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「なんっじゃこりゃあああああ!!」


翌日、ライブを開始して程なくして、ピアーニャの絶叫が響き渡った。


「総長うるさいのよー」

「しょーがないだろっ。これは、わちわるくないぞ!」

”うん、総長ちゃんは悪くない”

”ピアーニャちゃんが正しいな”

「『ちゃん』つけんな!」


原因はもちろん、昨晩アリエッタが描いた……いや、作った物。

ライブが始まってから意気揚々と見せびらかし、実際に使ってみた結果、ピアーニャは叫び、ネフテリアは固まった。視聴者の多くも絶叫し、一部の視聴者のみが現実逃避気味にピアーニャをからかっている。

作った本人はというと、キョトンとした顔で内心ほくそ笑んでいた。


(あれー? また何かやっちゃいましたー?)


とても満足気である。

アリエッタが持っているのは、ミューゼが作った浅い木箱のトレー。その中に網目模様が描かれた紙が入っており、その上に大量の色のついた木屑、そして着色した木片が置かれている。木屑が風で飛んだり零れないように、魔法で透明の薄い板を被せて。

紙の中心に書かれた三角のマークを広く囲うように木屑が周囲に集まり、青い木片が中心のすぐ近くと紙の端に、赤い木片数個が同じく端に置かれている。このように木屑で描かれた図形が、大混乱を招いたのだ。


「うむ。立派な地図ですね……」

”真ん中の三角が向いてる方向だよな”

”全貌は見えないけど、これは便利ねぇ……”


木屑が描くのは地形。中心にある自分の位置からそれなりに広い範囲を網羅し、今いる場所から見えない行き止まりまで把握している。


「この青と赤は何なのよ?」

「あお、ぽーたる」

「……おぉう」

”そういえばそうだ”

”近くに1つと、その方向に1つあるって事か?”

”それめっちゃ重要な情報じゃん”


青の木片は2つのポータルの位置。前の層に転移するポータルがすぐ後ろに青が1つ、そして枠の外側にある1つはもう1つのポータルの方向を示している。これだけでも迷う可能性は大幅に減るだろう。


「あか、べれすと」

”まじか……”

”壁の向こうに2体いるって事?”


赤の木片はヴェレストを示している。アリエッタは意識していないが、近くにいる方から木片の数だけ位置と方向が分かるようになっている。


”それ欲しい!”

「ムリなのよ。アリエッタだけの能力なのよ」

”じゃあアリエッタちゃんを嫁にください”

「3枚におろしてやるのよ」

”ひっ”

”影晶板越しに殺気が……”


要するにアリエッタが作ったのは木屑を使った「ミニマップ」である。歩けば木屑が動いてマップが変化する。当然ながらアリエッタが触っていないと機能しない。


(『砂絵サンドアート』経験は少なかったけど、能力でなんとかなるもんだなー)


本来なら色とりどりの砂を使って絵を描く『砂絵サンドアート』だが、今回アリエッタは木屑で代用した。インクで描く絵と違い、『砂絵サンドアート』であれば色が動かせるという考え方によるものである。

あとは色のついた木片が何を示すのかを紙の裏に設定するかくと、前世のゲームでよく見たミニマップと同じように便利なものとなった。


「うぅ……またしてもアリエッタのカチがあがる。あがってしまう」

「もうアリエッタ無しじゃ生きられない体になってしまいましたね」

”言い方ぁ”

「いやだあああ! はやくわちがオトナだっておしえてくれええええ!」

『だが断る』

「コエそろえてまで、ことわるなあっ!」


アリエッタがシーカーの仕事に貢献する程、もしくは貢献出来るネタを出す程、ピアーニャはアリエッタから離れるわけにはいかなくなる。それが恐ろしいのだ。

そんな悲痛な叫びによって、ネフテリアの硬直が解けた。


「はっ……わたくしのミューゼハーレムはどこに?」

「どんな夢見てたんですか……」


現実逃避の幸せな幻から戻ってすぐに、目の前の木箱を見て一気に青ざめる。


「ねぇテリアおねーさん。行かないの?」

「あ、そ、そうね。こんなところで意識飛ばしてる場合じゃないわ」


メレイズのひと言で我に返り、再びヴェレスアンツの最奥に向けて出発するのだった。




少し進むと、石が集まって出来たような狼のようなヴェレストが2体現れた。この層では石などで動物などを模ったヴェレストが存在している。


「なるほど。本当に赤いのがヴェレストなのね……」

「凄いのよーアリエッタ」

「えへへ」


唖然とするネフテリアの後ろでは、アリエッタがパフィとミューゼに撫でまわされてご満悦。

コメントもネフテリアと一緒に驚愕するものと、アリエッタを見て蕩けたり興奮したりするものが混ざって、混沌としている。


「よーし、相手が砂利ならあたしの番ね! 見ててアリエッタ!」

「ふぇ?」


現在は8層。それなりにヴェレストは強くなっている中で、ミューゼは自信満々。石の集合体を砂利扱いしている。

今までにないミューゼの態度を見て、ピアーニャとネフテリアが首を傾げた。


「いけるのか?」

「大丈夫ですよ、パフィも一緒だし」

「ダメでも全力で慰めてあげるからね?」

「いりません」

「なんなら大きくなるようにおっぱい揉んであげるから!」

「いるかああっ!」

ゴスッ


唐突なセクハラ発言に、ミューゼは足元の石を投げつけ、ネフテリアを黙らせた。


”王女様になんてことを……”

”おっぱい揉まれてる所を配信してくれるんじゃなかったのか!”

「しないから! 揉ませないから!」

「ちょっとミューゼ、来てるのよ」

「……しょーがない。後でテリア様にもう一回石投げよう」

”ひでぇ”


ミューゼとパフィは一瞬目を合わせ頷き合う。それが合図だったようで、2人は同時に駆け出した。

子供達にはその動きだけで格好良く見えたので騒ぎ始めた。


「何今のかっこいい!」

「すごい息ぴったり……」

「はわぁ」(ミューゼとパフィの連携。やっぱりいいなぁ)

”1人だけ女の顔になってるじゃねーか”

”マセてるわねぇ”


応援の視線もあって、ミューゼ達のテンションは上がっている。射程圏内に入った岩狼のヴェレスト達に向かって、まずはミューゼが仕掛けた。


「【縛蔦網アイヴィーウェブ】!」


大量の蔦が地面を這い、ヴェレストを捕えようとする。しかし、狼型だけあって動きが速く、余裕で躱される。

しかし回避した先には既にパフィが回り込んでいた。蔦を一部盛り上がらせて回避可能な方向を限定したのだ。

回避直後でバランスを崩しているヴェレストを、パフィは両手で握った巨大ナイフでミューゼの目の前の蔦の中に叩き落とした。

すかさずミューゼが落ちてきたヴェレストに接近、杖を押し当てる。


「はいお疲れ様。【埋種葬パラルシード】」


ヴェレストがビクンを震えた後、その石の体全体から無数の蔦が生え、体に巻き付いた。そして小さな葉や花を開き、動きを止めた。

この魔法は触れた相手に直接種を植え付け、急激に成長させる魔法である。生物に使うとグロいので、接近された時の最後の奥の手として使うのだが、相手が土や石であれば話は別。確実に無力化させる手段として、遠慮なく用いる事にしている。


「キャーすごいー! ミューゼすごいー!」(犬の形に狩り取ったトピアリーみたいになった! こんな事もできるなんてミューゼ凄すぎもうだめ好きぃ!)


早くも限界を迎えようとするアリエッタだが、ヴェレストはあと1体残っている。蔦に巻き込まれないように注意しながら、パフィと対峙中。


「グゴゴ……」


大きな石をこすったような唸り声とともに、ヴェレストの前足が変形。左右の足の外側に大きな刃が生えた。攻撃と防御を兼ねた蔦を切り裂く手段が必要だと判断したようだ。


「あれってクリエルテス人の能力よね」

「まぁリージョンをパクってるなら、そのへんもパクるか」

”ますます修行に最適なリージョンだな、ここ”

”いろんなリージョンのいろんな行動が見れるものね”


呑気に分析するネフテリアとピアーニャ。ミューゼとパフィの心配は全くしていない。この2人の連携は、まだ未熟な今でも信頼出来るほど強力なのだ。


「【フルスタ・ディ・リーゾ】!」


右手に持つ武器をナイフから餅に変え、鞭として操って捕えにかかった。

石などの硬い相手に対して有効な攻撃手段に乏しいパフィは、ミューゼが魔法で狙いやすいように敵を動かし、足止めを担当する。

石とはいえ狼型のヴェレストはそれなりに動きが速いので、少し離れた位置からパフィ1人で捕えるのは難しい。しかし、1体目を始末し終えたミューゼが加わればそうはいかない。


「【呑檻花スワローリップ】」


パフィがヴェレストの足元を狙うタイミングで、ミューゼが捕縛用の魔法を発動。それが生えた時にはヴェレストは大きく跳躍してしまい、空中で身動きがとれない。


ぱくん


無防備になったヴェレストを、大きな花が丸呑みした。

しかしヴェレストは諦めない。前足に生やした刃で花を切り裂き、外に出ようともがく。が、パフィは餅を花に巻きつけ、狼の動きを花ごと封じた。柔らかい餅は刃では切りにくいのだ。

後は花の中に杖を突っ込んで、【埋種葬パラルシード】を使って決着である。花の中から狼型の草の塊が転がり落ちた。


「あなた達、2人で真面目に進んだら、11層普通に突破出来るんじゃないの?」

「そうなんですか?」

”回避出来ない連携ってすげえな”

”勉強になったわ”

”2人から慢心も感じないしねぇ”


ミューゼとパフィのコンビに対する評価は、ヴェレスアンツでもかなり高いようだ。

2人は照れて、顔を赤くした。


”かわいいな”

”ファンになったわ”


その様子を離れた所から見ていたアリエッタが、とうとう限界を迎えてしまった。


「ミューゼ~~~~!」

「えっ、おっとぉ」


惚けた顔のまま突撃してきたアリエッタを、ミューゼが受け止めた。


「すごい! ミューゼすごい!」

「うふふ、ありがとおぉぉ?」


賞賛とともに、アリエッタがこれでもかとミューゼに頬擦り。一瞬困惑するが、すぐにミューゼの顔が蕩けてしまう。


「ほあぁモチモチすべすべ可愛すぎて溶けそう……」

「アリエッタ! 私にも、私にもなのよっ」


顔どころか体ごと溶けたアイスクリームのようになってしまった。すぐにパフィも同じ状態に……いや、こちらは興奮しすぎて赤いソースをトッピングしている。


”さっきの凄い連携見せてくれた2人はどこ?”

”アリエッタちゃん強すぎんか”

”私もああなる自身あるわ……”


この後、ドロッドロに溶けた2人を運びながら8層を突破。

アリエッタのミニマップのお陰でほぼ迷う事なく、倒す必要が無いヴェレストはメレイズとネフテリアが追い払いながら、ポータルに辿り着いたのだった。

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