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それから俺は、今まで以上に(名前)の事を恋人扱いするようになった。
俺と同じところまで堕ちて欲しくて。
放課後、部活が無い日は誰もいない教室で二人きりになるようにして、意識させようと甘い言葉を吐いた。
「(名前)いい匂いするね、可愛い」
「な、なんだよ…近いな」
「本当に可愛い、食べちゃいたい」
「は!?何言ってんだよ!
最近変だぞ倫太郎、なんかあった?」
そうやって困惑して顔を赤らめてる姿が可愛くて、もっと動揺させたくて。
俺は優しく微笑んだ。
もっと俺を考えて、と。
「別に、なんもないよ」
「それなら別にいいんだけどさ…
そういうのやめて…ドキドキするから」
(名前)は恥ずかしそうに目を逸らして、右頬を掻きながら言った。
“そういうのやめて、ドキドキするから。”
“ドキドキするから。”
その言葉は俺の中で何度も反響した。
意識してくれてるんだ。
もうすぐ俺と同じ気持ちになってくれるんだ。
目の前に居る(名前)は耳まで紅くして、首を抑えていた。
眉間に皺を寄せた目元は少し潤んでいて。
あぁ、ダメだ。
触れたくてたまらない。
理性が途切れた一瞬、俺は考えるより先に体が動いて、(名前)にキスをしようとしていた。
あと五センチ。
あと一センチ。
(名前)の吐く息が頬に触れる。
こんなに距離が近くなるのは初めてだ。
「ちょっと、落ち着けよ…!」
「…(名前)」
(名前)は俺の胸を押して、肩で息をしながら拒んだ。
あーあ、もうすぐで(名前)に触れられたのに。
「そういうのは、恋人とするもんだろ…。
大切にしとけよ、俺みたいな男にするんじゃ無くて…もっと可愛い女の子とかさ」
(名前)は更に眉間の皺を濃くして、震える声でそう言った。
違うよ、(名前)。
女の子とか興味ないんだ。他の人とかどうでもいい。
俺はお前の事が本当に好きで。
好きで。
どうしようもないくらいに、好きで。
「(名前)。俺、お前のこと…」
「もう、帰ろ」
俺がずっと言いたかった言葉は、(名前)によって勢いよく押された椅子の音で掻き消された。
まるで、俺がこれから言う言葉が分かっていたみたいだ。
わざと、意図的に遮られた。
「俺さ、倫太郎のこと一番の親友だと思ってるから。これからも変わらないから。
だから、今日のことはお互い忘れよ!ずっと引きずってても気まずくなるだけだ!」
そう言って振り返った(名前)は、いつもと変わらない笑顔で手を差し伸べてきた。
お前がたとえ俺を親友としか見なくても、これからもその愛おしい手を差し出してくれるのなら、今は目の前にある親友という蜜に縋ろう。
そう思い、差し出された手に自分の手を重ねた。
(名前)の手は雪みたいに冷たくて、それが俺の体温で暖かくなっていくのが嬉しかった。
さっきまで強引に遮られてグチャグチャになっていた俺の心が、急速に温まっていくのが分かった。
関係が崩れてしまうのなら、今はこのまま。
堂々巡りの気持ちを抱き締めたままで。
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