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――なんて幸せな夢を見てるんだろう。


ふわりと体が浮いて、リセに体を抱えられたけれど起き上がれない。


「自由に飲ませすぎたな」


男の人みたいに低い声だけど、リセの声。

ずっと聞いていたから、私にはわかる。

リセの甘い香りが心地よくて、ずっとその腕の中にいたいと思った。

私にとって女神同然の存在となったリセ。

綺麗で優しくて、男の人みたいにかっこいい。

ふふっと笑いながら転がった。


「んー……? 転がった?」


転がれるなんておかしい。

それに、私が宿泊するプチホテルの部屋となんだか違う気がする。

お酒が抜け切っていないせいで、思考が鈍っている。


――ここは天国かも。


ふかふかのベッドの上で、思い切り寝返りを打った。


「ふかふかベッド……最高です……」


――いつ、ホテルに帰ってきたんだっけ?


「私、どこにいるの?」

「やっと起きたか」


低い声に気づき、はっとして目を見開いた。

薄暗い中でもわかる広い部屋。

肌触りのいいシーツと寝心地のいいベッド。


――私が泊っているホテルの部屋じゃない!


それがわかったのは、ライトアップされたエッフェル塔が窓から見え、てっぺんの高い所に、月がかかっているのを目にしたから。


「月が見える……」


私が作った印として、服のタグにつけているロゴと同じ三日月。

憧れのリセと出会てた特別な夜と三日月なんて運命的――って違う!


「どういうこと? なにが起きたの?」

「それはこっちのセリフだ」


リセが不機嫌そうに、バスルームから出てきて、髪を拭いている。


「す、すみませんでした! 部屋を間違えました! い、いえ……。そうじゃなくて、間違えたのはホテル?」

「酒の量だろ」

「そう酒の量ですよねって、同じくらいリセも飲んでいたのに……」


頭の中は大混乱だった。

ベッドの上にいるし、枕を抱きかかえて、ちゃっかり占領してしまってる。


――まさか、リセが泊まってるホテルに来てしまった?


「なかなか重かった」


カフェでの出来事が夢ではなくて、現実のものだったんだとわかり、ホッとした。

でも、それと同時に青ざめた。

つまり、私はリセに自分の重い体を運ばせてしまったってことで……

リセが暗闇の中で、ため息をついたのがわかった。


「本当にすみません……。重かったですよね。リセがここまで私を運んでくれたんですか?」

「誰が運ぶんだよ。他に誰もいなかっただろ?」


バスルームから出てきたリセは、バスローブを羽織り、細身だけど鍛えられた体が見えた。

メイクを落とし、服を脱いで、アクセサリーがなくなると、女性らしいイメージは完全になくなった。

月を背に立つリセは、女性でも男性でもなく、月の化身のようで、人間ではないような気がした。


「まあ、俺はお前の婚約者らしいからな?」

「え? でも、あれは――」


リセが私に近寄り、ベッドに手をつく。

ぎしっとベッドが軋む音がして、息をのんだ。


――私ってば、おかしい。リセは男の人じゃないのに、どうして緊張しているの?


私の体を背後から抱きかかえ、背中のファスナーを歯で噛み、ゆっくりとおろす。


「リ、リセ? なにして……」


ただそれだけなのに、肌が粟立つ。

リセの両手が、私の体を逃さぬようにしている。

最後まで背中のファスナーを下ろすと、リセの唇が耳に触れた。


「あ、あの、唇が耳に……」

「嫌?」


耳に息がかかり、体から力が抜けていく。


「嫌じゃないですけど、でも、こんなの」

「じゃあ、いいね」


リセがくすりと笑う声すら、くすぐったい。

背後から抱き締められていて、気づいたけれど、女性してはがっしりした手と体をしている。

下着が落ち、夜の空気に肌が触れ、アルコールが抜けていなかった頭が、徐々にはっきりとしてきた。

わずかに抵抗しようとした私に、リセは気づいたのか、耳元で囁いた。


「こっち向いて。|琉永《るな》」


振り返り、後ろを向くと唇を奪われた。

せっかく頭がはっきりしてきたのに、唐突なキスが、私の道徳観を吹き飛ばす。


「ん……、リ、リセ……」


舌で唇をなぞられると、こそばゆくて、なんだかもどかしい。


――女同士なのにキスしちゃってる?


体を押し倒されて、とっさにリセの体を手で押した。


――あれ? 女の人にしたら、なんだか筋肉質すぎない?


体に触れようとした私の手をリセがつかみ、指にキスをした。

熱い唇の感触と丁寧なキスに、恥ずかしくなって慌ててしまった。


「だ、駄目っ……手を離して……!」

「離してほしい? 本当に?」


私の手にキスをしながら、上目づかいで私を誘惑するリセに逆らえなくなる。

リセが綺麗すぎて、この誘惑に勝てる人なんて、きっといない。

涙目になる私の唇を再び奪い、今度は深くまで、キスをする。


「んぅ……」


リセの指がショーツにかかって――さすがに、この先は駄目!

だって、私たちは女同士なのにっ!


「リセ! 待ってください! 女同士でこんなことするなんてっ!」


私の声に、リセの手がピタリと止まった。


「は……? 女?」

「え?」

「なに言ってるんだ」


リセの不思議そうな声に、目を開けた。

細身だけと筋肉質な体が見え、その体つきはがっしりしていて、輪郭からして、女性には見えない。

バスローブがはだけて見えた体は……


「お、男っ!?」


――憧れのモデル、リセ。彼女は女性ではなく、男だった。

一目惚れ婚~美人すぎる御曹司に溺愛されてます~

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