テラーノベル
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凛は意外とすぐに見つかった。
休憩スペースのソファに座り、パソコンをいじっていたのだが、蓮が声を掛けると少し驚いた表情を見せる。
何か言いたげに二、三度口を開きかけては閉じ、最後には小さく溜息をつくと、隣に座るよう促してきた。
蓮はそのまま腰を下ろし、周囲を見回して誰もいないことを確認してから、兄の目の前に例の名刺を差し出す。
「……なるほど、アイツに会ったのか」
「確証はないんだけど、塩田って苗字、そうあるものじゃないし。それに……どこかで会ったことがある気がするんだよ」
「……」
凛は画面から目を離さず、沈黙を守る。
横顔をじっと見つめながら、蓮は言葉を継いだ。
兄は何かを考えているようだ。やはり、この男について知っているのか?
黙って答えを待っていると、やがて凛は思考の海から浮上したように蓮へと向き直る。
「偶然か、確信があってここにいるのか……そこが見えないのが痛いな。情報が少なすぎる」
独りごちるように呟いたその言葉に、蓮は眉根を寄せた。
「だが、アイツがいるかもしれないと分かった以上、このまま手をこまねいているわけにもいかん」
「何か、対策が?」
「いや……それはこれから考える」
短い答えに、蓮は落胆を隠せず大きく項垂れた。
「とりあえず蓮は、出来る限り俺の側にいろ。相手の狙いがお前である可能性が高い以上、襲われないとも限らないからな」
「……え……、それじゃあ僕の自由な時間は……」
「相手がここにいる目的が分かるまでは、暫く無いと思ってくれ」
「……」
蓮はがっくりと肩を落とした。
「なんだ? 俺と二人きりでいるのは不満か?」
「……そ、そういう意味じゃないよ……。でも――」
口を尖らせ、蓮はボソリと文句を漏らす。
「折角の遠征なのに……。ナギと部屋は別だし、オフでも一緒に居られないなんて、あんまりじゃないか」
「我慢しろ。あの子に何かあって後悔はしたくないだろ?」
そう言われてしまえば、言い返せない。
分かっている。これはただの我がままなのだと。
……それでも、やっぱり釈然としない。
「やっぱり、納得いかない。もしアイツが本当に僕に恨みを持っていて、ここにいることを知って同じホテルを取ってるっていうなら、今さらコソコソしたって解決にならない。それより、あの男を捕まえてボコって、奈々さんの行方をゲロさせた方が、よっぽど建設的じゃないか」
「――お前は、またそういうことを簡単に……」
呆れたように額に手を当て、凛は頭を振った。
「だってそうだろ? どうでもいい奴を追い詰めていたぶるのは得意だよ。
それに、現実から目を背けるのはもうやめたんだ。僕は、この仕事が好きだし、いいメンバーに恵まれてると思ってる。最後までやり切りたいんだ。
だからこそ――今すぐ近くにいるのがアイツなら、この手で決着をつけてやりたい」
真っ直ぐに前を見据え、真剣な顔で語る蓮に、凛は深いため息を吐き、ガシガシと頭を掻いた。
……どうやら、説得は無理そうだ。と、どうやら悟ったらしい。
「――お前は昔からそうだったな。一度決めたことは曲げないし、自分の意見を絶対に通そうとする。ある意味、我儘で、傲慢で、自己中心的だ。……彼に出会って、だいぶ丸くなったと思っていたのに」
凛の言葉に、蓮は苦笑しながら軽口を返す。
「それ、褒めてないよね。絶対」
「仕方がない。今回は折れてやる。ただし、接触するなら俺も同席する。一人で会わせたら、どうせめちゃくちゃにするだろうからな」
「大丈夫だよ。腕の一本や二本折れたって死にはしないし……ちょっと奈々さんの行方を聞き出して、お灸を据えるだけだから。ちょっと……ね?」
「――それが心配なんだ」
凛の口から大きな溜息が漏れる。その様子に、蓮はくすりと笑みを浮かべた。
「随分と面白そうな話してるねぇ」
不意に背後から声がして、ハッとする。振り向けば、そこにはナギが立っていた。その後ろには弓弦や雪之丞の姿もある。
「……盗み聞きとは感心しないな」
「お兄さんこそ。俺たちに内緒で危ないことしようとしてるじゃん」
「……」
蓮はバツが悪そうに視線を逸らす。
(先に戻っていてくれと頼んだはずなのに……)と弓弦に目をやれば、彼は申し訳なさそうに口を開いた。
「すみません。蓮さんの様子がおかしいのが気になってしまって……」
「弓弦君は何も悪くないよ。お兄さんのところに連れて行って欲しいってお願いしたのは俺だもん」
ナギはにこりと微笑み、そのままスタスタと蓮の隣へ腰を下ろした。そして――まるで心の奥まで覗き込むように、じっと見つめてくる。
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