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周囲をキョロキョロと見渡してコユキは言った。
「もう随分暗くなっちゃってるわね、ここって一体どこだろう? ねぇ、分からないかな?」
一応ダメ元で聞いてみたのだが、意外にもはっきりとした声が返ってきた、これはツナかな?
『ここは松尾神社の鎮守(ちんじゅ)の森だよ、おばさん』
「そうなんだぁ、幽世(かくりよ)を歩いているうちに宝塚市まで移動していたとは…… んでも、確か近くに阪急の駅があったわよね! ラッキーだったわん♪」
路線図にわりと詳しかったコユキは喜び勇んで阪急の山本駅に向かい、その後無事新大阪から懐かしい東海道新幹線ヒカリ号に乗車を果たしたのであった。
むふぅ、そんな擬音を感じさせながら指定席×2に腰を下ろしたコユキに向けて、若々しいマダムチックな声が響くのであった。
「あら? キャァー! 意識高い系の奥様じゃありませんのぉ? 往きも帰りも一緒だなんて…… これはもう運命じゃなくって? どう? 奥様!」
「そうですわね? 運命だと思いますわよ、奥様! それで、奥様、ねぇ、あの、恰幅(かっぷく)の良い奥様! 私達目が覚めましてよ! 情弱卒業しましたんですわ!」
コユキは煩い(うるさい)彼女達に向けてチラリと視線を移すと、大きく溜め息を吐いたのであった。
彼女達、ヤングマダム二人組み、本人曰く『意識高い』系に転移した主婦達は揃って自分に向けて憧れだろうか? キラキラした瞳を向けて来ていたのである。
多少面倒臭くもあったが、憧れてしまったのなら仕方ない、これもアイドルの役目、有名税の一種だろうと達観したコユキは目の前の席を指差して彼女たちに告げたのであった。
「良かったら座る? そこ空いてるみたいだから、あとで車掌さんが来たらアタシが買って置いてあげるわよ」
「「んきゃあぁぁぁぁぁー!! 格好良いですぅ!」」
回転した対面シートに座った彼女たちをコユキは|静々《しずしず》と眺めた。
濃い目の化粧とケバケバしいアクセサリーのせいで気が付かなかったが、こうしてじっくりと見てみると、下の妹リエより少し若いのだろうか?
揃ってマスクを外した姿で、堂々と大阪駅で買って来たのであろう、賑わってるマルシェで手に入れて来たと思われる、御膳を開いて歳相応に、
「「わあぁ! 綺麗っ!」」
とかはしゃいでいた、こうして見ると可愛いものだな、なんてちょっとお姉さんのコユキは思うのであった。
小さい頃、家族で出かけた時なんかに、妹たちがこんな風に一々色々な事にオーヴァーリアクションで驚いていたなぁ、なんてちっとノスタルジックに浸ってしまうコユキ四十歳、そんなお年頃であったのである……
とは言え、年長者として言うべき事は確り伝えなければならないと、表情を引き締めたコユキは、とっても大切な事を若い二人に伝えるのであった。
「あのね、テンション上がるのは分かるんだけど、たこ焼きは最後に取って置きなさいよ! 最初は串カツと蛸の煮物中心にご飯を食べていくのよ! たこ焼きはデザートだからね? デザートよ! 分かった? んでも次は『中華風唐揚げ弁当』行ってみなさいよ! んもうビックリの美味しさなんだからね!」
「「! ……さすがっ!」」
コユキもご満悦だ。
「いや、んな大した事じゃないわよ! さっ、食べなさい! アタシも七つ目の蛸メシを一緒に食べるわよ! んふふふ」
「「んふふふ」」
不意の出会いも二度目なら、勝手知ったる他人の何とやら? 裾擦れ合うも多少の縁、だろうか? ニコニコ笑顔を浮かべながら共に食事を進めて行くのであった。