テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
290
#ライトノベル
umaimon
3,561
#現代ファンタジー
裏五条
25,784
桜咲かな
715
亜矢が、薬草を入れて作ったスープをコランに飲ませてあげてから、わずか数十分後。
「コランくん、もうちょっと寝てた方がいいんじゃないの?」
「大丈夫、もう元気だぜ! ありがとう、アヤ!」
まるで何事も無かったかのようにすっかり元気になったコランは、さっきまでの反動と言わんばかりに力いっぱい亜矢に抱きつく。
ようやく事態が落ち着いてきたと思い、亜矢の肩から力が抜ける。
だが、今になって死神の姿が見えない事に気付いた。
いつの間に部屋を出て行ったのだろうか?
「……で、コランくんの兄って事は、あなたは本当の意味で魔王?」
床に堂々と足を組んで座るオランには、それだけで魔王としての威厳が感じられる。
亜矢はそんなオランの正面の床に腰を下ろし、あくまで対等の位置で向かい合う。
「ああ、オレは魔界の王、オラン。で、このガキが弟ってワケだ」
「ガキじゃないーー!!」
いちいち反応するコラン。そういう所がまだ子供なのだが、それもまた愛嬌だ。
「あたしと契約しようとしたのは、やっぱりコランくんを連れ帰す為なの?」
コランが口を閉ざした。ぎゅっと、亜矢を抱く手に力が入る。
「ああ? まあ、最初はな。このガキが生意気にも人間と契約したって言うからよ、オレも興味を持ったワケだが……」
オランは、ズイっと顔を亜矢に近寄せ、間近で亜矢をその眼で捕らえる。
亜矢は思わず身を引きそうになったが、オランの顔を見て気付いた。
この人の顔が、誰かに似ていると思った事。
赤の瞳。褐色の肌。そうか、コランに似ていたのだと。
やっぱり兄弟なんだなと、それだけで納得してしまう。
「それが、なかなかいい女だったんでな。オレが手に入れたくなった」
「なっ! なっ!?」
こんな間近で見つめられ、ストレートに言われては亜矢もさすがに戸惑う。
「だ、だって! あたしと契約したら、今度はあなたが魔界に帰れなくなるんじゃ!?」
「オレは魔王だぜ? 魔界の掟なんざ関係ねえ」
「そ、それに魔王がのんびり人間界に来てていいわけ!? 王サマでしょ?」
「魔界の事なら、ディアに任せてあるぜ」
何ていい加減な魔王なのか!? と思いつつも、完全に亜矢はオランのペースに飲まれていた。
すると今度は、その視線で捕らえながら、オランは亜矢の頬に手を触れた。
先程の、口付け前の時みたいに、柔らかく。
亜矢がハっとして目だけをオランに合わせる。
「オレ様の妃にしてやるぜ、亜矢。魔界に連れ帰るのはあんたの方だ」
そう言うオランの透き通った赤の瞳。
死神から与えられたこの心臓から伝わる、彼の心と意志。
オランは真剣なのだ。唐突ではあるが本気で今、亜矢を口説いている。
だが、そんな雰囲気の間に割って入ったのはコラン。
「ダメーー!! 兄ちゃん、ダメーー!!」
コランは必死になってオランと亜矢の間に入りこみ、オランの体を亜矢から離そうと力いっぱい押し返す。
「コランくん?」
今までにないコランの行動に驚きつつも、その仕草がどこか可愛らしく感じ、亜矢は小さく微笑む。
コランにとっては笑い事ではないのだが。
コランは初めて、焼きもちを妬いたのだ。自覚はないが。
「ガキが、生意気に入ってくるんじゃねえよ」
「ガキじゃないってば! アヤはオレの契約者だ! だからオレが側にいる!」
何かを言い合う兄弟。だが、亜矢が聞きたいのはそんな口論ではなくて。
「その事なんだけど、魔王」
オランとコランの動きが止まり、亜矢を見る。
「どうしてもコランくんを連れて帰らなきゃいけないの?」
ふっと、オランが真面目な顔になる。
「コイツには、人間との契約はまだ早えんだよ」
それを聞いて、亜矢は何も言えなくなった。
まだ幼いコランが、人間界に来てしまったせいで。
コランが亜矢の願いを叶えようとして失敗し、倒れてしまったあの日の事。
人間界の環境に耐えきれず、体調を悪くした今回の事。
まだ幼いという事もある。やっぱり、まだ家族の元に……魔界にいるべきなのだと。それがコランの為であると思える。
だが。
その時、コランの力強い口調がその沈黙を破った。
「兄ちゃん……オレの『黒い本』は、消滅しちゃったんだ」
「ああ、知ってるぜ」
黒い本。それは、魔界と人間界を繋ぐ扉で、その本がないとコランは両方の世界を行き来できない。
だが、その本は何故か消滅してしまった。
その本がリョウの手によって消滅させられた、という真実は今は誰も知らないのだが。
「オレ、自分で本を復活させる。そして、いつか自分の力で魔界に帰る。……だから、今はアヤの側で……頑張るんだ!」
小さいながらも力一杯、コランは兄を見据え、気持ちを伝える。
そうか、と亜矢は思った。
人間界に留まる事は、コランにとって修行の意味でもある。
一人前の悪魔になるために、一人で目的を果たす事が出来るように。
年齢がどうこうじゃない。コランは必死に、大人になろうとしている。
多少、背伸びをしてはいるが。
「よく言ったな、弟」
意外にも、オランの反応はそれを否定するものでは無かった。
「いいぜ。だったら、自分のチカラで帰ってみせな。だが、ソレとコレとでは話が別だぜ」
オランは再び、亜矢に近寄った。
「ちょ、ちょっと!?」
「オレ様の妃になりなぁ、亜矢」
「な、ちょっと何すっ……やめてー!!」
亜矢が右手を振り上げ、オランの頬を叩こうとしたが、あっさりとその手首をオランに掴まれ、逆に動きを封じられる。
コメント
1件
第34話読み終わったよ!コランが自分の力で魔界に帰るって決意したシーン、めっちゃ熱かった🔥 兄弟の絆も感じられたし、オランが「よく言ったな」って認めたとこ胸熱。でもその後「妃になれ」は急すぎて笑ったわ(笑)亜矢の戸惑いもかわいかった〜。次どうなるのか気になる!