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20
あまね🍡💠
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廃工場の前――。
夕暮れの海風が静かに吹き抜ける。
黒いコートを羽織った男は、穏やかな表情で三人を見つめていた。
神童は全身へ雷をまとわせる。
「お前……何者だ。」
男は静かに微笑む。
「初めまして。」
「朝霧湊。」
湊は驚きを隠せない。
「どうして僕の名前を知っているんですか?」
男は静かに答えた。
「君とは、一度話をしてみたかった。」
神童が一歩前へ出る。
「質問に答えろ。」
「お前……エデンのリーダーか。」
男は小さく頷く。
「人は私を、ヴォイアントと呼ぶ。」
その名を聞いた瞬間、三人の表情が変わる。
「ヴォイアント……。」
ニュースで何度も耳にした名だった。
神童は雷の勢いをさらに強める。
「本人が目の前に現れるとはな。」
ヴォイアントは穏やかな表情を崩さない。
「今日は戦いに来たわけではない。」
「君たちと話がしたかった。」
-–
湊はヴォイアントを真っ直ぐ見つめる。
「どうして僕なんですか。」
ヴォイアントは少しだけ空を見上げた。
「君は世界で唯一、能力の薬が効かなかった人間。」
「そして――。」
「君の母親を私は知っている。」
湊は息をのむ。
「母さんを……?」
ヴォイアントは静かに頷いた。
「君の母親は、最後まで能力社会に反対していた。」
「能力がなくても、人は幸せになれる。」
「そう信じていた。」
湊は言葉を失う。
ヴォイアントは続ける。
「しかし。」
「愛する人と結ばれるため、自ら能力の薬を投与した。」
「それほどまでに、今の社会は能力を持つことを求めていた。」
小春は胸の前で両手を握る。
神童も黙って話を聞いていた。
「そして。」
「君の父親は、イコル・ヤーレン博士の研究所で働いていた。」
湊は目を見開く。
「父さんが……?」
ヴォイアントはそれ以上は語らなかった。
「今は、まだ話す時ではない。」
-–
しばらく沈黙が流れる。
やがて湊が口を開いた。
「母のことを知っていても。」
「あなたたちがやっていることは間違っています。」
ヴォイアントは静かに問い返す。
「何が間違っている。」
「女の子を誘拐したことです。」
「どんな理由があっても、人を傷付けていい理由にはなりません。」
ヴォイアントは目を閉じる。
「その考えも、一つの正義だ。」
「だが。」
「何も犠牲にせず世界は変えられると思うか。」
湊は迷うことなく答えた。
「思います。」
「時間はかかるかもしれない。」
「遠回りかもしれない。」
「でも。」
「誰かを踏み台にして手に入れた未来は、本当の幸せじゃありません。」
ヴォイアントは静かに湊を見つめた。
その瞳には、どこか懐かしさが宿っていた。
-–
その時だった。
神童が前へ出る。
「話は終わりだ。」
「エデンのリーダーなら、ここで捕まってもらう!」
雷が弾ける。
しかし。
「待って!」
湊が神童の前へ立った。
神童は驚く。
「湊!」
「今ここで戦ったら、何も分からないまま終わる。」
「僕は、この人の話をもっと聞きたい。」
ヴォイアントは小さく笑った。
「やはり。」
「君は母親によく似ている。」
-–
その頃。
近くの電柱へ止まっていたカラスたちが一斉に鳴き始めた。
「カァー! カァー!」
小春が耳を澄ませる。
「どうしたの?」
カラスたちは慌ただしく鳴く。
「赤い光!」
「いっぱい来る!」
「急いでる!」
小春の表情が変わる。
「警察が来る!」
ヴォイアントは静かに振り返る。
「予定より早いな。」
その直後。
遠くからパトカーのサイレンが響き始めた。
ウゥーーー……
グラビティ、ゲイル、ノイズ、ブレイブがヴォイアントのもとへ集まる。
グラビティが静かに報告する。
「能力犯罪総合対策本部も接近しています。」
ヴォイアントは頷いた。
「撤退する。」
去り際、ヴォイアントは湊だけを見つめる。
「朝霧湊。」
「また会おう。」
次の瞬間。
ゲイルが突風を巻き起こす。
ノイズが周囲の監視機器を妨害する。
グラビティが重力で瓦礫を舞い上げる。
視界が一瞬で遮られた。
煙が晴れた時、エデンの姿は消えていた。
その直後――。
御堂率いる能力犯罪総合対策本部が現場へ到着する。
御堂は湊たちを見るなり叫んだ。
「君たち!」
「無事か!」
湊は静かに頷いた。
しかし、その頭の中にはヴォイアントの言葉だけが何度も繰り返されていた。
――君は母親によく似ている。
夕焼けに染まる空を見上げながら、湊は静かに拳を握り締めた。
第53話へ続く
コメント
1件
第52話読ませていただきました。ヴォイアントとの対面、静かだけどすごく緊張感のあるシーンでしたね。湊くんが「誰かを踏み台にして手に入れた未来は、本当の幸せじゃありません」って言い切ったところ、真っ直ぐな信念が感じられて胸が熱くなりました。一方で、お母さんの話が出てきて、湊くんのルーツにも少しずつ迫ってきた感じがします。カラスの鳴き声が警察の到来を伝えるみたいな演出も面白いなと思いました。次がどうなるのか続きが気になります!