リーダー(的)の言葉を聞いてそうなった自分の姿を想像してしまったコユキはぶるるっと全身を小刻みに震わせた。
瞬間、周囲の空気がコユキを中心にして、外に向けて一気に拡散するようにコユキ臭い空気を溢れ出させる。
その匂いが鼻を衝いたのか、僅か(わずか)に顔を引き攣らせながら、コユキに自己紹介をするリーダー(的)な男。
「改めて、俺はここ幸福寺檀家会、青年部のリーダーを和尚様から任されている四桐(しきり)鯛男(たいお)てんだ! 宜しく頼むぜお姉さん!」
なるほど、やはりリーダーだったようだ。
元気一杯に挨拶し名前まで名乗ったのだから、今後主要メンバーとして活躍してくれそうな展開だと思うだろう。
しかし、私の知る限りこの、シキリタイオという名前が記録に出てくる事は無い、つまり脇役であろうと推考できる訳だ、恐らく『聖女と愉快な仲間たち ~セピア~』止まり位なのではなかろうか? などと、私が観察結果の考察をしている間に、コユキもリーダーに対して、あ、ども、コユキです、なんて感じで挨拶を終えたようだ。
そのまま、社交辞令も兼ねた軽い世間話に移行しつつ善悪の元に歩き始める二人であった。
「青年部って言ってましたけど、活動としてはどんな事をしてるんですか? ボランティアとか新規の檀家さん獲得とかですか?」
コユキが聞いた。
「いやぁ、たまにお寺のお手伝いする位で、活動って活動は…… まぁ、強いて言えば週二回、和尚様の指揮で集団戦闘のフォーメーション訓練してる位かな? いつか、来るべき時に和尚様のお役に立つためにね! 世界が特大の恐怖に恐れ戦(おのの)く時、和尚様はヤツと雌雄を決するお覚悟で居られるんでな、その時足手纏いになる訳にゃいかないだろ?」
コユキには大体なんの話か察しがついた、しかし、念の為の確認をしようとリーダーに対して水を向けるのであった。
「それって、ザトゥヴィロの事、……ですか?」
「!」
リーダーは一瞬驚いたように息を呑み、その場で立ち止まりコユキに向けて語り出したが、その表情はニヤリと言った物であった。
「やっぱり! ってぇ事は、コユキさんがマーガレッタ王女で当たってたって訳か! 俺たちが予想していた通りだったぜ!」
「えっ! い、いえアタシは、その、マーガレッタさんじゃなくて……」
「っ! そ、そうか、そうだよな、悪かった、軽はずみに姫様の正体を口にするなんて、俺とした事が迂闊だったぜ、この通り謝るんで許してくれよ、姫様」
コユキの打消しも正しい意味では伝わっていないようで、リーダーは更に言葉を続けた。
「今日急に集合が掛かった時に、何となくこんな話なんじゃ無いかって気がしてたんだよ! でもこれで、和尚様の話にイマイチ懐疑的(かいぎてき)だった奴等にも、事の重大性が伝わるだろうし、今後はますます訓練に身が入るってもんだ! こりゃ、畑なんか耕してる場合じゃねぇな~!」
「ええっ! えっと…… 稼業はおろそかにしない方が…… いいんじゃ……」
「心配いらねえよ、お姫さ、コユキさん! 世界がやばいって時に、自分の女房や子供達の事なんかに囚われていたら、仏さまの罰が当たっちまう! あそこにいるあいつらだって同じだぜ! こりゃ、忙しくなりそうだぜ!」
だめだ、ちゃんと説明しても聞いてくれないムードになってしまった、とコユキは思った。
既に、名前一つにしても、世を忍ぶ仮の姿扱いになっているのだ、安易な言葉では説得出来ないと、コユキが慎重に言葉を選んでいると、空気を読まずにリーダーが言葉を重ねる。
「それにしても、あの人形集めばっかりだと思っていた朴念仁(ぼくねんじん)の和尚様がなぁ~、スミに置けないじゃないか!」
「えっ?」
「ふふん、いつのまにかこんな良い(肉を付けた)人を見つけているなんてな、全部片付いてからも和尚様を頼むぜ姫さ、コユキさん」
リーダーの勘違い発言を聞いたコユキは考えていた台詞も全てぶっ飛び、顔を真っ赤にして固まってしまった。
その様子を見て、リーダーは悪戯(いたずら)そうに笑いながら言ったのだった。
「ははは、こりゃ、外野の要らぬお節介だったみたいだな! まあ、今後ともよろしくな、ご新造(しんぞう)さん!」
「ご、ご新造っ! も、もう、揶(からか)わないで下さい!」
顔を茹蛸(ゆでだこ)みたいに真っ赤にしたコユキが、リーダーに抗議するかのように、彼の抱えた布団の真ん中辺りを叩いた…… 例の体重移動を加えて……
瞬間、
ドヒュッ!
リーダー、四桐(しきり)鯛男(たいお)の体はその場に残像を残し、一直線に鉄筋コンクリート製の納骨堂に向けて射出された弾丸のように飛んで行くのだった。
コユキがしまった、と焦りながら見つめる射線上に、いつのまにか善悪とオールスターズの残りのメンバーが立ち塞がっている。
「密集態勢イオタ!」
善悪の声を合図に残りのメンバーは、一瞬にして魚鱗(ぎょりん)の陣形を取り、善悪は矢継ぎ早に指示を出す。
「防御姿勢シグマ! っ! いやオミクロンだ、急げ!」
シグマの声に一旦ワンチームばりのスクラムを組み掛けたメンバーたちは、続いて響いたオミクロンの声に反応し、すぐさま左右に分かれ、転がり込みながら射線上から距離を取っていく。
只一人射線上に残った善悪は、静かに両腕を広げ、目測時速七十キロオーバーで迫り来る四桐鯛男の体を受け止めるべく、絶好のタイミングを探り続ける。
ここだ! 衝突の瞬間、鯛男を包み込むように抱き止めた善悪は大声で叫んだ。
「エクス・プライム!」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!