テラーノベル
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すべてを諦めて、深い、深い底へと沈んでいきそうになったその時。
…遠くから誰かが駆けてくる足音と、僕の名前を呼ぶ声が聞こえる。
【 …、、おいっ!!お前!! なにやってんだよ!!!さっさと離れろやっ!!!!】
闇を切り裂くような、男の人の怒鳴る声。
それは、聞き覚えのある声だった。
それに驚いた遠藤は焦って僕から離れ、 衣服を慌てて掴みながら、夜の闇に紛れて蜘蛛の子を散らすように、どこかへと逃げて行った。
不快な重みが、僕の身体から消える。
解放された…?
あぁ終わったんだ…。
全身のあらゆる場所がきしみ、ぼんやりとしか見えなくなっている僕の目で、声のする方を見つめる。
視界の先、必死な形相で僕の元へと駆け寄ってくる男の姿が歪んで映る。
男は必死に僕に何か言いながら、抱きしめてくれる。
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、僕を冷たいアスファルトの上から抱き上げ、壊れ物を繋ぎ止めるように、強く、強く。
そのあたたかさに触れて、僕の冷えきった心と身体からすっと力が抜けていく。
僕はもう限界で、瞼をそっと閉じた。
次に目を覚ますと、そこは病院だった。
視界に飛び込んできたのは見慣れない白い天井。
起き上がろうとするが、体は怠く、鉛のように重い。
そればかりか、身体をわずかに捻っただけで、いたるところが激しく痛む。
自分の体に目を向けると、それはもう引くほどの量の処置の痕だった。
包帯で覆われず、肌が見えるところでさえ、肌の色は青黒く変色していた。
あの左脇腹の傷は、何針も縫われて痛々しく固定されている。
自分の受けた蹂躙を視覚的に突きつけられた瞬間、…..ふと記憶が蘇る。
怖くなって目を閉じるも、まぶたの裏にあの光景が生々しく映し出される。
饐えた悪臭。
冷たいアスファルト。
肉を裂くナイフの感触。
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無理矢理に身体を貫かれた時の、あの悍ましい衝撃――。
僕は耳を塞ぎ、目をぎゅっと強く閉じる。
記憶をシャットアウトするように。
息が上がる。
ドクドクと心臓が早鐘を打ち始める。
苦しい。
胸が圧迫されて、うまく呼吸ができない。
「…はぁ、はぁ、っ、、っ」
過呼吸に陥り、ベッドの上で激しく震える僕の異変を察知して、奥からバタバタと走ってくる足音。
『山中さん!先生!!山中さんが!』
ぼんやりする意識の中、看護師さんだろうか、必死に僕に呼びかける。
『山中さん!落ち着いてください!!大丈夫ですから!!』
うっすら声が聞こえる。
医療従事者たちの、機械的な慰めの声。
大丈夫?
なにが?
どこが?
これのどこが…?
心の中でそう激しく毒づいた瞬間、僕の脳のネジが、パチンと不自然に噛み合った。
……あぁそっか。
急に、頭の中の霧がすっと晴れて、世界が冷たく凪いでいく。
なんてことないんだ…。
痛いのも、怖いのも、汚されたのも。
全部、いつもと同じ。
別に大丈夫…。
大丈夫。
ちゃんと我慢した。
声を上げて、泣き叫んで、全部耐えきった。
僕がそうやって我慢さえすれば、これ以上誰も傷つかないし、世界は丸く収まるんだ。
僕は大丈夫。
大丈夫。
大丈夫。
大丈夫――。
そうやって心の中で壊れた機械のように呪文を唱えながら、僕は、自分の心が完全に死んでいくのを感じていた。
to be continued……
コメント
4件

遠藤最悪だぁ、、、 そう捉えちゃったんだ、、😭 まあそりゃ追い詰められてれば仕方ないのかもしれない