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「いるま、遅い」
「ごめんって。なつ」
あのバーの出来事から二日後。大荷物をもって最寄り駅まで来ていた。いるまはいつも通り遅刻してたけど。
「なんでいつも遅刻してんの?」
「んー」
いるまは考え込んだ後、こう言い放った。
「なつと会えるって思ったら緊張して寝れないんだよね」
「え、」
「何?照れてんの?」
「うっさい。行くぞ」
「うん」
何、急に。心臓持たないんだけど。一昨日まで俺たちはすれ違ってた。だからいるまは思ったことは積極的に言うって言ってくれたんだけど、言い過ぎだってば。
改札口を通り、電車に乗る。まだらに開いた席。
「なつ、座りな」
二つ並びの席がないからか、いるまは俺に座らせようとしてくれた。
「え、悪いよ。」
「いいから」
半ば強引に座らされ、いるまが目の前に立つ。なぜか納得したように笑ってんのが腹立つ。
「そういえば、なつ」
「なに」
「今日もかわいいね」
「……っ、おい! 電車の中でそんなこと言うな、バカ!!」
バッと顔を伏せる。俺きっと、耳まで真っ赤だ。
「はは、事実じゃん。照れてるなつもかわいい。」
と余裕な顔で笑ういるまに、俺はそれ以上何も言い返せなくて、膝の上の荷物をぎゅっと抱きしめる。
なんなんこいつ。一昨日と人格入れ替わった?
「んー、でも、もう少し地味目な格好が良かったな。」
「は、なんで?」
「かわいすぎて目のやり場に困る。」
「…っ」
昨日必死にタンスをひっくり返して服を探してた出来事を思い出して、反射的に目を伏せる。
けど、いるまも言ってくれたんだし、俺も返さないと、だよね?
「い、いるまも、」
「うん、なぁに?」
「か、かっこいいよ?」
「はぁ…、まじそういうとこ。もう監禁したい。」
「おい、物騒。」
「ごめんって。でもさ、他の奴らに見られたくないのはほんと。」
「そうかよ」
「うん。もっと自信持てよ」
「善処する。」
その後、いるまの「かわいい」攻撃に耐え、なんとか目的地に着くことができた。
「よし、ついたな」
「うん」
目の前には古き良き温泉宿。看板には『つむぎ』と書かれている。
中に入り、いるまがチェックインを済まそうと、受付に向かう。その間、少し中を探検してみることにした。
「…中庭、きれいだな」
緑のきれいな盆栽が日光に当てられ、まぶしく光っている。
「ねぇ、今一人?」
うわ、ナンパかよ。こういうとこでよくやるな。隣を見るといかにもチャラそうな男。
「俺、男ですけど?」
「えー、そうなの?でもすっごい好み。よかったらこの後きれいな商店街案内してあげる」
「わっ、」
ふと、背中にあったかい体温が触れる。紫色の髪が目の前でさらっと流れたので、いるまが来たのだと悟った。
おせーよ、バカ。
「ごめん。こいつは俺とそこに行く予定だからさ。」
「え、あ、すみませんでした。」
ナンパ男はいるまの圧に耐きれないのか速攻自分の部屋に戻っていった。
「ほら、言われたそばから。」
「え?」
「いや、かわいさ自覚持てよ、って言ったよな。もう正直このまま部屋に行って愛でたいとこだけど。」
「…っ」
「さっきあのクソ野郎が言ってたきれいな商店街行くか」
拒否権がないかのように、俺の手をつかんでいるまは言う。そーいうとこ、嫌いではない。
「うん。あのさ、」
「なに?」
「助けてくれて、その、ありがと」
「ん、当然だろ」
がやがやと人の声がする、商店街に足を踏み入れた。
「よし、あそこの店から回るか」
いるまはそう言うと、当然のように俺の指の間に自分の指を滑り込ませた。
「おい、こんな人ごみで、」
「人ごみだから、だろ?俺のなつに変な虫はついてほしくないし。こんどこそ何するかわからない」
「ん、そうかよ」
「うん。だから、一生俺の隣にいて。」
「プロポーズかよ」
「さーね」
「あ、なつ。これ食うか?」
立ち寄った店で買った名物の揚げ団子。いるまが一本差し出してきた。
「ん、ありがと。……あ、熱っ」
「はは、慌てんなって。……あ」
「なに?」
「なつ、口の端についてる。……じっとしてろ」
「え、自分で拭け……っ!?」
いるまの親指が俺の唇をなぞった。それだけじゃなく、いるまはその指をそのまま自分の口に運んで、パクっと……。
「……っ!お前、何して……!?」
「んー、甘い。なつ、すげーいい顔してる。……やっぱ監禁しとけばよかったわ」
「……バカ!死ね!」
「死なない。なつと一生一緒にいるって決めたし」
さらっと重い愛を吐くいるまに振り回されながら、ふと見つけた古びた雑貨屋の軒先。そこには、ペアの木彫りの根付が置いてあった。
「……これ、最初の記念日に買ったやつに似てんな」
いるまが不意に足を止めて、懐かしそうに目を細める。
「あ……本当だ。……まだ持ってるよ、俺」
「俺も。……あの時よりさ、今の方がなつのこと好きだわ。更新され続けてんだよね」
「…………」
「なつ?」
「……俺も、……一昨日より、今の方が……ずっと、好き」
消え入るような声で返すと、いるまは満足そうに俺の頭を乱暴に撫でた。
「聞こえた。……よし、宿戻るか。ここから先は、他の奴らに見せたくない」
「……もう、そういうのは早く言うなって、……バカ」
宿に戻り、部屋に入る。電気をつけ、荷物を置いた。
「このあと、どうするん?」
「んー、温泉入るか。」
「そーだね。確か個室ごとにお風呂あるんだっけ?」
「うん。結構デカかったよ。」
「そっか。俺あんまし他の奴に裸見られるの苦手だし、個室でよかった。」
「うん、俺もなつはそうだなって思ったから。」
「さすが。」
「まぁな」
脱衣所に行き、服を脱ぐ。脱ぐのが早いいるまは、先に湯船につかってしまった。
俺も遅れないように、とすばやく服を脱ごうとすると、ある文字が目にはいった。
『ご自由にどうそ』そうメモが張られた小さい冷蔵庫。中を見てみるとカクテルがたくさん並んでいた。
「いるまー」
「ん?」
「カクテル飲む?」
「うん。」
「何がいいー?」
「キャロルある?」
「んー、ない」
「じゃ、コープスリバイバーは?」
「ん、あった。持ってくね」
「ありがと。」
自分の分で、XYZというカクテルを持ち、湯船に向かう。
「ん、」
「ありがと」
二人で一口飲んでみる。もう、あのバーの時みたいに冷たくない。
あったかい湯気が俺らを包んでくれる。
「ん、おいし」
「な」
「いるま、」
「なに?」
「今日までありがとう」
「何、急に」
「んー、今日が付き合って5年目の記念日じゃん?だから」
「そっか。今思えば長かった気がするし、短かった気がする。」
「うん。楽しかった。」
「俺も」
二人思い出に更けながら、グラスを、カラン、と重ね合わせた。
「なつ」
夕食も食べ終わり、部屋についてるベランダで星を眺めていたころ。いるまに呼ばれ、振り返る。
そこには少し緊張した顔つきのいるまが立っていた。
「なに?どしたん?緊張して」
俺の質問に答えることなく、いるまは片膝をついた。手には指輪の入った箱。いわゆる『プロポーズの姿』。
「俺と結婚してください」
「…っ」
いるまは震える声でプロポーズの言葉を口にする。なに、緊張してんの?お前らしくないな。
俺が言う言葉は決まってんじゃん。
「はい、喜んで」
~end~
「エンジェルキッス」↝「あなたに見惚れて」
「キャロル」↝「この想いを君に捧げる」
「コープスリバイバー」↝「死んでもあなたと」
「XYZ」↝「永遠にあなたのもの」