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こんにちは!!
それではどうぞ!!!
地雷↪︎
静かな放課後、図書室。
本のページをめくる音だけが響いている。
その奥の席で、もふはノートを開いたまま、ペンを止めていた。
視線の先には、少し離れた席で本を読んでいるどぬくの姿。
窓から差し込む光に、淡い髪がきらめいている。
「……ねぇ、どぬくさん」
呼びかけた声は、思っていたより小さくて。
彼が顔を上げたときには、もふはもう視線を逸らしていた。
「どうしたの?」
「ん、なんでもない。……ただ、静かだなって」
「図書室だからね」
どぬくの笑顔は、柔らかいのにどこか遠い。
それがもふには、たまらなく苦しかった。
ページをめくる音がまたひとつ。
沈黙の時間の中で、もふの指がペン先を震わせる。
「……ねぇ、どぬくさんってさ」
「うん?」
「誰かと一緒にいる時、落ち着くとかある?」
「あるよ。たとえば、もふくんといる時とか」
「――え?」
「だって、もふくんは静かだし。安心する」
心臓が跳ねた。
なのに、どぬくは何も特別な意味を込めずに言う。
それが余計に、もふの胸を締めつけた。
(安心、か……。
俺はもっと、違う意味で……そばにいたいのに。)
視界が滲む。
ペン先から一滴、インクが紙に落ちて、
にじむ線がまるで自分の心みたいだった。
「……どぬくさん」
「なに?」
「もし、俺がいなくなったら、寂しい?」
「当たり前でしょ。……どうしたの?」
「……なんでもない」
もふは小さく笑う。
言葉を飲み込むその表情を、どぬくは見逃さなかった。
帰り道、並んで歩くふたり。
空は薄い藍色に染まりはじめている。
「ねぇ、もふくん」
「ん?」
「俺、気づいてるよ」
「……何に?」
「もふくんが、俺に隠してること」
足が止まる。
どぬくは振り返って、少しだけ悲しそうに笑った。
「言わなくてもいいけど……無理だけはしないでね」
「……ほんと、ずるいな」
「え?」
「そんな優しい顔、反則でしょ」
どぬくの頬が少し赤く染まる。
その色が、沈みゆく夕陽と重なって見えた。
その瞬間、もふの胸の奥に深い紫の光がゆらめいた。
それは“心の色”──
想いを隠しても消せない、静かで強い恋の色。
触れたいのに届かない距離。
でも、届かないからこそ美しいと思える瞬間が、確かにそこにあった。