺には好都合な展開だ。
「で、俺のこと呼んでたけど、何?」
「あの、シェリーからスプラウトが冷たいって言ってたから、なにかあったのかな、って。余計なお世話だったらごめん。」
俺は朝一のことを思い出した。確かに冷たい反応をしてしまっていた。
「そのことは、ごめん…ちょっと、余裕がなくて…」
「余裕がない、って?」
痛いところをつかれて、黙りこくってしまう。
「そうだ、体調は大丈夫?なんか買ってこようか」
「…体調は悪くないし、大丈夫。」
アストロはずっとはてなマークを頭にうかばせている。
「僕なら、相談のるよ。友達でしょ? なんか様子、おかしいし。」
アストロになら、言ってもいいのかな…なんて、俺の中の天秤が揺れる。
また、何も言えずに黙ってしまう。
「ベリーボーイ。」
「やっほー!スプラウト、アストロ!」
後ろから機械の耳障りな声と、甲高い声が聞こえる。
「ヴィー、シェリー… 」
「その呼び方をやめろ!ヴィー!」
「とても似合っているのに、残念。ベリーボーイ。」
ヴィーの言い方にいちいちストレスがたまる。
違くて、俺はシェリーに謝らないと。
「シェリー、朝冷たくしてごめん。ちょっと、余裕なくて 」
俺がそう謝ると、シェリーは予想外の反応を見せた。
「なんで最近元気がないのか、教えてくれたら許してあげる! 」
そう笑顔で言い放った。
「…え?…えっと…ね…」
「私たちに嘘はなしだよ!スプラウト!」
そこまでいわれて、俺に逃げ場はなくなった。
「場所を変えた方がいい?あまり聞かれたくなさそうね。」
ヴィーがそう言って、俺の部屋にみんなを呼ぶことになった。
「狭いけど…ゆっくりしてって。 」
「ありがとう、スプラウト。 」
机に麦茶のはいったコップを人数分置いて、ソファに座る。
ここで聞かれることは決まっている。
「で!なんかあったの?隠すはだめだよ!スプラウト! 」
シェリーが例のことについて追求し始める。
「…あ〜、ははは、え〜と…」
顔が熱い。なんて言おう、どうしよう。
「なんか、お菓子作り失敗しちゃった、みたいなこと?」
「いや、全然そういうのじゃないんだけど…」
全然、それどころじゃない。
大丈夫、全ては言わなくていい。
ふわっとなんとな〜く言うくらいでいいんだ…。多分。
「……恋、してる、みたいな…?」
小声で、俯きながら言った。
だけど、この狭い部屋じゃどう頑張っても聞き取れてしまう。
言ってしまった…言ってしまった…!
でも、誰に恋してるかまでは言ってないし…。
震えて皆んなの返事を待った。
「あー、コスモのこと?」
「…は?」
素で声がでた。
シェリーはなんでそのこと知ってんの??
俺の頭ははてなマークで埋まった。
「やっぱり?なんか、そんな感じしたんだよね!!」
「そのことはもう知っているわ。ベリーボーイ、今更恋を自覚したの?」
「えっ?ちょ、ちょっと、なななななんで知ってんの…?!??」
思わず立ち上がってしまう。
だって、もうすでに、知られていたのだ。
初恋の相手を。
あいつらからしたらしょうもないことでも、俺からしたら人生みたいなものだ。
「スプラウトってやっぱり、わかりやすいね。」
アストロがクスッと笑う。
「な、な、な…」
驚きで声もでない。
ただ口をあんぐりさせているだけだ。
「スプラウトはコスモのこと好きなんでしょ!!反応でわかるよ!」
「………多分…」
恥ずかしくてはっきりした返事ができない。
「多分、じゃないでしょう。」
痛いところをヴィーに突かれてしまう。
あまりの恥ずかしさに汗が滝のように流れる。
「………………………多分……」
ヴィーは少しむっとした。
正直になれない、なれるわけがない。
「恋に正直になれないスプラウト…でも本当にコスモが大好きだよね!!」
シェリーが張り切り出す。
そして、俺に恥をかかせる。
「は、はあ?!」
「でも、恋愛に疎いスプラウトだから、コスモに告白なんてできないよね…」
なんだかディスられているようで癪だ。
シェリーは大きく腕を上げて話し出す。
「だから、私たちがスプラウトの恋、手伝ってあげるよ!!!」
「………はあ?」