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お母さんのお昼休みの時間は家事をしているだけであっという間に終わり、仕事場に戻って行った。
その後も私は掃除をしたり、洗濯物を取り込んで畳んだりと家事を続けていた。
それ以外、これと言った暇つぶし方法が無かった為仕方なくだ。
そんなことをしていると、小学校から弟が帰って来て、静かだった家の中が一気にうるさくなった。
いつもの様に学校の出来事を聞いたり、小学校の勉強を少し教えたりとそんな感じだ。
小学校の勉強は全然できるから、小5の弟にはなんの問題なく勉強を教えられる。
ただ、小5の三学期からはあまり教えられない。
昔に色々あって、勉強どころじゃなかったからだ。
少し時間が経つと、「疲れたぁ」と聞き慣れた大きな声と共に玄関が開く音が聞こえた。
一応確認の為に玄関へ赴くと、制服を着て玄関にヘタレ込んでいる姉がいた。
部活で使っている竹刀が入った袋も姉と共に床へ落ちていたので、部活に打ち込みすぎて相当疲れたのが一目見てわかった。
「お姉ちゃん、おかえり」
そう言って、姉と目線を合わせる為に少し屈む。
「ん”ぁ〜っかれた!あんのクソ女!まじ許せない…! 」
大きく背伸びをして勢いよく起き上がった後、額に皺を寄せて明らかにイライラしてる表情で私に愚痴を垂れてきた。
お姉ちゃんは文武両道が出来るすごい人だ。
顔も人並み以上に整っているからという理由で、色んな所から妬みや恨みを買う事が多いらしい。
先程言っていたクソ女というのも、恐らくその一部の人間だ。
「あいつ、本当にヤバいの!人のノート隠して、それ必死で探してたらさ『ノート無くしたの?可哀想〜』だってさ!お前が隠したんだろうが!巫山戯んなって話よ!!!」
憎たらしそうな顔をして火を噴く勢いで怒る姉。
今迄にも余程嫌がらせをされていたのだろう。
その後も姉は私に愚痴をたくさん言ってきた。
面倒臭いとは思うけど、私に対しては何も言わないし、しょうがなく聞いている。
それに、これで少しでもストレスが消えてくれるならまあいいかとも思うからだ。
その後は楽しそうに話す姉の口から、学校での出来事のあれこれを聞いた。
主にクラスメイトの話や先生の授業が面白かったとか課題がすごい出たというような授業の話だったりだった。
友達の話はあったが本当に少しだけだった。
その事実が私の事を気遣ってることを知らせてくる。
うちの兄弟はみんなデリケートな話には触れないのが暗黙の了解だった。
親はそんなの関係なしにほじくり返してくるが、家でも唯一兄弟だけがそうゆう話はしてこない。
正直気持ちが楽だし助かるが、何時までもこの儘でいる訳にはいかないことくらい私も分かる。
目を背ける続ける事は駄目な事なのは知ってる。
時間は悲しい事に止まってくれない。
いつかその時は必ず来る。
でも、今だけは目を背けていたい。
ただの願望だけど、今だけはと思う。
姉と話したりしていると、時間はあっという間に過ぎていった。
暫くすると母や父が仕事から帰ってきて、晩御飯を食べる時間になった。
各自自分の分のお米をよそって、皆黙々とご飯を食べ始める。
私の家はいつも誰かが話題を出してそのことを話しながら食べる。
学校のこと、仕事のこと、家でのこと、色々ある。
今も姉が部活の事を、弟が授業の事をそれぞれ話している。
私もそれに少し耳を傾けながらご飯を食べていた。
「鈴音、ちょっといいか?」
そう父が言ってきた瞬間、姉や弟は口を閉じた。
私や兄弟は皆父が嫌いだ。
本人の前で堂々とその人の悪口を言い、嘲笑う。
それにデリカシーの欠片もないからだ。
父は会社内では素直なところが好かれているらしいが、私自身は父は素直すぎて嫌になる。
人を気遣ったり、空気を読んだりも出来ない父が私は昔から大嫌いだった。
「なに?」と少し怒気を含んだ声でそう言うが、父は遠回しに話しかけないでと言われたことに気づいていないのか、そのまま口を開いた。
「いつになったら真面目に学校に行くつもりだ?」
真面目な声色で父は私に言った。
その言葉に私は黙り込んでしまう。
父の言う事は至極真っ当だからだ。
いつまでもこのままでいる訳にはいかない。そんなことずっと前から分かってる。
でも、それが出来たら苦労なんてしていない。
私の心の中にはモヤモヤした黒い気持ちだけが大きくなっていった。
「”ただのいじめ”で不登校になるなんて……全く、情けない話だ」
その言葉に、心臓が跳ねて痛くなった。
父は私の話に興味を持ったことは今の今までなかった。
だから私が小学生の頃、ちょっとしたいじめにあっていたことを家族の中で父だけは何も知らない。
でもそれは中一のあの出来事よりは不思議と気にしていないと自分の中では思う。
今思えば父以外の周りの大人達がその度にちゃんとケアしてくれてたからだと思う。
その人達には感謝してもしきれない。
だけど、父は違う。
父にとって子供なんて道具でしかない。
本当は私達子供のことなんてなんとも思っていない。
自分を輝かせるアクセサリーのように思っていたりもしてるんだろう。
だが、こうゆうマイナスなことがあるとそれだけに群がって突っかかって来る。
他人の駄目な事ばかり指摘する。
自分の駄目な部分は正さずに。
俗に言う、自分に甘く人に厳しい自己中心的な糞野郎だ。
私は昔も今も、父に褒められたり謝ってもらった記憶が一切無い。
間違いばかりを目に留める人だったから、私のいい所なんて言ってもくれないし、目もくれなかった。
それに自分の失言や明らかに父に非があるときでさえ、謝らずに逃げるようにどこかへ行く。
そんな人だから、積極的に関わりたいと思うことはなかった。
会話も必要最低限で、本当は一言も会話なんてしたくなかった。
だが、今父は私に遠慮無しに切りつける様な鋭い言葉ばかりを投げつけてくる。
「お前が駄目だから」とか「そんなのだから馬鹿にされ続ける」とかそんな言葉ばっかり。
お母さんはそれを止めに入ろうとしてるけど、間に入ることを許さないと遠回しに言いたげな父は口を動かし続ける。
そんな言葉を鵜呑みにし続け、次第に「私なんて」という自暴自棄な感情に飲み込まれそうになっていた。
だが、そんなことを考えてる時に父の一言がくっきりと聞こえてきた。
「そんなに嫌だったなら正直に嫌といえば良かっただろう」
その言葉を言われた瞬間、火がついたように怒りが込み上げてきた。
勢いよく立ち上がって「あんたに、何が分かるのよ!」と強く言いながら机を思い切り手で叩いた。
一瞬ヒリヒリした感覚が手に伝わったが、そんな物を忘れてしまう程に頭に血が上っていた。
「同じ境遇になったこともないやつが簡単に言うな!私の事何にも見てないくせに、こうゆう時だけ父親面するな!」蓋をして押し込めていた言葉。
1度口にした言葉は止まることを知らず、長い間押し込めていた自分の気持ちがどっと溢れていく。
そんな感覚に身を任せて、父に全部全部ぶつけた。
こんなに感情を剥き出しにして怒ったのは久しぶりだから、姉や弟は勿論のこと、母や父も驚いただろう。
理不尽にキレたとか、八つ当たりしたと思われるかもしれない。
でも、それだけ我慢ならなかった。
何も知らない癖に、知ったような口をきかれるのが耐えられなかった。
こんな屑男に、私の事なんて今まで何にも見てなかった癖に、最低な親とも思いたくない奴にだけは言われたくないと、そう強く思った。
「お前…!親に向かってなんだその態度は!育てた恩も忘れやがって!!!」
そう言って平手打ちをしようとする父の手を、私は避けずにそのまま受けた。
私の行動に驚いたかもと少しは思ったが、父親の顔は全く変化していなく、それがいくら淡い期待を寄せても無駄なのだと今更自覚する。
腐っても父親。そんな言葉があるように、父がいくら憎くても嫌いでも、もしかしたら心の何処かでは自分を愛してくれてるのではと思っていた。
だが、そんな淡い期待も打ち砕かれて、今まであった何かが一瞬で崩れ去った気がした。
「あんたのことを、親だなんて思ったことは今の1度だって無いから!」そう強く父に言葉を投げつけて、私はその場から逃げるように家を飛び出す。
後ろからは父の怒号、母や姉の心配する声が聞こえてきたが、振り返らずに走った。
走って走って、走り続けた。
たくさんの田畑を通り抜けて、家からものすごく離れた場所に着くと、私は疲れてその場にへたれこんだ。
その時、涙がぼろぼろと溢れ出てきて、頭の中がまたぐちゃぐちゃになった。
苦しい。悲しい。辛い。
少し肌寒い。鼻がツンとして痛い。
外は人の声一つなく、鈴虫やカエルの鳴き声と草木が風で凪いで掠れる音が聞こえていた。
そんなちょっとした音がぐちゃぐちゃだった頭を、荒くなった呼吸を少しずつ無くしてくれた。
夜の帳が私を優しく包んでくれるような、不思議に大丈夫と思えた。
やっと落ち着いてきて、頬や目に溜った涙を乱雑に拭う。
そして、この後どうしようかと考え込んだ。
考えなしに感情のままに家を飛び出したものだから、泊まる場所は愚か、行先なんて考えてもいなかった。
今家に帰ってもあいつが父親面して怒ってくるのは目に見えてる。
最悪殴られるかもしれない。
そうなったら消去法でいうと誰かの家に泊めてもらうことだが、生憎私にそんなことをしてくれるような友達はもういない。
その場に座ってうんうんと唸りながら考え混む。
──────────シャン
不意にそんな音が聞こえた。
私は考え込むのを一度やめて、辺りを見渡す。
神社で巫女さん達が使ってる鈴の音のようなものだった。
でも、この辺に神社はない。
この村自体にはあるが、近くにはなかった。
それに、そんな高価な鈴を個人的に持ってる人なんて中々いない。
何処から聞こえてるかも分からないその鈴の音に恐怖を覚えたが、それ以上に好奇心が勝った。
この後どうしようか悩むより、一定の間隔で鳴り続けるその音の正体が知りたくなった。
私は自分の耳を頼りにして、その鈴がなる方へ歩いて向かった。
先程まで遠くに聞こえていた鈴の音が、次第に大きく、はっきり聞こえるようになったことに気がつき、私はいつの間にか走りだした。
感じたこともないような謎の気持ちの正体が知りたかったから。
走って走って、無我夢中で走り続けた。
途中、視界の端々が段々と黒くなってきて何だか息も続かなくなってきた。
走りすぎてこうなったのだろうか。
だが、不思議と私の走る足は止まることを知らず、そのまま草木がある見知らぬ森で足を踏み外し、勢いよく坂を転がった。
転がる途中、色々な箇所が小さい石等でぶつかる感覚があった。
そして、どこかの木にぶつかって、私の体はやっと止まった。
それから一瞬だけ死にそうな程の痛みが全身を駆け抜けた。
だが、気の所為だったのか分からないが、それはすぐに無くなった。
それに驚き思わず立ち上がると、自分の体を確認した。
本当に不思議で驚いてしまった。
坂から転げ落ちたとは思えない程に、無傷だったのだ。
そして辺りを見渡すと、 私は謎の森に立っていた。
「なに、ここ……」
思ったことが口に出てしまう程だった。
それもその筈、ここら一帯の地理には詳しいつもりでいたが、こんな場所は全くと言っていいほど知らなかった。
無我夢中で走ってここまで来たからと言って、ここまで知らない場所に辿り着く道ではなかった筈だ。
家を出たのが19時前。つまり今は19時程と言える。
その時間帯は時期的に普段は日没だ。
だと言うのに、空は不気味な程に明るい。
夏は日が暮れるのが遅いと言うが、この森は昼のように明るい。
馬鹿な私でもわかる、異常な景色だった。
森の中は虫の鳴き声1つ聞こえない位静かで、気味が悪いこの場所にたった一人でいるという事実がただただ恐ろしかった。
来た道を戻ろうと思い振り返るが、私が転がり落ちたであろう坂なんてどこにも見当たらなかった。
確かに何歩か歩いたが、自分がいる場所が分からなくなる程私は動いてない。
それが元々あった恐怖心を余計掻き立てた。
「だ、誰かいませんかー!」
大声で叫べば誰か来てくれるかもしれない。
そんな淡い希望に縋る思いで私は動かずに叫び続けた。
だが、誰かが来る気配なんてひとつもなくて、泣きそうになる。
どうしてこんな目に遭っているんだろう。
あいつに酷いことを言ったから?
お母さんやお姉ちゃんの言葉を無視したから?
学校にちゃんと行ってないから?
天罰なのだろうか。
でも、そうなっても仕方ないと思う。
私はそれだけの事を今までしてきた。
神様もそんな私に怒りを覚えて、こんな場所に一人彷徨わせてるんだろう。
下を向いてぽつりぽつりとそんな事を考えていた。
うじうじしていてももうしょうがないと思い、顔を上げる。
すると、目の前には少し黄みを帯びた赤の古びた鳥居があった。
全体的にボコボコで、所々朱色の塗装か剥がれていて、鳥居の材料になったであろう木本来の木目が一部見えていた。
さっきまでは何もなかったのに、突然現れたのだ。
先程の坂といい、この鳥居といい、どうにもこの森は不気味だ。
妖怪が住んでいると言われてもおかしくないほどに。
というか、こんな場所に人が住んでいるのだろうか。
もし、ここで私は動かずただ叫ぶだけでいたら、最悪白骨死体で………、。
嫌だ、こんな所で死ぬなんて嫌だ…!
怖いを抑えて、覚悟を決める。
私は鳥居をくぐって歩き出す。
四方八方、どこを見ても草と木が満遍なく生い茂っている。
道という道は無く、草をかき分けて進む。
だが、いくら進んでも景色1つ変わらず、人の気配もなかった。
やはり引き返そうと思い、来た道を戻るために振り返る。
振り返ると、何故か道ができていた。草が避けられて土が見えていたのだ。
先程まで土なんて見えないくらい草や木ばかりだったのに。
謎に続く道を少し歩くと、その先に古びた家を見つけた。
本でしか見れないような大きな家だが、人が住めるような状態ではなかった。
支柱もボロボロで屋根と同じ色の瓦が地面にいくつか落ちていて、壁や柱にはツタが絡まっていた。
色褪せていてツタの成長ぶりを見るに、長い間放置されていたのだろう。
どうしてここにこんな立派な家があるのか、そして何故長い間放置されていたのか……。
理由は全く分からなかったが、ここらでは見たこともない建築物で物珍しさから少し見入ってしまう。
手入れも何もされていなさそうだから、おそらく人は住んでいないのだろう。
というか、こんなボロボロで今にも壊れそうな場所に人が住んでいたら、それはそれでやばい人だろう。
そのくらいボロボロで薄汚れた気味の悪い場所だった。
きょろきょろと辺りを見渡していると、 下からふわっと妙な風が吹いた。
先程まで風1つなかったからそれに驚いていると、何処かから『お、珍しいな』と知らない誰かの声が聞こえた。
その声を聞いて私は辺りを見渡す。
「誰か近くにいるの?!」
声を出して自分の存在を示しながら必死に探し回るが、どこにも人影1つなんてない。
幻聴、だったのだろうか。
でも、ちゃんと聞こえた。
先程の声は現実だと信じたかったが、私の言葉に対しての返事は全くと言っていいほどなくて、それが幻聴だったのではないかという考えが膨らんでいく。
一人はもう嫌。誰か、誰か……!!!
「お願いだから、返事してよ!」
情けなく大粒の涙をボロボロと流しながら、叫ぶようにそう言った。
私の声だけが嫌に森に響き渡る。
本当に、幻聴だったんだ。
その事実に声を荒らげて泣いた。
泣いて泣いて、声が掠れて目の前が歪んで見えるまで泣いていた。
その時だった。
肩に何かが乗っかる感触がした。
思わず、「ひっ、」と情けない声を出した。
きっと、木の枝か何かが肩に落ちてきたのだろうか。
振り払おうと思い肩に視線をやるが、涙で景色が歪んでいてよく見えない。
肩に乗っかった何かを振り払おうとしたその時。
「キミ、道に迷ったの?」
耳元でそう囁かれた。
背中がぞぞぞとする感覚がして、 別の恐怖に私は大きく悲鳴をあげてしまう。
あまりにも突然なそれに、悲鳴をあげるのは当たり前だと思う。
安心と驚きから腰を抜かしてその場にへたり込むと、先程私を脅かした人がケラケラと笑う。
まるで、悪戯が成功した子供のように。
その人は上が淡い黒で、下が赤っぽいグラデーションの男物の着物を着ていた。
帯の色はくすんだような水色で、帯締めが赤い組紐だった。
足首にも赤い組紐が括ってあり小さな鈴が付いていた。それはミサンガのようにも見える 。
目の前の人は靴どころか靴下すら履いていない格好だけど、何故か足に傷一つなかった。
そして、黒い布で目元を隠していた。
老人のような白銀の髪は美しかったが、同時に不気味だとも思った。
手の形は老人のそれでは無かったからだ。どちらかと言うと、私のような子供のそれだった。
彼は私の方に歩いて来て、腰が抜けて地面にへたれこんでる私と目線が会うようにしゃがみ込む。
よく見ると耳に根元が八重菊結びになってる赤いタッセルのようなイヤリングをつけていた。
八重菊結びとタッセルの間には黄金に輝く鈴があり、イヤリングが揺れる度に鈴の音が聞こえた。
口は弧を描いており、それが笑っているのだとわかった。
「そんなに驚かなくてもいいじゃんか〜笑」
目の前の人はクスクスと笑いながらそういった。
『あはは、そんなに驚かないでよ〜笑』
それが、あまりにもあの時と同じ光景で、さっきまであった安心なんて全部消え失せて、心も身体も一瞬のうちに恐怖一色に染まる。
目の前の人から逃げようと思い、立ち上がろうとするが、足の力が抜けて上手く立ち上がれない。
震える手を後ろに後ろにと動かしてお尻を引きずりながらやっとの思いで動ける程だ。
この人は違うかもしれないと思いたい。
だけど、また同じ目に逢いたくない。
その想いが強すぎて、冷静に考えられない。
頭の中にはあの記憶が色濃く、残酷な程に何度も何度も再生される。
傷つけられた場所が痛くなってきて、 呼吸が荒くなる。
されたことが頭をよぎり、悪魔のような嘲笑う声が聞こえてくる。
視界がグラグラと動いて、目の前の人が歪んで見える。
その人は何故か手を伸ばしてくる。
それが殴ってくると思った私は目をぎゅっと瞑って頭を手で押えて痛みに耐えようとする。
だけど、そんな衝撃はいつまでも来ないものだから、私は恐る恐る目を開ける。
先程までいた人は私の傍にいなくて、少し不安が募りきょろきょろと辺りを見回すと、その人は少し離れた所からこちらを見ていた。