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冬の夕方は陽が落ちるのが早くて、俺たちを包み込む空には群青色が広がっていた。
いつもの公園のベンチで、俺たちはいつもの様に座った。
本当に、さっきの教室での出来事が無かったかのように。
「…そういえば、今日数学の井野ちゃん先生に居眠りしてるのバレちゃってさ!
めっちゃ大変だったんだ、よねー…」
何もなかったかのように振る舞えていても、居た堪れない空気は流れを止める事はなかった。
その沈黙を(名前)は気まずそうに破って、そのまま俯いた。
「そうなんだ。寝ちゃダメだよ、どうせバレるんだから」
「ははっ、そうだよな!
でも一年の時、倫太郎の影に隠れて寝てたからそれが習慣になっちゃったんだよ!」
俺がいつもみたいに返したからか、(名前)は嬉しそうに話し始めた。
暗くなった夜空が、(名前)のキラキラした笑顔をより際立たせていて、俺は(名前)の横顔に夢中になっていた。
「…倫太郎、その、さっきはごめんな。
今日のことは忘れよう、お互いのためだって勝手にお前の気持ち決めつけて…」
(名前)は目線をあちこちに向けながら、ポツポツと小さな声でそう言った。
「うん、ちょっと傷ついた」
「ご、ごめん!本当にごめん!
倫太郎が嫌いとかじゃないし、ていうか大好きだし…でも、これからもずっと大親友のままでいたいんだ!
だから、その…」
そこで(名前)は言葉を詰まらせた。
照れ臭そうに下唇を噛んで俯いている。
「何?(名前)」
「…倫太郎、ずっと一緒にいてくれる?」
「え…」
あまりに予想外だった。
(名前)がこんな事を言うなんて。
俺の左腕を両手で掴んで、俺の目を真っ直ぐ見て、耳まで真っ赤にさせて。
俺の視界は輝きで溢れた。
いつの間に、こんなにも(名前)に必要とされていたなんて。
嬉しい。
嬉しい嬉しい嬉しい。
抱き締めたい。
でも、(名前)は俺に対して同じ想いを持ってなかった。一度拒まれた。
なら、
「うん、もちろん。永遠に誓うよ」
今はせめて、頬を撫でさせて。
「…くすぐったい」
「我慢してよ、もう少しだけ」
「…少しだけな」
「うん」
(名前)、茹でタコみたいに真っ赤で可愛い。
撫でられてる方に重心が傾いてるのも、どこに視線をやって良いか分からずに伏せてる目も、全部愛おしい。
あぁ、なんて幸せなんだろう。
ずっとこのまま、この時間のままで。
時が止まってしまえばいいのに。
もっと、もっと俺でいっぱいになって。
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