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前回の続きです。

及川サイド

次の日俺たちは烏野高校に集合していた。でもみんなその顔は緊張と不安であまりいい顔ではなかった。多分俺もだけど…

武田「全員揃いましたね。では行きましょう。」

そう言って武田先生は自身の車に俺たちを乗せ出発した。誰1人車の中で喋る人は居なかった。

無言のなか車に揺られ一時間ほどして車が止まった。

そこは昔ながらの染め物工場だった。俺たちが車から降り工場に近づくと染め物の独特な匂いが鼻の奥をかすった。

武田先生が

武田「すみませーん。以前ご連絡した武田です。北川しげるさんはいらっしゃいますか?」

と大きな声で叫ぶと工場の奥から1人の男の人が出てきた。その人は40歳後半だろうか、若い訳ではないが何か独特の雰囲気を放ち世間的にはイケオジと言われるところだろう。

武田「スミマセン、お忙しい中わざわざ時間を空けていただき…」

北川「いえいえ、平気ですよ。幸雄…影山のことですよね。僕も少し気にしていたんです。」

北川「ここで立ち話ではなくこちらの休憩室で話しましょう。 」

北川さんはそう言って俺たちを部屋の中へ案内してくれた。

俺らと北川さんが向かい合うように座ると北川さんが

北川「そういえば自己紹介がまだでしたね。僕は北川しげるです。染め物工場をやっていて…影山飛雄の叔父さん…に当たります。それからあの子の母親の兄です」

及川「ッ!」

あいつの母親はたしか亡くなっていた。

自分の妹が亡くなったのにこの人はなぜそんなに前を向けているのだろう…

北川さんの自己紹介が一通り終わり、俺たちの番になった。

大地「お忙しい中スミマセン。烏野高校三年澤村大地です。影山と同じバレー部でキャプテンです」

スが「同じく烏野高校三年菅原こうしです。おれもバレー部で副キャプテンです。 」

及川「青葉城西高校三年及川徹です。飛雄とは中学の時の後輩で今でも喋ったりするんですけど」

及川「あのこんなこといきなりいつ言ったら失礼かもしれないんですけど、飛雄は多分…**虐待…**受けてます 」

北川「ッ!!!」

この様子だと知らなかったのだろう。

及川「飛雄の体はたくさんの傷があります。最近のものから、昔のものまで…」

武田「そのことを影山君に聞いたところ父親とうまくいっていないと言っていました。」

武田先生のこの発言に俺には言ってくれなかったのに…と少しだけショックを受けた

北川さんも驚きのあまり声を出すことも出来ないみたいだった。

そこで澤村と菅原が

大地「あの俺たちの大切な後輩が苦しんでるんです。」

すが「俺たちで救ってやりたい…だから教えて下さい。影山の過去について」

そう言うと北川さんはハッとしたように目を開き何か覚悟を決めたように口を開きだした。

北川「分かった。君たちは相当の覚悟があるようだね。すべて話すよ。あの家族の過去を…」

そう言って1人1人の顔を見ながらポツリポツリと話し出した。

北川サイド

僕には8つほど離れた妹…柚希がいた。

柚希は体が弱く小さい頃はしょっちゅう入退院を繰り返していた。

そうやって過ごしながら柚希は大学生になり飛雄の父親…幸雄君と出会った。

その頃の柚希の体調はかなり良く普通の生活も送れるようにまで回復していた。程なくして2人は結婚し誰が見ても羨むような仲の良いおしどり夫婦だった。

飛雄を妊娠するまでは…

結婚式から少しして飛雄を妊娠した。しかし飛雄を妊娠する前から少しずつ体調が悪くなっていたのだがそれを幸雄君に隠していたみたいなんだ。それが妊娠までしてしまってどんどん体調が悪くなりさすがに幸雄君も気づいたみたいで急いで病院に行くと柚希の体にガンが見つかった…。

すでにかなり進行しており、薬投与だけでなく手術を受けたほうが良かった。でも柚希はそれを断った。

手術を受けるとお腹の中にいる赤ちゃんへの負担が大きく、生まれたときに障害を抱えるかもしれない、下手したら死ぬかもしれないほどたった。

柚希はお腹の子優先で治療を受けようとはしなかった。幸雄君と僕は必死に説得した。赤子が生まれても母親が居なければと…でも柚希の意志は固かった。

そうして柚希は治療を受けることなくどんどん弱っていった。

あるとき、医師に言われた

医師「このままでは、母親と赤ちゃん両方が危ないです。

私たちには両方助けることが出来ません。ご家族でしっかり相談してから決めて下さい」

このことを聞いた柚希は凜としていて涙を流すことが無かった。

そして一言「赤ちゃんを助けて下さい」と凜とした声で言った。僕も幸雄君も驚いた。

幸雄君は動揺が隠しきれず「それ…本気で言ってる…?」

と言った。

柚希「ええ、せっかく私たちのところに来てくれたの。これは神様からの最期で最高の贈り物よ。だから生みたい!」

とはっきり言い「お願い、最期のお願い!」と涙ながらに言った。

ここまで言われると何も言えなくなり幸雄君と僕は「分かった」と一言言った。

それからの日々は巡るように過ぎ去っていった。

みるみるうちに体が動かなくなってほとんど寝たきりの状態になった。

そんな状態でも柚希はずっと笑顔で「赤ちゃんの名前はどうしよう?」や「どっちに顔は似ているのかな?」と赤ちゃんのことだけを考えていた。いや、あえてそうすることで少しでも病気の辛さから逃げたかったのかもしれないね…

そんなある日柚希からビデオカメラを貸してほしいと言われた。

不思議に思いながら貸すと柚希は笑いながら

「ほら、生まれてくる赤ちゃんにお母さんの顔を見せれるように、あと、私がもし死んじゃった後に私の姿を見せて前を向いてほしいの」と言った。

柚希は自分があまり長くないことも分かっていた。だからこそ生まれてくる赤ちゃんにさみしい思いをさせまいと必死になっていた。

あいつはとっくに立派なお母さんになっていた。

それから一週間後飛雄が生まれ、その二日後に柚希は死んだ。

でも柚希は笑っていた。たぶん、赤ちゃんが無事に生まれてくれたからだ。

そして死ぬ前に

「もし幸雄さんや赤ちゃんが大きくなっても私のせいで前へ進めずにいたらあの動画を見せて」と言った。

それからその二日後には葬式が行われ、火葬しようやく僕は柚希の死を受け入れた。でも幸雄君は違った。まだ柚希の死を受け入れてなかった。

でも、本人は隠そうとした。「大丈夫」の一言で…

僕たちもその言葉を信じて疑わなかった。今考えれば、まだまだ若い男の子がいきなり父親だけでなく母親の代わりもしなくてはならなかったんだ。何の知識もない男がまだ生まれたての赤子を育児するなんて普通は大丈夫なわけないのに。

僕は幸雄君の「大丈夫」の言葉で日に日にやつれて、目の下に増えていく隈、明らかに大丈夫じゃない幸雄君を見て見ぬ振りして助けなかった。

今飛雄がそんな状況になってしまったのは幸雄君を救えなかった僕のせいでもある…


及川サイド

北川さんは飛雄の過去について語って最後に机に頭をぶつける勢いで下げ

北川「お願いだ!2人を、過去に囚われて前に進めない2人を救い出してくれ!」

そんなの言われなくてもそのつもりだ。それは俺だけでなく大地や菅原も同じ気持ちだと思う。

及川「もちろんです。」と言い深く頷いた。

そんな時、大地のスマホがなった。

大地「…日向からだ。スミマセン。お話中に…」と北川さんに向かって軽く会釈すると席を立って少し離れたところに行った。

大地の電話に耳を傾けていると日向がかなり慌てているらしくそれを大地が落ち着かせていた。

しかし日向が何か言ったみたいで大地の顔を絶望の顔に変わっていった。その顔のまま俺たちのほうを見て

大地「影山が日向に「もう疲れた。今までありがとう」と電話で言ってから影山と連絡が取れないらしい。 」

全員「ッ!」

1番早く冷静になったのは武田先生だった。

武田「まず、どこに居るか分かれば良いんですけどね…」

その一言でハッとした。気づいたときには体は動き出していた。奥から大地や菅原の制止する声も聞こえるが無視して北川さんのビデオカメラを持ってとにかく走った。

…間に合え、間に合え、飛雄と二度と会えなくなる前に…

影山サイド

よし、もう死ぬ覚悟はできた。一応日向には連絡しておこう。あいつのおかげで俺は高校でもバレーが出来たからだ。

日向に連絡すると日向は動揺していたが喋りすぎると覚悟が揺らいでしまうから急いで切った。

最後に思い浮かぶのは及川さんの顔だった。及川さんと話していると胸がどきどきしたり、及川さんが他の人と喋ると胸がやけに痛んだり…これは何かの病気?なのか。最後にこの感情を何というのか知りたかったなと少し後悔してる気持ちもある。でも今さら関係ない。俺はようやくちゃんと罪滅ぼしができる。そのことに少しだけ喜びを感じていた。

しかし1個だけ悩みが出来た。

…どこで死のう…

いろんなことを頭の中で巡らせて最終的に海で死ぬことにした。

昔幸雄さんが言っていた。

幸雄「いいか飛雄、海は天国と繋がっているんだ。もし辛いことがあったら海に行けば少しは楽になれるよ」と笑いながら話していた。あの時の幸雄さんは優しかったのにな…どこから変わってしまったのだろう。今さら考えても仕方ないか…

海は天国と繋がっている。つまり俺が死ぬところをお母さんはよく見えるわけだ。だからちゃんと見ててね。お母さん…

それに海には及川さんとの思い出もある。

及川さんが「2人の秘密の場所にしよう」と言ってくれた大切な場所。あの時は楽しかったな。戻りたいと思ってしまう。だめだ、余計なことばかり考えてしまう。早く死のう…

そう思い二度と戻ってくることがないであろう玄関のドアを開け「…バイバイ」と小さく言って家を出た。

海とはさほど距離はない

少し歩いて海に着いた

夕焼けの海は太陽が反射してやけに美しかった。

俺の死ぬ場所にはもったいないかも…

でも死ぬ場所を返るつもりはない

一歩一歩確実に波のほうへ進んでく。

こんな時でも及川さんの顔が思い浮かぶ。最後に会いたかったな…

影山「及川さんボソッ」小さくつぶやいた。すると後ろから「呼んだ?」とずっと会いたかった人の声が聞こえた。振り返ると汗だくで、普段見る顔ではなくかなり焦った顔した及川さんがいた。




次回に続く

追加

長くなってすみません。この話もそろそろクライマックスです笑!

たくさんの♡、コメント待ってます!ではまた。


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