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【Side切島】

【Side上鳴】


最近、爆豪の様子がおかしい。

それは、俺だけではなく生徒会役員全員が思っていることだった。

雰囲気が変わったというか、トゲがなくなったというか…とにかく、とっつきやすくなったのは確かだ。

今までは機嫌の落差も激しかったが、最近は常に穏やかで、俺としてはありがたい。

爆豪の機嫌を取れるやつなんていないからな。でも…どうして急に、ここまで丸くなったんだ?

みんな、口には出さずとも疑問に思っていた。


その日は、データ処理のプログラムをすべて管理している役員が休みで、生徒会室内は慌ただしかった。

ちっ…どうなっているんだこれは…。

9月の決算が近く、今日中に終わらせなければいけない仕事が溢れかえっている今、肝心のデータ処理システムが壊れた。

他の役員が誤って処理をした際にバグが起き、ある知識をフル活用してデータ修復に挑んでいるが全くうまくいかない。

むしろ、ますますバグが増えている気がする。

「誰かプログラミングの知識があるやつは居ないのか…」

頭を抱えている俺を、他の役員が顔を青くしながら見ていた。

そんな不穏な空気の中、一人だけ呑気にソファに座っている奴を睨みつける。

「おい爆豪、お前できないのかよ?」

「無理」

「お前…暇なら少しでも手伝ってくれよ…」

「自分の役割は終わらせただろ」

そう言ってソファから動こうとしない爆豪に、ため息をついた。

確かに爆豪は、ずいぶん前に作業を終わらせているが…お前、生徒会長だろうが。少しくらい手伝ったらどうなんだ。

このシステムのプログラムも、一向にわけがわからないし…もうお手上げだ。

今日、何度目かわからないため息をついたとき、生徒会室のドアをノックする音が聞こえた。

誰だ…?

生徒会室に来客なんて、めったにない。

関係者ならノックなんてせずに入るだろうし…。

「すみません…」

そんな事を考えていた矢先、ドアの向こうから聞き覚えのある声がした。

この声はたしか…。

「…出久?」

今まで優雅に寝転んでいた爆豪が、突然体を起こした。

爆豪の反応に、周りの役員が驚いている。

あれだけ動こうとしていなかった爆豪は、すっと立ち上がり、生徒会室のドアを自ら開けに言った。

…なんだコイツは。

変な薬でも飲んだのかと思わずには居られない爆豪の行動に、目を見開く。

ドアの向こうから顔を出したのは、やっぱり出久だった。

爆豪は出久の姿を視界にいれるなり、ほおを緩めた。

「どうした?なんで生徒会室に来たんだ?」

…は?

俺たちと話すときとは違う、甘ったるい声。

まるで親バカが子に話しかけるようなそれに、俺は今度こそ開いた口が塞がらなくなった。

…誰だこいつは。

そう思うくらい、いま俺の目の前にいる爆豪は何時もの爆豪とかけ離れていた。

その原因があるとすれば、かんがえられるのはいずくしかいないだろう。

たぶん俺だけでなく、この場にいる爆豪以外の全員が理解しただろう。

最近の生徒会長の変化はこれのせいか、と。

「えっと…先生から頼まれて…。」

そう話す出久が抱えているのは、プリントの山だった。

新しい仕事が来た…と、肩を落とす。

爆豪は重そうにしている出久からプリントを受け取り、心配そうに口を開いた。

「先生?雑用押しつけられたのか?」

…おいおい。だからさっきからなんだその声は。

お前、そんな優しい声が出せたのか。

あまりの別人っぷりに衝撃を受け、頭が痛くなってきた。

いや、こいつを知る人間ならみんな驚くだろう。

今まで人間を寄せ付けず、寄ってきた人間は容赦なく切り捨てたコイツが…。

これは現実かと疑いながら、俺は立ち上がって出久の方に歩み寄る。

「数学のクスノキだろ。あいつは生徒に雑用をさせるのをストレス発散にしているからな」

出久みたいのは格好の餌食だろうな。

一応クスノキには、今後出久をこき使わないように注意しておくか。

プリントを見ると、急いで届けるようにと指示をしたものだった。

「助かった出久」

まあ、システムを直さない限り、これに手を付けることはできないけど…。

「いえ、お疲れ様です…!」

ペコリと頭を下げた出久に微笑み返す。

それにしても…爆豪は出久が、好きなのか?

ここまで態度が変わるということはそういうことなんだと思うが…まさか、爆豪の趣味がこうだったとは…。

正直、出久は容姿がいいとは言い難い。…というより、全体的に地味すぎる。

髪も服も、あとこのゴツい眼鏡も。表情はかろうじて分かるが、目は見えない。

面白いやつだとも、いいやつだとも思うし、そこらのやつらよりも好感は持てるけど…それでも、恋愛対象としてみろと言われたら難しい。

まあ、俺はデク以外そういう目で見たことがないから、出久がどうこうという問題じゃないけど…。

「あああ…!」

背後から、役員の声がした。

「上鳴先輩、すみません…!」

…なんだ…また何かしでかしたのか…。

頭を押さえ、すぐに役員の方に駆け寄る。

「あの、またバグが…」

顔を青くして報告してくる役員に、無意識にため息がこぼれる。

「はあ…仕事できないならむやみにさわるな」

また仕事が増えたな…。

「出久、ゆっくりしていけ。アイスあるぞ」

「ア、アイs…っ、でも、お邪魔するわけには…っ」

「邪魔なわけねえだろ。ほら、こっち座っていいから」

俺が頭を抱えている後ろで、そんな会話が繰り広げられていた。

爆豪の甘さに、吐き気を催しそうになる。

『ほら』ってなんだ。いつもは聞いたやつが腰を抜かすぐらい低い声を出しているくせに。

爆豪に連れられるまま、出久がソファに座った。

別に構わんけど…爆豪からでる甘いオーラに耐えられない。

「ちょ、瀬呂呼び出して」

瀬呂というのは、生徒会のシステムを管理している役員。

元はといえば、こんなに忙しいときに瀬呂が欠席していることがすべての元凶だ。

「さっき連絡はしたのですが…『無理』だそうです」

はあ…。

俺のため息は、ますます止まらなくなった。

「大丈夫ですか…?」

…ん?

いつの間にかこっちに来ていたのか、心配そうに出久がパソコンを覗き込む。

「ああ、わりい…ちょっとな」

「これ…たぶんキャッシュのせいでバグが起こってますね」

…えっ。

パソコンの画面を見ながら、いろんな箇所に視線を巡らせている出久。

「…わかんのか?」

俺の言葉に、「はい」と平然と答えた。

「デバックしましょうか?」

デバックというのはたしか、バグや欠陥を見つけて修復する作業のことだったはず。

「おう、頼む」

出久は椅子に座り、慣れた手つきでキーボードを叩き始めた。

俺には目に負えないような速度で、プログラムを直していく出久。

何をやっているのかも、さっぱりわからない。

他の役員も驚いているのか、画面をのぞき込んでいる。

「おい、なんで出久に仕事させて…」

「ちょっと黙っててくれ」

爆豪は「ちっ」と舌打ちをし、後ろから心配そうに出久を見守っている。

瀬呂の作業もよく観察してるけど…その比ではないくらい早い。

「これ、サブシステムのせいでバグが起こりやすくなっていると思います…」

そう、なのか?

「ちょっと直しておきますね」

そういうと、出久は迷いもなくアルファベットや記号を打ち込んでいく。

「…よし、これで大丈夫だと思いますよ」

…もう終わったのか?

ものの数分で、完了したらしい。

俺は半信半疑で、データ処理システムを開く。

…直ってる…。

「…すごいな…。これで八時までには帰れそうだ」

徹夜コースかと思ってたけど、終わるめどが見えてきた。

「八時…!?そんな遅くまでするんですかっ…」

ん?そんな驚くことか…?

俺たちにとっては当たり前だったから、出久の反応が新鮮だった。

はあ…まあ、文句を言っていても仕方ない。休んでいる暇もないし、たまっている仕事を片付けよう。

「決算出してるんですか?」

出久が、プリントの山を見ながら聞いてきた。

そのとおりだけど…なのでこれを見ただけでわかったんだ?

「ああ。夏季休みと9月の分が同時に来てな」

会計学でもかじっているのかと不思議に思っていると、出久は俺を見ながら控えめに口を開いた。

「あの…僕でよければ手伝いましょうか…?」

…え?

「一応、簿記の資格持ってるので…少しぐらいですが、協力できると思います!」

さらっととんでもないことを発言する出久に、言葉を失った。

「お前、何者なんだ…?」

「え?何ものも何も…見ての通りですよ」

普通の高校生とでも言いたそうな顔に、もう何も言えなくなる。

謙虚と言うより、自分の実力をわかってなさそうだな…。

けど、今は猫の手も借りたい状況だ。

「…わるい。頼んでもいいか?」

「はいっもちろんです!」

快く引き受けている出久に、ほおが緩んだ。

「出久がするなら俺もする」

「…恋って怖い」

すかさず出久の隣に座った爆豪に、俺は頭痛がして額を抑えた。



実は最強な出久くん

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コメント

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ユーザー
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恋の力は凄いな(´▽`*)アハハ

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