テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
朝の電話は、いつもよりずっと弱々しかった。
「……ターボーごめん。今日休ませてほしい……」
受話器越しに聞こえる声は鼻にかかり、時折混じる咳が酷く、体調の悪さを物語っていた。
息も浅く、言葉の合間に小さく空気を探すような音が混ざる。
「無理するな。しっかり休め」
本当はそれだけじゃ足りなかった。今すぐ仕事を放り出してでも、あの小さな身体を抱きしめに行きたかった。
けれど今日はどうしても外せない会議がある。
ターボーは電話を切ったあと、暫く動けなかった。
(……くそ)
机に置いたスマホを見つめながら、奥歯を噛みしめる。
——あいつ、ちゃんと寝てるか。水は飲んでるか。一人で大丈夫か。
心配は尽きない。
それでも社長としての責任が足を縛る。無理矢理気持ちを切り替え、ジャケットを羽織った。
会社に着いてからのターボーは、誰が見てもわかるほど機嫌が悪かった。
「……社長、資料の確認を——」
「あとにしろ」
短く切り捨てる声は低く、空気を震わせる。
秘書が小さく肩をすくめ、周囲の社員達は視線を交わしながらひそひそと囁き合う。
「今日、社長やばくね?」
「絶対なんかあったよな……」
「羽立さん風邪で休みらしいよ」
「あー……それか」
「まあ羽立さんいないと寂しいのはわかるよな」
その一言に、ターボーの視線がピクリと動いた。雑談していた男性社員達をじろりと睨みつける。一瞬で空気が凍る。
「……仕事しろ」
低く落とされた声に、全員が慌ててデスクへ戻った。
——ちょんまげの名前を軽々しく口にするな。
胸の奥で、独占欲に似た感情がざらりと広がる。
(俺のだ)
そんな思考に自分でも少し苦笑する余裕もないほど、今日は余裕がなかった。
会議は長引いた。時計を見る度に苛立ちが募る。頭の中に浮かぶのは、ベッドでひとり丸まっているであろうちょんまげの姿ばかり。
ようやく全てが終わった頃には、外はすっかり夜になっていた。
帰り道、ターボーはドラッグストアとコンビニに寄った。
ゼリー飲料、消化にいいスープ、スポーツドリンク。冷えピタ、解熱剤、体温計。
袋はすぐにいっぱいになった。それでも不安で、少し多めに買い足す。
ちょんまげの家の前に立つと、心臓が妙に早くなった。合鍵で静かに扉を開ける。
「ちょんまげ?」
部屋は静かで、明かりも薄暗い。寝室へ足を向けると、ベッドの上に小さな塊があった。毛布にくるまり、身体を丸めている。
「……おい」
声をかけると、ゆっくりと動いた。
顔を上げたちょんまげは、頬が赤く、目が潤んでいた。
「……ターボー……?」
掠れた声。息が少し苦しそうで、胸が上下する度に喉がひゅ、と鳴る。その弱った姿が、やけに無防備で——
(……何考えてんだ、俺)
一瞬よぎった不謹慎な感情に、ターボーは眉をしかめた。
しかし次の瞬間——
「ターボー、きて……」
小さな手がこちらへ伸びる。その仕草は子どもの頃と何も変わっていなかった。
親を早くに亡くし、ずっとひとりで耐えてきたやつ。強がって、でも大人になっても時々こうして寂しさを隠せなくなる。
ターボーは迷わずベッドに腰を下ろし、その身体を抱き寄せた。ちょんまげの小さな身体はすっぽりと腕の中に収まる。
「……遅くなって悪い」
「ううん……来てくれたから……いい」
額が胸に押し当てられる。体温が高い。苦しそうな呼吸が、シャツ越しに伝わってくる。
「俺がそばにいる」
低く、ゆっくりと言い聞かせるように。背中を撫でると、ちょんまげは力を抜いて身体を預けてきた。
「……さみしかった」
「ごめんな」
「朝から、ずっと……」
「もう大丈夫だ」
暫くそのまま、静かな時間が流れた。ちょんまげの呼吸は少しずつ落ち着いていく。
ハイハイ
49
#ターボー
すいみー
545
#良いこと悪いこと
すいみー
33
ハイハイ
30
そして、腕の中でふと顔を上げた。潤んだ瞳が真っ直ぐターボーを見上げる。
「……キス、して」
「……熱あるだろ」
「おねがい…」
弱々しく、それでもどこか甘えるような声。
ターボーは一瞬迷った。だが、その距離はもうゼロに等しかった。額に軽く触れるようなキスを落とす。
「……それじゃ足りない」
小さく不満をこぼす。
「わがまま言うな」
そう言いながらも、結局折れる。
唇にそっと触れた。柔らかくて、少し熱い。ほんの一瞬のつもりが、離れがたくなる。
「…はぁっ」
ちょんまげがかすかに息を漏らし、指でターボーの服の裾を掴んだ。
ゆっくりと離れると、目がとろりと緩んでいた。
「……安心した」
「そうか」
「ターボーいると…平気」
その言葉に、胸の奥がじんと熱くなる。
「……当たり前だろ」
もう一度、強く抱きしめた。
「これからもずっと、そばにいる」
ちょんまげは小さく頷き、そのまま安心したように目を閉じた。規則正しい寝息が、やがて聞こえてくる。
ターボーはその髪を撫でながら、静かに息を吐いた。
(……やっと、掴んだ)
幼い頃から、ずっとそばにいた存在。
失いかけて、やっと取り戻した距離。
もう二度と、手放す気はなかった。