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裏五条
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オランと契約すれば、亜矢はコランの契約者ではなくなってしまう。
そうなれば、コランは魔界に連れ帰されてしまう。
それでも仕方のない事だと思った。
自分のせいで魔界に帰れなくなり、そのせいで病気になったのだとしたら。
やっぱり、コランは自分の側、人間界にいるべきではないのかもしれない。
その方が、コランの為なのだと——。
亜矢の瞼が震える。
自分を偽り続けてここに立つ、その心に耐えられなくて。
その時。
ふっと、柔らかくて暖かい感触を感じた。
唇ではなく、額に。
「?」
亜矢は驚いて目を開けた。
目の前には、鋭くも優しい眼をしたオランがいつもの笑いを浮かべていた。
「あんたの願いを叶えてやるぜ」
「え?」
亜矢は訳も分からず、キョトンとしてオランを見返す。
その仕草がおかしくて、オランは笑う。
「助けたいヤツがいるんだろ? そいつの所まで案内しな」
「え……でも、契約は?」
オランが口付けたのは、唇ではなく額であった。
これでは契約は成立してないのでは?
オランは再び亜矢に顔を寄せた。
ふいを突かれて驚いた亜矢は、反射的に身を引いた。
「魔界一のオレには端から契約なんざ必要ねえんだよ、ヒャハハハ!!」
亜矢は気が抜けてポカン、とするが、すぐに我にかえった。
じゃあ、さっき契約と称して口付けを求めて来たのは一体何!?
ただの趣味!?
そうだとしたら、ある意味、死神以上にタチが悪い悪魔である。
「さあ、どうした? 案内しな」
それでも、この悪魔は亜矢の願いを聞いてくれるらしい。
悪魔にこう言うのも変だが、根は悪い人じゃないのだろう。
「……魔王、ありがとう」
亜矢は初めて、オランに向けて優しい笑顔を向けた。
それは、自然と出た笑顔と言葉。
「『魔王サマ』だっつってんだろ」
オランがそう言うまで、少しの間があった。
一瞬、亜矢の笑顔に引き込まれた……とは、オランの口からは決して出ない。
唇を重ねなかった事を、今になってちょっと後悔したオランだった。
バタン!
亜矢の部屋のドアが勢いよく開いた。
コランの寝ているベッドの前で座っていたグリアは、その音に振り向くなり目を丸くして固まった。
「あそこのベッドに寝てる子よ! お願い、助けて!!」
「へ〜え? どれどれ……」
なんと、どういう訳か亜矢が例の悪魔の教師を連れて帰ってきたのである。
グリアは驚き、声も発しないまま、ベッドに近付いてくる二人を避けるようにして部屋の隅に移動した。
オランが、ベッドに寝ているコランの顔を覗き込む。
「ほう……コイツは誰かと思えば……」
そう言うなり、オランは眠るコランの頬を軽くピタピタ叩いた。
「オラ、起きなぁ!」
「きゃああっ! 何してるの!? 病気の子にっ!!」
オランの突然の荒々しい行動に、亜矢は慌てて制止する。
コランは目を覚まし、うっすらと開いた瞳でオランの姿を捕らえる。
そして、その口から小さく出た一言。
「…………兄ちゃん……」
ハっと、亜矢の動きが止まる。
「なーにこんなトコでくたばってんだよ、弟」
え? え? と、亜矢はコランとオランの間で何度も視線を移らせる。
「も、もしかして……魔王ってコランくんのお兄さん?」
偶然なのか必然なのか。あまりにも上手く巡り合わせた展開に、亜矢はただ呆然とする。
「それより、今は早くコランくんを助けてあげて!」
亜矢はオランに言う。
「『コランくん』ねえ……ククク」
オランは含み笑いをしながら、片手を亜矢の目の前に差し出した。
ポンッ
すると、オランの手には小さな草が出現し、亜矢の目の前で小さく葉を揺らした。
「え?」
亜矢がキョトンとして目の前に出された草を見るが、オランがそれをグイっと押し付けてきたので、亜矢はそれを受け取った。
「魔界の薬草だ。そいつを小さく刻んで、スープにでも混ぜて飲ませてやりな」
「……やっぱりコランくんは病気なの?」
「いや、人間界の環境に身体が馴染んでねえからよ、ガキには耐えられなかっただけの事だ。ったく、ガキのくせに面倒な……」
そのオランの言葉を聞いたコランが、反応した。
「ガキ……じゃない……」
熱で頬を赤く染まらせながら、不満そうな顔をする。
亜矢は少しホっとしつつも、その薬草を持ってキッチンへと急ぐ。
コメント
1件
**はる。だわ。** オラン、根はいいやつすぎるだろ!笑 唇じゃなく額にキスして「契約なんざ必要ねえ」って言い放つ流れ、めっちゃカッコよかった。しかもコランが弟って展開!?偶然すぎて鳥肌立ったわ。魔界の薬草をスープに混ぜるって優しさも、素直に出せない不器用さが伝わってきて好き。亜矢が初めて見せた自然な笑顔も、この回のハイライトだと思う🔥