テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
そうして、Cielo Serenoでの晴永と晴留の話を聞く限り、今いるこの家は、新沼家が、まだ父親も交えて家族四人で暮らしていたころの家なのだろうと瑠璃香は思っていた。
「……そう。前に話した通り、父さんが角実屋の重圧に耐えきれなくて他所に恋人を作って駆け落ちしたんだ」
「……」
「で、今はそん時の相手と、別に家庭を作ってる」
晴永の言葉に、瑠璃香は何と答えたらいいのか分からなくて押し黙る。
「すまん。こんな話されたら戸惑うよな。けど……もうずいぶん昔のことだから……父さんのことに関しては俺、結構吹っ切れてるんだ。ただ……」
そこで言いにくそうに言いよどむ晴永を見て、瑠璃香は小首をかしげた。
「母さんは違う」
「……お母様?」
「ああ」
晴永は苦笑した。
「母さんさ。今でこそああだけど、若い頃はかなり情熱的だったらしくて」
「情熱的……?」
「そう。父親――つまりは祖父さんが決めた縁談を蹴って、結構ごり押しして父さんと結婚したそうなんだ」
瑠璃香が目を見開く。
「え……」
「要するに、恋愛結婚だな」
なのに、結局は角実屋フーズのことが原因で、別れてしまった。
娘に相応しい結婚相手をあてがおうとして反故にされた盛晴としては、『そら見たことか』だったのではないだろうか。
(きっと清香さんは、そのことをお父様からさんざん責められてきたよね……)
だから、だったのだ。
――『お父さんはきっと、私のことを引き合いに出してくるでしょうから……その時はちょっとだけ口出ししてもいい?』
晴永がスピーカーにして、瑠璃香にも聞こえるように掛けてくれた電話で、清香の言ったセリフが脳裏によみがえる。
それは、とても静かな声音だった。
けれど、その言葉には確かな意志があった。
……盛晴が晴永に許嫁との結婚を強く勧める理由は、そこにあるのだろう。
瑠璃香にも、晴永が祖父と対峙するにあたって、母親の同席を求めた理由がやっと分かった。
(清香さんも、晴永さんと同じように誰かを選んだ人なんだ……)
自由恋愛での結婚に失敗したという清香の出方次第で、晴永の戦況が大きく左右される気がした。
***
しばらくの間、リビングには雨音が響いていた。雨脚がまた強くなったのかもしれない。
なまこが回し車を回す音が、まるで効果音みたいにそこへ混ざる。
瑠璃香は晴永の隣へ身体を寄せたまま、ぼんやりとテーブルの上を見つめていた。
清香のこと。
盛晴のこと。
そして、明日から始まるであろう話し合いのこと。
考えれば考えるほど不安は尽きない。
けれど――。
「瑠璃香」
名前を呼ばれて顔を上げる。
「はい」
晴永は少しだけ迷うような顔をしていた。
珍しい。
普段の彼なら、言いたいことはもっと真っ直ぐ口にするからだ。
「……今日」
「?」
「避けられてた分、補充させて欲しい」
一瞬、意味が分からなかった。
鷹槻れん

157
鷹槻れん

68
コメント
2件
きゃー、はるながさんったら補充とかっ。 なにをするつもりかしらー!?♥
いやあ、このエピソード、家族の過去と現在がぎゅっと詰まっていて、すごく沁みましたね。清香さんが恋愛結婚で失敗した過去を持ちながら、それでも晴永さんの選択を支えようとしているのが胸に刺さります。「あなたも私と同じように誰かを選んだ人」という瑠璃香の気づき、本当にその通りだと思いました。 そしてラスト、「避けられてた分、補充させて欲しい」って…! 急に甘やかしモードに入る晴永さんに心臓をやられました。困惑する瑠璃香の気持ち、すごく分かります(笑)。次の展開が待ち遠しいです!