前回条野さんと会ってから10日が過ぎた。
私の事が好きな訳じゃない、そう思った次の日から少しづつ今までしていた事を辞めたり、減らしたりと変化していった
例えば毎日何通も送っていたメールを朝の「おはよう」と夜の「おやすみ」だけにしたり、自分から逢う約束を取りつけるのを辞めたり、電話も掛けるのを辞めた。
本来ならはっきりと別れる選択をする事が正しいのだと理解っている。でもまだ完全に諦めきれず、臆病な私は自分から条野さんに別れ話をする勇気が持てない
──しかしこの後直ぐ、私の条野さんへの想いが消え失せてしまう出来事が起きる__。
▼△▼△▼△
【今日も可愛い。君を愛してるよ】
【〇〇ちゃん、恋人は居るの?居ないなら俺と付き合おう】
【今日の服装凄く似合ってるよ。その服装で今度デェトしようね】
【昨日〇〇ちゃんが食べていたサンドイッチ、俺も食べてみたけど、凄く美味しかった】
【今日夢に〇〇ちゃんが出てきたんだ!これはもう運命だね!】
【休みの日は何してるの?今度お家デェトしたいなぁ】
【この間楽しそうに話していた男は誰?真逆恋人じゃないよね?】
『はぁ____。』
ここ1週間毎日、家の郵便受けに差出人不明の不気味な封筒が送られてきている。
手紙の内容も怖いけれど、何より私の家を知られている事実に更なる恐怖を覚えた。
俗に言う〝ストーカー〟であると直ぐに気づいた__。
私の服装や食べ物、話した男性など、それらを知っていると云う事は視られている…監視されている可能性が高い。
しかし後をつけられている気配はなかった。
まぁ単に私が気付いていないだけなのかもしれないけど…
問題はこのままストーカーを放置するか、其れとも警察に相談するか……。
ただ実害がないし、今のところ手紙が郵便受けに入ってるだけだからもう少し様子を見てみようかな。
__そう呑気な事を思っていた。今日までは。
ストーカーの様子を見てから対策を取ろうと思っていた次の日、まるで謀ったかのように行動が大胆かつ恐ろしいものへと変わった。
郵便受けには今迄よりも大きいA4サイズの封筒が入っていて、手に取ると手紙以外の物が中に入っていると認識出来た。
そして実際封筒の中身を開けてみると、私の写った写真、
それから__小さいぬいぐるみが入っていた。
何故ぬいぐるみ?
小さい手持ちサイズの可愛らしいぬいぐるみ。
さてどうしたものか……、捨てるべきなのだろうか。でもぬいぐるみに罪はない訳だし、捨てるのは勿体ない
とりあえずぬいぐるみは封筒の中へ戻し、次に写真を見た。
写真には私の通勤姿が写っていて、それも会社の近くで。
そして手紙の内容は
【今度手土産持って〇〇ちゃんのお家に行くね】
『っ……、』
手紙を読んでゾワッとした寒気を感じ、少し体が強ばった
怖い。どうしよう条野さん。助けて…___。
▼△▼△▼△
ストーカー行為が激化して更に1週間が経過した今日この頃、
私は今条野さんの自宅に向かっている。
実は前回会ってから3週間程経っていて、自分から逢う約束を取りつけるのを辞めようと思い控えていたが、今回また私から逢う約束を取りつけた。
その一番の理由は例のストーカー行為案件についてだ。
毎日送られてくる封筒の手紙には一方的な好意を書き連ねる、ありもしない妄想をぶつけられて其れだけでも怖い。
しかしその他にも手作りのおにぎりや飲み物、装飾品のアクセサリー類、他にもストッキング等、色んな物が送られくるようになった。
しかも性的羞恥心を害する物まであり、本格的に拙いと思った私は警察に相談する事を決めた。
そして今回の件を通して私は、とある賭けをする
条野さんにストーカーの事を話して彼がアドバイス又は助けてくれるならこれから先も好きで居続ける──
でも冷たくされたり邪険に扱われたり、解決する見込みが無ければ身を引く──
彼は、私がそんな事を思っているとは想像すらしていないだろう。
果たして吉と出るか凶と出るか
運命の歯車は既に動き始めていた____。
条野さん宅にやって来た私は、目の前でちょっとした作業をしている彼にストーカーの件をどう伝えようかと足りない頭で試行錯誤していた────。
邪魔しちゃ悪いから今は話す時じゃない。何時かは話せるタイミングがやって来るだろうから、その時迄待とう。
そんな事を思っていた矢先、手を止めて私を見る条野さん
「……」
『…?』
ジーーーッと私を見るも何かを話す訳でもない。其れが数秒続いたが結局何も話さず作業を再開させた。
あ。今話すタイミングだったかな?
『あの、条野さん!少し話しが……。』
「…その用件は今聞かなければいけない話しですか?」
『…っ、そう言う訳じゃないですけど…』
「では後にして下さい」
なら条野さんの今やっている作業も、今しないといけない事何ですか────
そう言い返せない自分に少し嫌気が差したのと同時に、やっぱり私の事なんて何とも思ってないんだと再確認出来る程蔑ろにされて、悔しい気持ちを押し殺すように唇を噛んだ。
_____私は賭けに負けたんだ。
─それから1時間後、私は帰り支度をし終え条野さんと向き合って居た。
本当に、本当にこれで最後だから…、最後に一度だけ悪足掻きをさせて欲しい
『条野さん、家まで送ってもらえませんか』
「理由は?」
『……理由がないと送ってくれないんですね』
この瞬間、熱していた私の心は酷く冷たい氷山へと堕ちていった
──────もうどうでもいいや
『じゃあ私はこれで』
「〇〇さん_____ 」
彼に最後名を呼ばれたけど私は立ち止まらず、振り返りもせずに家を出た
条野さん
今迄沢山迷惑を掛けて御免なさい
でも安心して下さい。
___もう、二度と関わり逢いませんから。
私の大好きだった人、さようなら─────。
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