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その頃、ミノリ(吸血鬼)たちは頂上に到着していた。
なぜかって? それはナオトと早く合流したかったからである。
山の頂上に着くと、ミノリ(吸血鬼)がこう言った。(人差し指を立てながら、笑顔で)
「あたしがいっちばーん!」
うまく散開《さんかい》したとはいえ、お互いの位置が分からなければ、万が一の時に対応ができない。
なので、ミノリ(吸血鬼)は散開《さんかい》する少し前に自分の血液で作ったスライムを全員の体のどこかに貼り付けておいたのだ。
こうしていれば、『ハ○ルの動く城』に出てくるハ○ルがソ○ィーに渡した指輪のように血液が目的地まで導いてくれるのだ。
とても便利だが一歩間違えると、発動者本人が血液不足で倒れてしまう。
だから、仲間が軍隊規模になってしまうと、これは使えなくなるのである。
ナオトとカオリ(ゾンビ)以外が到着していないことを知った一同は、この山の頂上に生えているという植物を探し始めた。しかし。
「ねえ、君たち。私と遊ばない? というか、遊んでよ」
その直後、一同は視線をそちらに向けた。
紫色の短めのツインテールに金色の瞳《ひとみ》(ジト目)。
露出度が高い黒い服に(く○さき めあのような格好)先端《せんたん》が矢印のように尖《とが》っている黒いシッポに、背中に生えたコウモリのような黒い翼が特徴。
一同は、そいつを一目見ただけでこう思った。こいつは悪魔に違いない、と。
そいつは、こちらの視線に気づくと、こう言った。
「ねえ、君たちって強いんだよね?」
彼女はその時、不気味な笑みを浮かべていた。その直後、みんなを代表してミノリ(吸血鬼)がこう言った。
「ええ、あんたの言う通り、あたしたちはかなり強いわ。けど、いいの? 誰がどう見てもこっちの方が有利だけど」
「ううん、問題ないよ。だって、私は君たちより強いから。それじゃあ、自己紹介するね。私は悪魔型モンスターチルドレン|製造番号《ナンバー》 一。『怠惰《たいだ》の姫君』、『ベルモス』ちゃん……でーす!」
彼女はダブルピースをしながら、そう言った。
その後、一同は瞬時《しゅんじ》に戦闘体勢に入り、ベルモスを取り囲んだ。
しかし、ベルモスはその光景を目の当たりにしても全く動じなかった。
「いいねー、いいねー。それだよ、それ。私はそういうのが大好きなんだよ!」
彼女はそんなことを言いながら、右手を天に掲《かか》げると何かが来るのを待った。
すると、三秒も経《た》たない内に、|な《・》|に《・》|か《・》|が《・》降臨《こうりん》した。
その風圧に、一同は飛ばされそうになったが、なんとか持ちこたえた。
一同がベルモスの方を見た瞬間《しゅんかん》、みんなは目を疑った。
ベルモスは、ニシッと不気味な笑みを浮かべながら、こう言った。
「固有武装……『|雷神から授かりし大鎚《ライジング・ハンマー》』!!」
ベルモスが右手に持っていたのは、全長二メートルはある巨大なハンマーだった。
金色《こんじき》の輝《かがや》きを放つその巨大なハンマーからは全く邪気《じゃき》を感じられなかった。
それからは時折、バヂッ、バヂッと放出される小さな金色《こんじき》の雷《かみなり》が、まるでこちらを威嚇《いかく》しているかのように発生していた。
だが、それでもミノリ(吸血鬼)たちは歯を食いしばりながら、ベルモスに襲《おそ》いかかった。
『はあああああああああああああああああああ!!』
今、自分たちにできることをしようとする彼女らの姿はかっこよかった。しかし……。
「遅《おそ》い……遅すぎる!」
ベルモスは、ハンマーをハンマー投げの選手のようにグルグルと高速で回し始めた。
すると、あっという間に全員ぶっ飛ばされてしまった。
その後、みんなは勢いよく地面に叩きつけられてしまった。
「はぁ、やっぱり私の相手にはならなかったかー。でもまあ、この私の圧倒的な力を目の当たりにしても、ひれ伏《ふ》さなかったことだけは褒めてあげるよ。あの人とは大違いだけど……」
ハンマーを肩にかけながら、残念そうにしているベルモスは気づいていなかった。自分の背後に剣術使いがいることに……。
「名取式剣術……壱(いち)の型三番『|部分抹消斬《ぶぶんまっしょうざん》』!!」
名取《なとり》は名刀【銀狼《ぎんろう》】でベルモスの背中に斬撃《ざんげき》をくらわせた。
この刀は生物の命を奪《うば》うことはできないが、あらゆる効果を打ち消すことができる。
今回は相手の神経の一部分を攻撃したため、ベルモスはしばらく動けなくなる……はずだった。
「この私に一撃くらわせたことは褒《ほ》めてあげるけど、一つ重要なことを知らなかったようだねー」
ベルモスはこちらに背を向けたまま、そう言った。
「なん……だと?」
「私は……『怠惰《たいだ》の姫君』だよ? 普段はのんびり暮らしているけど、本気の私を倒せるやつは、そうそういないんだよー」
「それは……つまり……どういうことだ?」
「まあ、要するに君は終わりってことだよ。『大罪解放』!!」
その直後、ベルモスの髪は『|白よりも白い髪《トゥルーホワイト》』に瞳《ひとみ》の色は金色から紅《あか》に黒い服は白いワンピースになった。
これが『大罪の力を持つ者』の真の姿である。
「さて、第二ラウンドといこうか。人間」
ベルモスは、ハンマーを名取《なとり》の方に向けると不気味な笑みを浮かべながら、そう言った。
「ベルモス……お前は絶対に俺が止めてみせる!」
名取《なとり》は腰を落としながら、居合の構えをした。
勝てるかどうかは分からないが、やれるだけのことはやってみる。それが、今の自分にできる唯一《ゆいいつ》のことなのだから!
両者が今にも戦闘を始めようとしていた……その時。
「面白いことやってんじゃねえか! あたしも混ぜてくれよ!」
カオリ(ゾンビ)が突如《とつじょ》として現《あらわ》れ、ベルモスの頬に拳《こぶし》を打ち込んだ。
ベルモスは数メートル吹っ飛ぶと、地面に横たわった。
「よう! マスターのダチじゃねえか! ん? というか、他のやつらはどうしたんだ?」
「そ、それなら、あっちに倒れているぞ。そ、それより、ナオトは……どこにいるんだ?」
「どこにいるも何も、マスターなら、もうお前の近くにいるぜ」
「えっ?」
「名取《なとり》。俺は今から本気を出すから、こいつのこと、頼んだぞ」
彼がいつからそこにいたのかは分からなかったが、彼は巨大灰色熊《グリズリー》を自分の背中から出ている十本の鎖《くさり》の内、二本で首から下を束縛《そくばく》した状態で宙に浮かせていた。
名取《なとり》は、グッタリしている熊の額《ひたい》に刀の先端《せんたん》をチョンと当てて、失神《しっしん》させた。
その直後、鎖《くさり》は熊を解放した。
そして、ナオトの方に戻っていった。
「今から俺は、うちの家族に手を出したお前をボコボコにする。覚悟はいいか? ベルモス!」
ベルモスはゆっくりと立ち上がると、こちらを見ながら、こう言った。
「熊さんはまあまあ役に立ってくれたけど、いろいろしゃべっちゃったみたいだねー」
「そいつはここに来る途中、俺たちにお前が危険な存在だということを教えてくれたんだよ。というか、お前は強いやつと戦いたくて、この山に来たそうじゃねえか」
「うん、そうだよ。悪い?」
「別にそれは悪いことじゃない。けどな、だからといって、うちの家族に手を出す理由にはならないだろう?」
「いやあ、強そうだったから、つい。それで? 私をどうするつもりなの?」
「お前が降参《こうさん》するのなら何もしない。だが、戦うというのなら話は別だ。どうする?」
「……じゃあ、戦う!!」
「……そうか。なら、全力でやらせてもらうぞ!!」
両者は同時に攻撃を開始した。
ナオトが使えるのは拳《こぶし》と十本の鎖《くさり》。
ベルモスは、ハンマー。あまり見ないタイプの戦闘だが、これはこれで良いものである。
ハンマーを鎖《くさり》で受け止めた後、自分の拳《こぶし》で攻撃するナオト。
その拳《こぶし》を華麗《かれい》に躱《かわ》しながら、次の攻撃を仕掛けるベルモス。
お互い一歩も譲らない戦いではあるが、ナオトが鎖(くさり)の力を使うのは今日で二回目。故に彼の体には相当な負担がかかっている。
だから、ここに来る少し前にナオトはカオリ(ゾンビ)にある提案をしていたのである。