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【注意】
十六時の書庫の本について、本来の設定と変えている部分があります。ご了承下さい。
***
「……どうやら夜桜家三女というのはキミのことみたいだね。立花、煌神さん?」
内心舌打ちをした煌神。取り敢えず祓おうと思った彼女は翠神札を創り出した。いわゆる御札だ。花子の方も外套を纏いニコニコしながら戦闘態勢にはいった。
そして、この時。八尋寧々は驚いていた。そう、とても驚いていたのだ。
「え、ええーーー?!!」
突然の寧々の悲鳴に三人が驚く。
「え、あ……なんで、煌神が……」
「あれ?寧々じゃない!やっほー」
驚く寧々とニコニコしている煌神。なんて温度差が激しいことだろうか。煌神と寧々は友達であり、幼なじみに等しいくらいだ。その煌神が何故花子と戦おうとしているのか疑問しか浮かばなかった。
すると、風が吹いた。それが合図となり二人が戦う。急所をしっかり突いてくる煌神とそれらを軽々しく躱す花子。
「あ、分かるかもしれないけどー少年は手を出さないでね」
「お、おう……」
これで完全なる一体一になった。同時に、花子は思った。
(戦い方やべー)
と。そう、さっきから殺気は丸出しで急所ばかり狙ってくる。上手く躱してはいるが結構くるものがある。絶対敵に回せない人物上位に入ってきた。とは言っても両者ともに武器は持っているものの使ってはいない。煌神の武器である御札も使わず水のみで戦っている。花子も包丁は持っているものの使っていないのだ。
この状態で十分が経過した。しかし、疲れてきたのか煌神は動きが鈍くなってきていた。その隙を逃さず花子は包丁を首元に当てた。
「……チッ…」
「あのー舌打ち…聞こえてるんですケド…」
「はっ、なんの事かしらね」
その目は黒く染まっていた。こりゃ確かに、あの二人を足して二で割った感じだな……と納得してしまった。
そこに、とうとう耐えきれなくなったのか光が「ストーップ!」と止めに入った。
「おっと、少年。いい仕事をしたね」
「あら、源後輩じゃない……」
さっきまでのドロドロした目と殺意はどこに消えたのやらケロッとしていた。
──────────
「それで…なんの用かな?立花の少女」
「どうも何も無いわよ。そっちの源後輩と同じ。七不思議を祓いに来たまでよ」
「ふーん?」
白々しく疑って見せる花子だが、そんなことお構い無しに話を続けられた。
「……それで、源後輩は何故、この七不思議といるのかしら?それも、祓わずに」
「あ、それはですね…」
ちょいちょいと手招きをして耳打ちをした。光からすればこの煌神という人物はどう頑張っても源輝と重なってしまう。あの時と同じように説明をする。
「……ま、確かに…そうね、……のも、悪くないかもね……」
「ねェねェー何の話してるノー?……っは、もしかして、エロい話…「喋るな」
ふよふよと彷徨って二人の場所に行き茶化しを入れる。が、いきなり振り返り攻撃用にと右手を突き出し煌神はドスの効いた声で静止の言葉を言った。
そんな右手が目に止まった花子は封印の紙を取りだしこう言う。
「あ、ちょうどいいところにーキミの右手はアブナイから、封印ネ?」
「何言ってるんだ。封印の札が貼られたら皆の目に留まるだろうが」
やっぱダメかーと惜しむ花子を無視し、光に「判った。源後輩の言葉、信じよう」と微笑んだ。
***
「ということで〜仲間が増えましたー」
四人は理科室に来ていた。そう、ある人物に紹介兼自慢を言いに。
「…はぁ。そうですか。…にしても立花の三女がねェ」
「悪いですか?土籠先生」
「いや。別に悪かねェんだが…」
十六時の書庫の元・管理人であった土籠は知っていた。今日、新たな仲間を連れて来るのはもちろん、立花の過去を。
当主である立花の母が死亡する前に産まれた立花の三女。それは奇跡と言って良いほどだった。煌神からすれば姉である影神、光神は既に亡くなり母も煌神を産み死亡した。父は中学生になる前に病死した。それまでに立花とはなにか、祓い屋としての仕事は何かは継がれていたが。
煌神という人物は、母の血を最も濃く受け継ぎ、影神のような優秀さ、光神のような才能あるものを強く受け継いだ。最強と言っても過言ではない。
そんな立花家、現・当主 立花煌神が七不思議の仲間となるのだからいつ祓われるかわかったものじゃない。それを土籠は恐れていた。
「はぁ…ま、くれぐれも浮かれないようにしてくださいね」
「大丈夫だってー」
もう既に浮かれてそうだが…と花子を見てそう思うのだった。
***
「土籠先生」
「あ?…なんだ、祓い屋の娘じゃねェか」
放課後。完全下校時間後。煌神は一人かもめ学園に忍び込んでいた。しかし、理由がある。彼女にとってとても大事な。
「……普。“柚木普”の本。貸していただけませんか?」
「…は、お前、」
「どうしても貸せないと言うなら今ここで祓うこと可能ですよ」
スっと右手を構える。完全な脅しに怖気付いた土籠が「判った判った」と引き出しから探した。
「ほらよ」
「ありがとうございます」
ニコニコと本を開き読み始める煌神に一つの疑問を投げかけた。
「…お前、何故柚木のことを知ってる?」
「……気になりますか?」
本から目線を移動させ綺麗な翠色の、タイタンのような双眸で土籠を見つめた。
「そりゃあな。好奇心ってのはそう簡単に抑えられるもんじゃない」
ま、ソウデスヨネー…と苦笑する。が、心を決めたのか立花家について語り始めた。
「…立花家に地下室があるのはご存知でしょう?その地下には、ありとあらゆる本があるんです。どれも祓うことについての本や術式など…その術式の本の中に“相手の過去を観る”という術があるんです。この術は立花家の当主しか会得する事が出来ません」
「……つまり、今当主であるお前は…」
「はい。その通りです。もちろん会得しましたよ。今日、七不思議の首魁に会いましたよね。彼が私の首元に包丁を当てた時、少し触れたんです。その時に彼の記憶というものが流れ込んできた。彼が弟を殺したことも彼の未来を変えたことも…生きていたなら教師だったとか。……知るつもりは、なかったんですけどねえ……知らないこともあった方が良かったりする…」
窓から夕日を眺めて淡々と語った。本当に知りたくなかった顔をしながら。
「ならなんで、その本を?」
「…ここまで知ってしまったんですからね。……もう少し、詳しく知りたくなっただけですよ」
そう言ってまた本に目線を移す。
「…七番サマには、言ってやるなよ」
「判ってますよ。……言う気にもなれませんし。…これは、先生との秘密ですね」
フッ。と悲しいような、でもどこか嬉しさのある笑顔を浮かべ、本を読み進めた──────
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